「事業仕分け」の中継を見て思うこと。

 本のことしか書かないことにしているこのブログですが、今日は違うテーマのことを書きます。私の思いを一番たくさんの方に知ってもらえる場がこのブログなので。本の話題を読みに来られた読者の皆さんには申し訳ないです。
 今日書きたいことは、連日報道されている「事業仕分け」のこと。その様子を中継で見ていると、気分が落ち込みます。「来年度の予算を何とかして縮減しよう」という目的の作業だから仕方ないのだけれど、何かを止める話ばかりで...

 例えば、ニュースで「仕分け人があきれる」と報道された「携帯メールで就職相談」、正式には「キャリア・コンサルティングによるメール相談事業」は「廃止」となりました。1日50件のメール相談に32人で対応する人件費が1億円だそうです。
 相談員1人当たりでは、1日2件弱のメール相談に対応するのに年間312万円という計算。これはトンデモナイ。と多くの人が思ったようで、事業仕分け会場も失笑が響き、仕分け人も笑いながら質問するありさまでした。
 ムダな予算が無くなって良かった、と一見何の問題もないようですが、私はここには落とし穴があるように思うのです。なぜ「廃止」なのか。件数が費用に見合わないことが問題であれば見合うようすればいいのであって「廃止」が対策ではないはずです。
 1億円が高いのであればいくらならいいのか?1日50件が少ないのであれば何件ならいいのか?そういう議論をすべきです。(仕分け人から「1人1日100件」なんて発言はありました。でも、これは思慮が足りなさすぎる。1日8時間として1件の相談に5分弱。そんなおざなりな相談業務がいいとは思えません。)

 もちろんこの事業が無意味なのものなら「廃止」すればいいです。しかし初年度の昨年度実績で11,960人が利用して9割が「満足」と答えている事業です(どのような調査、統計かは不明ですが)。そして今年度は目標15,000人以上で、実績は前年より利用者が大幅に増える見込みだそうです。来年度はさらに..ということでしょう。
 こうなると無意味とは言えない。来年度にこの事業がなくなれば、相談できるはずだった15,000人超の人はどうなるのかという問題も出てくる。その人の立場になって考えると、笑いながら「廃止」と決める仕分け人に怒りさえ感じます。
 300百万人以上いる失業者の内の1.5万人は、0.5%以下かもしれないけれど、人を「割合」で見てしまうのは現場から遊離した「お上」的視点です。目の前の一人一人の問題解決の積み重ねでしか、300万人を救う道はない、という思考が必要だと思います。
 そして、司会者は「民間やハローワーク、厚労省の職員が業務の間にやったらどうか?」なんておっしゃってましたが、これは無責任だと思います。元市長の仕分け人は「若者を支えて、カウンセリングをして支えている人たちが、どんな費用でどれだけ頑張っているか、現場に行ってくださいよ!」と憮然としておられました。厚労省の能天気さに苛立つ気持ちは分かりますが、この事業を廃止するとそういった現場の皆さんの負担が増えてしまうはずです。

 実は私は以前から「費用対効果」という言葉を予算削減の目的で使うことには懐疑的です。もちろん官僚や自治体のお金の使い方に「費用対効果」の考えが乏しかったのは確かでしょう。その点は改める必要があります。
 しかし、この指標は分母となる「費用」はゼロに近いほどいい。「効果」を増やす着眼点を持たないで、予算(つまり費用)削減という目的が前提となれば、最も効果が費用を上回る1事業だけを残して他は全部止め、という時にこの指標は極大値となり、予算削減の目的とも合致します。
 つまり「費用対効果」を絶対視して政策決定を推し進めれば、最小限のことしかしない「小さな政府」が生まれます。これを進めた小泉政権の政策の反省から生まれたはずの現政権が、さらに小さな政府を指向しているとは思えないのですが、そうなる危険が大きい。
 私が感じた「落とし穴」は、言い換えれば、このように大方の思いとは正反対の方向で物事が進んでいるのにそう気が付かないでいるのではないか?という心配です。皆さんはどう思われますか?

※(2009.11.18追記)11月17日から、この記事への検索エンジン経由でないアクセスが急増しています。どこかでリンクが紹介されているのでしょうか?心当たりのある方は、コメントかメールでお知らせいただけるとうれしいです。

「事業仕分け」の中継を見て思うこと。”についてのコメント(1)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です