7.オピニオン

新型コロナウイルスの真実

著 者:岩田健太郎
出版社:KKベストセラーズ
出版日:2020年4月20日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 やっぱり「本当の専門家」の話を聞くことが大事だよね、と思った本。

 「新型コロナウイルスのことを何か言うなら、これを読んでからにしよう」と言われて読んでみた。

 著者は神戸大学大学院医学研究科の教授。北京でSARSやアフリカでエボラ出血熱の臨床を体験している、感染症の専門家。今の状況下ではその知見はとても大切にされてしかるべきなのに、なぜか評価が分かれている。「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗り込んで2時間後に追い出された、という「事件」についての評価が分かれているからだ。(その事件のことも本書に詳しく書いてある)

 本書は5章立て。第一章「コロナウイルスって何ですか?」、第二章「あなたができる感染症対策のイロハ」。この2つは、著者の知識と経験による専門的知見だ。第三章「ダイヤモンド・プリンセスで起こっていたこと」。これは、あの船の中の状況を専門家の視点で伝える貴重な記録。将来の検証に必要なものだと思う。

 第四章「新型コロナウイルスで日本社会は変わるか」、第五章「どんな感染症にも向き合える心構えとは」。この2つは、社会とか人間の心理についての著者の意見で、他の章と比較すると「専門外」と言える。「専門外」であることを認識した上で、私はこの2つの章に強く惹きつけられた。そして、それとともに感染症対策の困難さを感じた。

 例えば第五章の最初の節「「安心」を求めない」。日本では「安全・安心」とひとまとめにして言うけれど、「安全」と「安心」は当然ながら違う言葉だ。「安全」は「危険性が除かれた状態」。危険に対する対策を行うことで、そういう状態は実現するわけで、その意味では「実在する」。それに対して「安心」は、「安心したい」「大丈夫だと信じたい」という「願望」で、リアリティとは離れたところにあって「実在しない」。

 「願望」だから、その人によって求めるものが違う、なかなか満たされない人もいる。誤解を恐れずに言うと「キリがない」と思わされる人もいる。また、必ずしも「安全」でなくても、大丈夫だと信じることはできる。原発の「安全神話」がいい例で、「安全」じゃなかったのに「安心」していたわけだ。

 今の日本の状態は、著者の意に反して「安心」を求めて前のめりになっているように思う。「安心」を求めるあまり「安全」を損なうようなことが起きるかもしれない。心配だ。一方で「「安心」を求めない」でいられるほど、私たちは強くないとも思う。感染症対策の困難さを感じたのは、そのためだ。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

なんのために学ぶのか

著 者:池上彰
出版社:SBクリエイティブ
出版日:2020年3月15日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「どうして勉強しなくちゃいけないの?」に、何にでも詳しい池上彰さんなら何と答えるのだろう?と思って読んだ本。

 帯には「この難問に池上彰が真正面から答えます」とある。いきなり落胆させてしまうけれど、「なんのために学ぶのかというと、それは○〇のためです」という「真正面」からの答えは本書の中にはない。その代わり、著者が何をどのように学んで、それがどのように役立ったか、といったことが書いてある。そこから「なんのために学ぶのか?」を、読者が自分で導き出す、あるいは感じる必要がある。本書は元々は大学で行われた講演らしい。

 全部で5章ある。第1章は、学び全般についての「勉強が好きじゃなくてもいい」。第2章は、学校での学びについての「どうして勉強しなくちゃいけないの」。第3章は、著者の経験を披露した「失敗・挫折から学ぶ」。第4章は、読書についてと推薦本の紹介の「読書が好き」。第5章は、再び学び全般についてのまとめ「生きることは学び続けること」

 章に分かれてはいるけれど、内容にはオーバーラップが多く、大まかに2つのことを繰り返し繰り返し伝えている。一つは「知識は、すぐには役に立たなくても、いつか役に立つかもしれない」こと。例えば著者は、因数分解がニュース解説に役に立っているそうだ。世界史の勉強が思わぬ形で取材で役立ったこともある。シェイクスピアが人間関係をよくしたこともある。

 もう一つは「自ら問題意識を深め、得た知識を基に自分の頭で考える」こと。世の中に出たら誰もが認める正しいことというのはなかなかない。そうした問題に立ち向かうために「この人はこう主張している。だけど本当だろうか?」と、自分の頭で考えることが、そうしたことの訓練が必要、というわけ。

 大学での講演だけあって、学生さんには最適な話だ。もちろん、そうした訓練ができていない大人が大量にいる(と思わざるを得ない)現状を鑑みれば、大人にも聞いてもらいたい。正直に言うと、著者が言っていることは、個別の事例を除けばそれほど目新しいことはなく、むしろありきたりで既視感があるのだけれど、大事なことだから何度でも繰り返し言ってもいい。

 印象に残った言葉。学んで得たことは「決して人から盗まれることのない財産です」

 と、まとめたところで再び既視感。その既視感の元は突き止められなかったけれど、それを探る過程で検索していて分かった。著者がフィリピンで聞いたというこの言葉は、「教育」「知識」の重要さを語る時に、とてもよく使われていた。これまでに様々な国籍の様々な人が口にしている。こちらは「ありきたり」と言うより、世界共通の「真理」なのだろうな、と思った。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

サル化する世界

著 者:内田樹
出版社:文藝春秋
出版日:2020年2月28日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 この人のお話をじっくり聞きたい、こちらからもお話をさせてもらいたい、そう思った本。

 著者がブログに書いた記事などをまとめた本。「サル化する世界」は、冒頭の記事のタイトルでもあり、その記事で著者は、ポピュリズムを「「今さえよければ、自分さえよければ。それでいい」という考え方をする人たちが主人公になった歴史的過程のこと」と言う。その「今さえよければいい」という思考を、「朝三暮四」のサルに例えて、それで「サル化する世界」というわけ。

 一応「朝三暮四」の故事成語について。春秋時代にサルを飼う人がいて、朝夕にトチの実をやるのに、「朝に3つ、夕に4つ」と言ったらサルたちが怒り出した。そこで「朝に4つ、夕に3つ」と変えたらサルたちが大喜びした。そういう話。「目先の違いにとらわれて、結局は同じであることを理解しない」またそうやって人を欺くこと、という意味がある。

 記事のテーマは多岐にわたる。「民主主義」「中国」「韓国」「敗戦」「AI」「教育」「高齢者問題」「貧困」「雇用」...巻末にはグローバル化をテーマにした堤未果さんとの特別対談が収録されている。テーマは多岐にわたるけれど、どれにも「朝三暮四のサル」的な思考の蔓延に通じる。このタイトルを付けた人のセンスに敬服する。

 たくさんの気付きがあったけれど、深く共感して心に残ったことをひとつ。それは「優劣を比較する対象があるとしたら、それは「昨日の自分」」ということ。

 よく知られていることだけど、著者は大学の名誉教授であると同時に武道家でもある。300人ぐらいの門人を抱える、合気道の道場を構えている。門人たちを比べて、この人の方がこの人より巧い、というようなことは「考えたこともない」そうだ。修業上にそんなことは何の意味もないからだ。

 話は私事になるけれど、私は「希望する人は全員が大学教育を受けられるように」という政策が実現すればいいと思っている。その話を誰かにすると、かなりの確率で「大学を出ても使えない人もいるし、高卒でも優秀な人はいる」という話が返ってくる。

 ダメな大卒とデキる高卒を比べても意味がない。比べるなら、同じ人が高卒で社会に出た時と、大学教育を受けて社会に出た時を比べないと...と言うのだけれど、これまたかなりの確率で分かってもらえない。だから内田先生のこの話「わが意を得たり」の想いがした。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

教育格差のかくれた背景

著 者:荒牧草平
出版社:勁草書房
出版日:2019年8月20日 第1版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 昨今メディアで「教育格差」や「教育格差の固定化」が話題になることがある。教育格差とは「生まれ育った環境により受けることのできる教育に格差が生まれること」。これまでは「環境」として、「親の収入や学歴、職業」という「核家族の範囲内」に限定して議論されているが、もっと広い範囲で「環境」を捉えなければいけないのではないか?ということが、本書の問題提起。

 その「広い範囲」がサブタイトルにもなっている「親のパーソナルネットワーク」。具体的に言えば、「親戚」「友人」「知人」といった人々のこと。祖父母やオジオバ、キョウダイ、ママ友、職場の同僚、等々。本書では、これらの人々の影響がどの程度あるのか?を調査データで検証する。※長幼や性別で漢字が違う続柄はカタカナで表している。

 興味深い結果が導き出された。「世帯年収」や「親の学歴」よりも、「親戚・友人・知人の学歴」「周囲の高学歴志向」の方が、母親の高学歴志向に与える影響が大きい。なお、本書では、データとして使う「子育てに関する調査」に母親が回答していることが多いため、途中から「母親」に焦点を当てた考察になっている。

 もちろん「世帯年収」や「親の学歴」も学歴志向と関連する。しかしそれは、年収や学歴によって「親のパーソナルネットワーク」を構成する人々の属性が異なることに起因する。つまり、「世帯年収」や「親の学歴」は、学歴志向に直接的に関連するのではなく、「友人や知人の選択」を通して間接的に関連すると、本書では見ている。

 実は私は、「教育格差のかくれた背景」として「地域差」についても書かれているかと期待して読んだのだけれど、それについては何も言及がなかった。そのことを別にすれば、考察自体は「そうかもな」と思うものだった。大学への進学の有無について身の周りのことを考えれば、「世帯年収」が大きな要因になっているようには思わない。また、私の父は国民学校卒、今で言えば中卒だけれど、私は大学に行かせてもらった(本当に「身の周り」の一例で恐縮だけれど)。

 補足。本書の考察の目的は、教育格差の解消の有効な政策立案のために、そのメカニズムを明らかにすること。貧困問題と絡めた、「収入」に焦点を当てた現在の政策では不十分ではないか?という疑問への答えを導くことだ。

 その結果「収入」よりも「ネットワーク」ということが分かったわけだけれど、本書には足りない視点がある。本書では「学歴を選択できる」ということが暗黙の了解で、「選択できない層がある」という視点がない。ここに着目すればやはり「ネットワーク」よりも「収入」、ではないかと思う。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

タテ社会と現代日本

著 者:中根千枝 構成:現代新書編集部
出版社:講談社
出版日:2019年11月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の中根千枝さんには「タテ社会の人間関係」という名著がある。1967年刊行で発行部数は100万部を超え、今でも売れ続けているロング&ベストセラー。現在50代の知り合いは、35年も前の社会学部の学生時代にゼミのテキストとして読んだ、と言っていた。

 ロング&ベストセラーである理由は、この本がその時の社会のありようだけではなく、日本の社会の背後にある構造を、見事に言い表したからだ。その構造は、集団に属する期間の長短による序列意識に基づく「タテの関係」が形作る。また、その構造は今も大きく変わっていないからだ。

 前置きが長くなったけれど、本書について。本書は「タテ社会の人間関係」を解説し、その知見をもとに現代日本の諸問題を読み解いてみる、という試み。非正規雇用、長時間労働、いじめ問題、孤独死、女性活躍、などがテーマとして取り上げられる。

 「なるほど」と思うことがないことはないけれど、多くに納まりの悪さを感じた。例えば「非正規雇用」について。これを「早い段階で安定したかたちで属している」というステータスを維持したい、という正規雇用の人の意識で説明している。正規が上、非正規が下、という「タテの関係」によって、正規と非正規が「区別できてしまう」から起きる、と言う。

 しかし、非正規雇用の問題は、主として不安定な上に低賃金の雇用形態にあって、職場での正規雇用の人との関係性や「区別」の問題は、あるとしても付随的なことだと思う。現代日本の諸問題を「タテの関係」で読み解く、ということに拘泥して、適切でないテーマを料理してしまっている気がする。

 本書の巻末に、前著「タテ社会の人間関係」の元となった60ページあまりの記事が、付録として付いている。これを読むと、前著は確かに名著のようなので、現代社会のことはそれを読んで自分で考えた方かいいのでは?と思う。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

女性のいない民主主義

著 者:前田健太郎
出版社:岩波書店
出版日:2019年9月20日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 女性を登用しない「実力主義」が、男性優位のルールによるまやかしであったことが分かった本。

 本書の発端の問題意識はこうだ。日本は民主主義の国であるとされている。「民主主義」は「人民が主権を持つ」ことを表し、その「人民」には男性も女性もいる(この枠にはまらない性的少数者も)。であるのに、日本では圧倒的に男性の手に政治権力が集中している。それはなぜなのか?さらに「それにも関わらず、日本が民主主義の国、とされているのはなぜなのか?」

 著者は「これは「政治学」の性格の問題で、こんな疑問を持たなかったぐらいに、著者を含めた政治学者は、女性がいない政治の世界に慣れきってしまっていた」と言う。それによって何か重要なものが見えなくなっているかもしれない。本書は、その「見えなくなっているかもしれない」ものを可視化する試みだ。

 そのために、本書ではジェンダーを「争点」ではなく「視点」として位置付ける。補説すると、「経済」「環境」「人権」「安全保障」などの争点の並列項目ではなく、あらゆる政治現象の説明に用いる「視点」とする、ということ。そうすれば「福祉」が「男性が稼ぐ」モデルを基にしていることが明確になるし、「選挙」において女性候補者が立候補できない理由も浮き彫りになる。

 ひとつ「あぁそういうことか」と思ったことがある。「男性らしく、女性らしく」というジェンダー規範は、二重構造になっている、と言う指摘。例えば企業において「積極的」な社員を高く評価するとする。一方で「男性らしく」に「積極的」、「女性らしく」に「控えめ」という規範があれば、企業としては男女を差別していなくても(いないつもりでも)、男性を優遇する結果になる。

 「差別しているつもりはない」。こういう話題で男性の答えにありがちな言葉だけれど、二重構造のために見えなくなっているだけで、差別になっていることはたくさんあるのだろう。そういう例が本書にたくさん載っている。資本主義という体制自体が、「競争」が原理的の組み込まれている以上、ジェンダー規範に従うと女性は評価されにくい。女性は、不平等なルールのゲームに参加させられているようなものだ。

 最後に。以前読んだ同様のテーマの「日本の女性議員 どうすれば増えるのか」では不調であった「女性議員と男性議員の政策志向の違い」の論考は、本書では見事に証明されている。いい仕事をしたと思う。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

同窓会に行けない症候群

著 者:鈴木信行
出版社:日経BP
出版日:2019年8月26日 初版
評 価:☆☆(説明)

 たぶん興味があって読み始めたのだと思うけど(よく思い出せない)、最後には疑問がたくさん残った本。

 本書のきっかけとなった著者の認識は「50代に同窓会に行けない人が増えている」というもの。その裏付けとなるデータもある。温泉旅行の予約サービスの調査で、同窓会参加率が70代が62.2%、60代は42.5%なのに、50代は24.8%しかない。そして「同窓会に行かない理由」は、マイナビの調査で「自分に自信がないから」が第1位。

 それで本書は50代に「自分に自信がない人が増えた」理由をあれこれと分析する。著者は日経ビジネスの副編集長で、記事のベースも同誌の企画なので、経済や企業経営、働き方などの視点で考察を進める。例えば「昭和の時代に比べて出世が難しくなった」とか。

 「出世していない」からと言って「自分に自信がない」とは限らない。そこで著者は「起業」「好きを仕事に」「仕事以外の何かを見つける」という「自分に自信を持てそう」なことを挙げて、それも「難しくなった」とたたみかける。

 本書の最初に「註」があって「著者が考察した個人的見解」とある。註なんてなくても書籍は基本的に「個人的見解」で、何を書いても自由なのだけれど、読んでいる間中「何か違うんじゃない?」という気持ちがしていた。その理由は何なのか?考えてみた。

 そうするとドンドン遡って疑問が湧く。マイナビの「同窓会に行かない理由」調査は50代に限った結果ではないので、これを考察の基にしていいのか?ネットで調べると男性の第1位は「時間がない」だし、女性では第1位だけれど、これは「出世していない」などの仕事の視点だけで一面的に論じたら間違うのでは?

 さらに「同窓会に行かない理由」を聞くけれど、「何かをしない」ことに理由は必要なのか?同窓会参加率の経年データはないので、今の60代、70代も50代の時は参加率が低かったのでは?ネットで調べると調査では「この1年の参加」の有無を聞いたようだけれど、同窓会って毎年やるもんなの?

 最後は「同窓会に行けない症候群」というけれど、同窓会に行かないことは「病気」なのか?という疑問に行き着いた。同窓会に「行くのが当然」という考えが底に見える。「何か違うんじゃない?」の一番の理由はこれだった。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

武器としての世論調査

著 者:三春充希
出版社:筑摩書房
出版日:2019年6月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 政治に関して感じる違和感の理由が胸に落ちた本。視界がクリアになった感じ。

 著者は元々自然科学の研究者を目指していたけれど、原発事故以降の政治状況に問題を感じて、社会のあり方を模索するようになった。本書では、自然科学における洞察やデータ処理の方法を活かして、世論調査をはじめとする政治に関する様々な調査データを、精緻に分析して分かりやすく示してくれる。

 冒頭から16ページがカラーの口絵で、これがもう本書の非凡さを表している。私は「調査」というものに「人一倍に気にはなるけれどもまったく信用できない」という捻じれた認識を持っていて、本書のタイトルを見てもあまり興味を感じなかった。
 ところが表紙をめくったところにある「内閣支持率」を表した日本地図を目にした途端、グィっと引き込まれてしまった。この図は、著者自身がネットで公開している。下にリンクを掲載するので、ぜひ見て欲しい。

 内閣支持率は「西高東低」。この時の全国の値は43%前後なのだけれど、県別にみると28%から56%の間でバラつきがある。安倍総理の地元の山口県が一番高く、富山県、石川県、和歌山県が高い。対して東北、北海道、長野では30%台前半、沖縄が28%だ。

 私が感じていた違和感とは、報道各社が発表する支持率が「自分の実感」と合わないこと。それから、国政選挙のたびに与党が「圧勝」すること。念のために言うと「私の支持したところが勝たないのはおかしい」などと言っているのではない。「客観的にみて」これぐらいだいろう、という感触と大きく違う、という意味。(「客観的」が偏っているのでは?という指摘は甘んじて受けるけれど)

 前者の「内閣支持率」への違和感については、口絵の日本地図で十分だった。少なくとも私が住んでいる県の値は私の実感と合っている。「客観的」なんて言っても、遠い他県のことまでは分からない。

 後者の「与党の圧勝」についても、本書は丁寧にひもといてくれている。「戦略的投票」のための、選挙報道の情勢表現の分析があって、これは有権者がみんな身につけて欲しい知識だ。その他にも世論調査や選挙報道やの投票結果の分析の、有益な知見がたくさん。いい本に出会った。☆5つ。

著者が公開している「内閣支持率」の日本地図へのリンク
著者が運営する「みらい選挙プロジェクト」のサイト

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

真田忍者で町おこし

著 者:くノ一美奈子
出版社:芙貴出版社
出版日:2019年9月14日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 忍者の実在を強く実感した本。

 著者のくノ一美奈子さんは長野県上田市の温泉旅館の女将さんで、真田忍者をテーマとした街の活性化の活動に取り組んでおられる。2015年から地元の新聞に連載をはじめ、本書はその連載を基に加筆修正を行って、5年間の活動をまとめたもの。

 全7章。第1章で「町おこし」のことを語り、第2章で「忍者食」を研究、第3章で「忍者の修行」を現代のスポーツにつなげ、第4章で「真田忍者のルーツ」を史書によって探求、第5章は「くノ一」の考察、第6章は「真田家の歴史」を忍者を軸にして俯瞰、第7章で「真田十勇士と立川文庫」を研究。変幻自在。「忍者」というワンテーマを入口にして、その奥に、これほどの豊饒な世界が広がっているのに驚く。

 全編にわたって興味深いことが書かれているのだけれど、特別に強い印象が残ったのが、第4章に含まれる「伊与久一族」に伝わる伝承。伊与久一族は、真田忍者である「吾妻衆」の一翼を担った家系。この文章は伊与久家の末裔である伊与久松凮氏の特別寄稿。そこには松凮氏が祖母から伝えられた伝承と、自身が身をもって体験した体術などの修行が記されている。

 「特別寄稿」を強調したのでは著者に申し訳ないけれど、これも著者の熱心な活動あっての寄稿だと思う。私はこれで忍者の実在(それも現代まで続く)を強く実感した。

 巷に流れる風聞に、外国人に「忍者って本当にいるのか?」と聞かれたら「最近はとても少なくなった」と答えると喜ばれる、というのがある。私はこれからは自信と実感を持って答えられる。「とても少なくなった」と。

 Amazonでの取り扱いがないようなので、興味を持たれた方は、出版社の芙貴出版社(TEL 0261-85-0234)にお問い合わせください。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

「ミライの兆し」の見つけ方

著 者:御立尚資
出版社:日経BP
出版日:2019年9月24日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BPさまから献本いただきました。感謝。

 視野を広く持ち、ちょっとした変化にも注意深くありたい、と思った本。

 本書は、著者が日経ビジネス電子版に、2010年4月から2019年1月まで連載したコラム「御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」」から、2017年6月以降の、比較的新しい31本を選んで収録したもの。著者はボストンコンサルティンググループの日本代表やグローバル経営会議メンバーを歴任したコンサルタント。

 テーマ別の6章建て。テーマを私なりにラベリングすると「アートとビジネス」「テクノロジーへの期待と不安」「米中関係と国際政治」「視点の置き方」「未来づくりの方法論」「未来のきざし」。個々のコラムの中では教育や社会の問題にも言及・提言があり、とても幅広いテーマに目が届いている。

 興味深かったことを1つだけ紹介。ヒットメーカーの川村元気さんの、ヒットの秘訣のたとえ話。駅に向かう途中に通る郵便ポストにクマのぬいぐるみが乗っている。何万人もの人が「なんか変だな」という違和感を持ちつつも、ただ通り過ぎていく。そこで、そのぬいぐるみを手に取って「みなさん、これ、なんか変ですよね」とはっきり口に出していう。それがヒットの共通項だという話。

 本のタイトル「「ミライの兆し」の見つけ方」は、第6章のテーマの沿ったもので、直接的には最後のコラム「読める未来、読めない未来、そしてつくる未来」に記されている。逆に言えば、それまでの30本のコラムには書かれていない。私は読みながらそう思った。

 しかし、読み終わった後に、全体をパラパラと見返していると、多くのコラムが連携して「ミライの兆し」を指し示していることが感じ取れた。単に「キャッチーで売れそうなタイトルを付けた」(読んでる最中はそう思っていた)というわけではなかったのかな?、と思った。

 最後に苦言。コラム中に「2017年7月24日付の記事」への言及があるのに、その記事は本書に収録されていない。既出のコラムから選んで収録したので、こういうことが起きたのは分かる。しかし、配慮してもらいたかった。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)