7.オピニオン

News Diet(ニュース ダイエット)

著 者:ロルフ・ドベリ 訳:安原実津
出版社:サンマーク出版
出版日:2021年2月20日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

とても意外な指摘だったけれど、少し前から思っていたことと重なることもあった本。

著者の主張または提案は次のとおり。「生活からニュースを絶とう」。新聞を購読しない、テレビのニュースも見ない、ラジオのニュースも聞かない、ネットニュースに浸らない。そうすれば人生の質が向上し、思考は明晰になり、貴重な洞察が得られ、いらいらすることが減って、決断の質が上がり、時間の余裕ができる。そして信じられないかもしれないけれど、大事な情報を逃すこともない。

そんなバカな、と思った人も多いだろう。私もそうだ。善き市民として暮らし的確な判断をするためには、ニュースを見たり読んだり聞いたりして、世の中のことを知る必要がある。長い間そう思ってきた。しかし、そんな私でも、本書に書いてあることには反論の余地なしだ。(心から納得したかというと、そうでもないけれど)

ここまでの紹介でだぶん誤解があると思うので、1つ大事なことを。著者はニュースの対極に位置するものとして「新聞や雑誌の長文記事、エッセー、特集記事、ルポルタージュ、ドキュメンタリー番組、本」を挙げている。著者が絶とうと言っているのは、その日の出来事を短く報じる「最新情報」的なニュースのことだと分かる。決してジャーナリズムを否定したり、世の中の出来事を知らなくていいと言ったりしているわけではない。

そんな(最新情報としての)ニュースを絶った方がいい理由を、たくさん紹介している。一番分かりやすいのは「能力の輪」の例えによる説明だ。人は誰でも能力の限界という境界があって、その境界の外にある事柄には関与できないし対応もできない。どこかの国の大統領がバカなことをツイートしたと知っても、あなたにできることはない。そう考えると、ニュースの99%は、あなたとは無関係だというわけ。

もうひとつ。著者は現状を「日々のニュースの食べ放題」と言う。ニュースは「一口サイズのごちそう」で、砂糖のように食欲をそそり、消化もしやすいが、(摂りすぎると)きわめて有害でもあると(この意味でタイトルにある「ダイエット」は適確な表現だ)。例えば複雑な出来事を単純にしてしまうとか、ニュースが「思考」を妨げるとか、長い文章が読めなくなるとか。このことはこれからもニュースを見るとしても、心にとめておきたいと思う。

もちろんいくつか反論を思いつく。著者はそういったことの多くに先回りして用意をしている。反論を思いついた人は読んでみるといいと思う。もちろん「ニュースを絶った方がいい」と思った人も、ニュースダイエットのおだやかな始め方が書いているので参考にするといいと思う。

 

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仕事を楽しむ整える力 人生を自由に面白くする37の方程式

著 者:樫野孝人
出版社:CAPエンタテインメント
出版日:2021年5月28日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 図らずも自分の来し方と行く末を思うことになった本。

 著者の樫野さんはリクルートに入社し、人材開発部→キャンパスマガジンの編集長→福岡ドームに出向→メディアファクトリーで映画製作→ヘッドハンティングでITベンチャーの社長→神戸市長選に出馬(2度落選)→地域政党を結成・兵庫県議会議員を1期、現在は大学のMBAの客員教授を務めておられる。上昇志向と大胆さを感じさせるキャリアだけれど、本書によるとこれで「半歩ずつ」の転向なのだそうだ。

 本書は、そんな著者が歩んできたキャリアの道程で得た「仕事を楽しくする」ひいては「人生を自由に面白くする」方程式を、37個の項目に分けて紹介する。「方程式」は「コツ」とか「考え方」と言い換えてもいいかもしれない。例えば第2章「心の状態を整える」には、「天職(やりたい仕事)よりも秀職(人より上手にできる仕事)を探す」とか「変化するのは怖いけど、試してみるのはみんな大好き」といった膝を打つ言葉がたくさん並ぶ。

 著者は、それぞれの方程式を実例付きで紹介する。読めば著者の半生が分かるぐらいに具体的だ。本の主旨からして「成功した実例」が多いのだけれど、ちょいちょい「挫折」経験が挟まれていて、それがリアリティを引き上げている。実は私は著者と同い年。同じ年に社会人となり、同じ時代を生きてきたわけで、詮ないこととは知りながら、自分が来た道と引き比べてしまう。

 まぁ30代でITベンチャーの社長にヘッドハンティングされる半生と比べると、どうしても引け目を感じてしまう。その負け惜しみも一因としてあって
、全体的に「頑張りすぎ」な感じがする。そんなに頑張らなくても、それなりに楽しくやっていける。

 ただし、本書の対象読者は20代30代(著者の大学生の娘さんを含む)の人。人生の先輩から後輩に贈る言葉としては、このくらいのポジティブさが必要だろう。それに著者の本意は「頑張って上を目指せ」ではなくて「仕事を自分で面白くする」ことのススメで、若者に伝えたい大事なことだと思う。また一カ所「方程式…いや肝だと思う」とちょっと踏み込んだ締め方をした項目がある。それは「自分をきちんと公平公正に評価してくれる環境を選ぶ」ということ。このことは私も自分の娘に言いたい。

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ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論

著 者:デヴィッド・グレーバー 訳:酒井隆史、芳賀達彦、森田和樹
出版社:岩波書店
出版日:2020年7月29日 第1刷 9月15日 第4刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 これだけ技術が発達して自動化が進んだのに、ますます忙しくなるのはどうしてか?その理由を「やっぱりそうか」と思った本。

 ブルシット・ジョブを本書はこう定義している。「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態。その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている」。定義のそれぞれの記述には意味がある。しかし、サブタイトルの「クソどうでもいい仕事」という理解でも、まぁ本書の理解のためには大差ないと思う。

 著者のデビッド・グレーバー氏は、2013年にあるウェブマガジンに小論を寄稿した。今でも読むことができる(On the Phenomenon of Bullshit Jobs)。冒頭を要約する。 

 ケインズが20世紀末までにイギリスやアメリカのような国では、テクノロジーの進歩によって週15時間労働が達成されるだろうと予測した。テクノロジーの観点からは完全に達成可能であるのにも関わらずそうならなかった。それは、私たちを働かせるために実質的に無意味な仕事が膨大に作り出されたからだ。

 この小論は爆発的な反響を生み出し、数週間のうちに十数か国語に翻訳され、メディアでの論議が沸騰し、イギリスの世論調査会社が著者の仮説の検証のための調査を行うに至った。また著書自身もブルシット・ジョブの体験談を募集した。この調査結果と体験談の分析が本書のベースとなっている。

 400ページを超える大部の書籍で、前半は事例の紹介が繰り返されて、いささか食傷気味になるけれど、後半はデータを基にした緻密な文化人類学者らしい考察で引きつけられた。また、ブルシット・ジョブ解消の考察としてベーシックインカムが議論されるけれど、的を射たものだと思う。

 ここでは前半の早いうちに(食傷気味になる前に)提示される「ブルシット・ジョブの主要五分類」を紹介する。

 (1)取り巻き(Flunkies):だれかを偉そうにみせたり、偉そうな気分を味わわせる仕事。(2)脅し屋(Goons):ロビイストや企業の顧問弁護士など脅迫的な要素を持っている仕事。(3)尻ぬぐい(Duct tapers):組織に欠陥があるために存在している仕事。(4)書類穴埋め人(Box tickers):表向きの目的の達成になんら寄与しない書類づくりの仕事。(5)タスクマスター(Taskmasters):他人への仕事の割り付けだけからなる仕事。

 日本語訳がこなれていないためか、分類の名前だけではピンとこないものもあるけれど、著者の説明を読めばよく分かる。

 私の仕事の一部は紛れもない「書類穴埋め人」だ

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デジタル・ミニマリスト

著 者:カル・ニューポート 訳:池田真紀子
出版社:早川書房
出版日:2019年10月15日 初版 2020年7月15日 3版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 読んでさっそくTwitterを開くのを1週間に1回だけにした本。

 本書は「デジタル・ミニマリズム」の基礎となる概念や実践の方法を説明したもの。「デジタル・ミニマリズム」は本書の中で定義がある。

 「自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、ほかのものは惜しまず手放すようなテクノロジー利用の哲学」

 つまりは、デジタルツールの利用は自分で選んだ本当に必要なものだけにして、できるだけ少なく(ミニマムに)しよう、ということだ。そして、こんなことをわざわざ言うには前提がある。私たち(の多くは)、SNSやニュース、ストリーミングメディアなどのデジタルツールを使いすぎているのだ。

 もちろん人によって違うけれど、本書が引用した調査によれば、Facebookの「平均的なユーザー」は、ソーシャルメディアと関連サービスに1日2時間を費やし、スマートフォンなどのデバイスを85回もチェックする。しかし、本当に問題なのは時間や頻度ではない、ユーザーがデジタルツールの利用のコントロールを失いつつあることだ、と著者は言う。

 それには「承認欲求」と「間歇強化」という人間の心理が関係している。「承認欲求」は言わずもがな。「間歇強化」とは、報酬を予期せぬパターンで与えられると喜びが大きくなる、というものだ。「いいね!」されているかも?コメントが付いているかも?その期待は、叶う時も叶わない時もある。まさに「予期せぬパターンの報酬」だ。

 スマホの新着を占める赤い丸数字(赤い色にも心理的な意味がある)を見るとチェックせずにはいられないのは、そういう心理的な理由だ。人間の心理に基づく行動だから、これに抗ってコントロールするのは難しい。さらに留意すべきなことは、この状態はサービス提供企業が意図して作り出している。もう私たちはサービス提供企業に操られているも同然だ。

 SNSを使わないと「でも何か役に立ちそうな情報を見逃してしまうかもしれないでしょう?」と不安を口にする人が多いらしい。それに著者はこうコメントしている。

「使ってみなよ、意外なメリットがあるかもしれないから」というのは、商品の売りこみ文句として史上最悪の一つに違いない。

 ごもっともで。

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認知バイアス 心に潜むふしぎな働き

著 者:鈴木宏昭
出版社:講談社
出版日:2020年10月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 少し知ってはいた「認知バイアス」だけれど、これを軽視すると大変なことになる、と思った本。

 「認知バイアス」とは、本書の冒頭で「心の働きの偏り、歪み」と説明がある。言い換えると「実際にはそうではないのにそう思ってしまう心の働き」。例えば、直近の5年で少年による重大な事件数は変わらないのに、「増えている」と考える人が8割いる(2015年内閣府調査)。そこには「認知バイアス」が潜んでいる。

 認知バイアスを引き起こすものの一つが「ヒューリスティック」。経験則によって「ある程度正解に近い解」を見つけ出すための方法のこと。注目すべきは見つけ出すのが「ある程度正解に近い解」であて「正解」ではないことだ。「利用可能性ヒューリスティック」とか「代表性ヒューリスティック」とか、いくつか種類がある。

 「利用可能性ヒューリスティック」は、「思い出し(思いつき)やすいことは頻度が高い」と判断するクセのこと。何度も起きたことは記憶に残るので、ある程度合理性はある。ただしメディアが発達して、自分が経験していないことも知ることができる現代は弊害も大きい。何度も起きていなくても、何度も聞いたことも思い出しやすい。私たちは「起きた回数」と「聞いた回数」を区別していない。

 「代表制ヒューリスティック」は、ある集団の代表例を平均的な特徴(プロトタイプ)と思い込むクセのこと。例えば「平均的」を割り出せるほど付き合いが多くない人が、ニュースやネットで見聞きする「韓国人」を、韓国の人々の平均像と思い込む、というようなこと。言うまでもなくニュースは「特異なこと」を報じるのだから、報じられたことは平均からは逸脱している、にも関わらず。

 本書には「ヒューリスティック」以外にも、様々な認知バイアスを招く思考のクセについて書いてある。最後に「「認知バイアス」というバイアス」という章もあって、「認知バイアス」という考え方自体に潜むバイアスに言及していて、類書にはない著者の一段高い視点を感じた。

 直接的な言及はほとんどないのだけれど、新型コロナウイルスに対する私たちのありように、本書はとてもたくさんの示唆を含んでいる。著者にもそのような意図があったのではないかと、私は思っている。

 連日の報道で「利用可能性ヒューリスティック」を集団的に発動していると思うし、感染を気にしないで出歩く若者のインタビューを見て「若者はけしからん!」と憤るのは、「代表制ヒューリスティック」のあらわれだと思う。また、責任の分散による無責任のこととか、「検査による偽陽性」を論じたコラムなどもあって、コロナ禍の社会にピタリとはまっている。

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「居場所」のない男、「時間」がない女

著 者:水無田気流
出版社:筑摩書房
出版日:2020年5月10日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 わが身を省みて、将来に備えて「関係を構築」しなければ、と思った本。

 タイトルから「話を聞かない男、地図が読めない女」のような、「男女の振る舞い」の違いをもっともらしく書いた、軽い読み物を想像して手に取った。しかし本書は、それとは違って「男女の境遇」の違いを統計や調査研究を引きながら重いテーマをしっかり論じたものだった。ここには何年も前から認識されながら、一向に改善しないこの国の問題が、明瞭な輪郭をもって切り取られている。

 ごく簡単に言うと「「居場所」のない男」というのは、男性が会社(仕事)以外の場所での関係が築けていない「関係貧困」のことを言い、「「時間」がない女」というのは、女性が1日のうちでも人生という長い時間軸でも、スケジュールに余裕がない「時間貧困」のことを指す。本書は3部構成で、第1部で男性の「関係貧困」、第2部で女性の「時間貧困」を検証・解説し、第3部でその解決のための考察をしている。

 「男性」に付言すると、関係が築けていないのは「頼れる人がいない」ことを示す。仕事から離れてしまうと「相談できるのは妻だけ(相談できる内容に限るけれど)」という状態に陥る。もちろん結婚しなければ妻はいない。先立たれても妻はいない。その結果と思われるが、日本の男性は女性の2倍以上も孤独死し(2017年 東京都23区の統計)、おなじく2倍以上自殺している(2018年 内閣府統計)。

 「女性」について言うと、本当に余裕がない。男性が思っているより数段忙しい。著者は「結婚してキャリアも積んで34歳までに子どもを2人ぐらい」という「モデルコース」を設計しているが、何歳までに○○という計画に追われて、息が詰まる思いがする。1日のスケジュールを見ても、特に母親になると、家族に対するケア労働(労働とみなされないことが多い)のために、家族が起きている間中スタンバイ状態になる。

 それで男性の「関係貧困」と女性の「時間貧困」は関連している。これもごく簡単に言うと、男性が「関係貧困」でも暮らるのは、女性から時間を奪っているからで、これが「時間貧困」の原因の一つになっている。だからこの問題は両方同時にしか解決しない。それなのに「女性活躍推進」に代表される政策の数々は、男性の問題を置いたままに、この上さらに女性の時間を資源として使おうとしている。...嘆息。

 何気なく手に取った本だけれど、いい本に出合った。

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なぜ読解力が必要なのか?

著 者:池上彰
出版社:講談社
出版日:2020年11月18日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「読み解く力」は「文章を読む力」だけではないんだな、と分かった本。

 タイトルの「なぜ必要なのか?」については、第1章のタイトルで「読解力を伸ばすと生き方が変わる」と、答えがほぼ出ている。その答えを踏まえて第1章では、読解力がある/ないの例を挙げて補足をする。第2章では「読解力」を「情緒」と「論理」の2つに分けて論じ、残りの第3~5章で「読解力」の付け方の指南を、視点を変えながら行う。

 特徴的だな、と思うのは「読解力」を「情緒的読解力」と「論理的読解力」に分けたこと、そして「情緒的読解力」の方を重視していることだ。「論理的読解力」は、評論などの「論理的な文章を読み解く力」、「情緒的読解力」は、文学作品などの「情緒的な文章を読み解く力」。同じ文字が使いまわされているだけで、情報量の少ない説明で恐縮だけれど、イメージはつかめると思う。

 著者が「情緒的」に肩入れするのは、「論理的に比べて軽視されているように思う」ことが主な理由ではあるけれど、「情緒的読解力」を「人間力」と言い換えるほど重視している。「自分とは違う「他者」の思いや考え方を汲み取る」ことであって、これを学ぶ場が失われるとすれば危惧すべき事態だ、と言う。

 「なるほどそうか」と思う。私も「情緒的読解力」を軽視していた。それを気づかせてくれたのは、本書を読んでよかったことの一つだ。

 ただ私は「「論理的読解力」だけでもなんとかしないと」と思っている。文章を読んで、書いてあることを書いてある通りに理解してほしい。最近は動画のマニュアルが増えたけれど、それでも新しいや知識や方法は文字から得ることが圧倒的に多い。それが読み解けないと、新しいことが身につけられない。いやいやそんな高尚なことでなく、メールやSNSの文章を、書いたとおりに読んでくれないことが多くて困っている。

 数学者の新井紀子さんが「中学を卒業するまでに、中学校の教科書を読めるようにすることが公教育の最重要課題」とおっしゃっている。作家の佐藤優さんも「中学3年生までの国語学習を完璧に理解すれば、読解力は高等教育もそれで足りるし、社会に出ても耐えうるレベル」とおっしゃっている。これらはたぶん「論理的読解力」を身につけることについておっしゃっているのだろうと思う。

 最後に印象的な部分を。

 「教養がない」人とは、「知識が自在に操れていない」人だと言えるでしょう。安倍前首相は...

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人新世の「資本論」

著 者:斎藤幸平
出版社:集英社
出版日:2020年9月12日 第1刷 11月10日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 冒頭の一言が「SDGsは「大衆のアヘン」である!」という挑発的な言葉で、その挑発に乗って読んでしまった本。

 この言葉を補足する。国連や各国政府が掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」に沿って行動しても気候変動は止められない。温暖化対策として人々がやっているレジ袋削減やマイボトルの持参などの「善意」は、それだけでは無意味に終わる。「やっている」と思い込むことで現実の危機から目を背けることになる。つらい現実の苦悩を和らげる麻薬のように、という含意。ちなみに「大衆のアヘン」はマルクスの言葉の引用だ。

 じゃぁどうすればいいの?ということになる。本書を乱暴にまとめると「気候危機を回避して地球が人が住み続けられるようにするためには「「脱成長コミュニズム」しか解がない」という主張をしている。コミュニズムとは共産主義のこと。対語として資本主義がよく使われる。日本は資本主義の社会で、資本主義=善、共産主義=悪、と捉える向きかある。「善と悪」が言い過ぎなら「明と暗」でもいい。

 もう少し世事に長けた人なら、こういう印象だけでなく「ソ連や東欧の共産圏の失敗を見れば、共産主義なんてうまく行かないのは明らかじゃないか」と言いそうだ(私もそう思った)。しかも著者は「マルクスを呼び起こそう」なんて言っている。私が経済学部の学生であった35年前でも、マルクスの思想を実用に供しようという考えは稀有だった。

 という反応は著者も十分に承知している。それでもなお「それしか解がない」と分かってもらうために、著者は新書にしては厚い約360ページの本を書いたのだ。(ちなみに、本書を読み終えるには、それなりの忍耐とオープンマインドな姿勢が必要だと思う。マルクスを持ち出したのがよかったのかどうか?今でも疑問だし。)

 読む前は「うまく行かないのは明らか」と私も思っていた。読んだ後は「著者の言うことはとても説得力がある。困難ではあっても、うまく行くかもしれない」と思った。世界にはその芽がすでに芽生えている。著者が紹介するそれらの芽に、よく似た事例は私の身近でも起きている。

 最後に。著者の主張は「脱成長コミュニズム」。「脱成長」の部分がとても大事。私が「うまく行くかもしれない」と思ったのも、「脱成長」に共感したから、という要素が大きい。ここでいう「成長」は「経済成長」のことで、多くの国の重要政策になっているけれど、「経済成長」が「豊かさ」をもたらさず、むしろ「欠乏」を招いている。そのカラクリは本書にも書いてある。それならば「成長」なんていらないではないか。私はそう思う。

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不平等と再分配の経済学

著 者:トマ・ピケティ 訳:尾上修悟
出版社:明石書店
出版日:2020年2月28日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 分量を目算して軽い気持ちで手を出したら、読むのがけっこうたいへんだった本。

 著者のトマ・ピケティさんはフランスの経済学者で、数年前に「21世紀の資本」という著書が世界的なベストセラーになって、日本でも知られるようになった。その本は、注釈を含めて700ページを超える大書で、告白すると、私は読み通すことができなかった。本書は200ページあまりで「これならば...」と思って読んでみた。

 本書のテーマは、「不平等」と「再分配」によるその解消。

 本書で扱う「不平等」は大きく2つで、「資本」と「労働」の間の不平等と、「労働所得」の不平等。前者は、機械や設備などの「資本を持つ資本家」と「労働力を提供する労働者」の間の不平等。後者は、高賃金の労働者と低賃金の労働者の間の所得の不平等だ。

そして「再分配」も2つ。「直接的」再分配と「財政的」再分配。前者は、不平等で劣位にある労働者や低賃金の労働者の「賃金を増やす」方法で、後者は、一旦課税によって資本家や高賃金の労働者から徴収して、それを劣位にある労働者に分配する方法。

 本書は、この2つの「不平等」のそれぞれについて、どちらの「再分配」が望ましいのかを、国別のマクロな統計を駆使して検討する。

 ページ数に比して読むのに時間のかかる本だった。元の文章がそうなのか、訳文がそうなのか(「訳者解題」を読むと両方の可能性がある)、複雑な構造の文章で、理解するのに集中を要する。

 「このような~」「これらの~」と、前の段落を受けての深堀りが繰り返されるのはまだしも、「しかし...ところが...」と「逆接の逆接」があったり、けっこう長い論説の最後に、「しかしこのことが...実現されるとは考えられない」と否定してみたり。(関西人なら「考えられへんのか~い!」とツッコむと思う)

 最後に、本書のテーマとは別に感じたことを。統計による国際比較をしているのだけれど、英国や米国(著者は「アングロ・サクソン諸国」と称している)と、フランスではずいぶん様子が違い、ドイツもまた違う(日本にはほとんど触れられない)。日本語に訳される海外の経済書は、おそらく圧倒的に米国(か英国)のものだと思う。国によってこうも違うのであれば、この偏重は問題だと思った。

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政治家の覚悟

著 者:菅義偉
出版社:文藝春秋
出版日:2020年10月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆(説明)

「ひどいことが書いてあるから読んでみて」と変な薦められ方をして読んだ本。

菅義偉首相が2012年に刊行した同名の書籍の第一章、第二章を再収録し、官房長官時代の文藝春秋のインタビューを加えた新書。元の書籍にあった「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」などと民主党を批判した第三章、第四章を収録しなかったことで話題になった。

「あったものがなくなる」のは理由があるからで、その理由を詮索したい気持ちは分かる。というか私にもある。でもここでは、この本の中に「ないもの」ではなくて「あるもの」について書く。

菅首相について巷間言われる「人事を使った強権的な姿勢」「グランドデザインがない」ということを、改めて感じる内容だった。

例えば、第一部第六章のタイトルは「「伝家の宝刀」人事権」だ。総務大臣時代に「大臣はそういうことをおっしゃっていますが、自民党内にはいろんな考え方の人もいますし、そう簡単ではない」と会議で発言した課長を更迭している。「質問されてもいないのに一課長が勝手に発言するのは許せない」と押し切ったそうだ。

更迭した官僚がいる一方で、「この人はよく頑張っているな」と思ったノンキャリア官僚を、何階級も飛ばして局長に抜擢したりもした。その他にも日本郵政の総裁人事、NHK会長と経営委員、内閣法制局長官などの人事に介入したことが書かれている。「伝家の宝刀」なのに抜きすぎだ。思い通りにコトを進めるのに人事を使うことが常態化している。

「グランドデザインのなさ」について。本書全体が「自慢話」の集積で、それはまぁいいのだけれど、その多くがなんだか小じんまりしている。知事の退職金が高すぎる、地方の公務員の給与が高い、テレビ局の社員の給与も高い、携帯電話会社の利益率が高い。本来は政府が関与することではないけれど、「国民の当たり前」を実現する、と言って下げさせようとしたり、本当に下げさせてしまったりする。

確かに「あいつら儲けすぎてんじゃないのか?」という不満を持つ国民は多そうで、そういう人の溜飲をさげることにはなるだろう。でも、儲かっている人の収入を削っても、その他の人の暮らしが良くなるわけではない。暮らしをよくするための政策が書かれているわけでもない。

最後に。寒気がした一節を。

官僚は、大臣が先頭に立って事案の処理に向かう姿勢を見せると、「自分たちのトップは自分たちで守る」組織防衛本能を発揮させて、フル稼働してくれます。

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