2C.和田竜

村上海賊の娘(上)(下)

著 者:和田竜
出版社:新潮社
出版日:2013年10月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 帯に「四年をこの一作だけに注ぎ込んだ凄みと深み!」とある。前作「小太郎の左腕」から本書発行までの間が4年。累計200万部超のデビュー作「のぼうの城」以降「忍びの国」「小太郎の左腕」までは、著者は作品を毎年発表しているので、確かにこの4年間という年月には、この作品への著者の思い入れが感じられる。

 時代は戦国時代。長篠の戦いで信長が武田軍を破った翌年。信長がその勢力を拡大しつつもまだ天下の行方は混とんとしていたころ。舞台は、その信長の勢力が及んでいない安芸の国(広島県)沖の瀬戸内海の島々と、信長の攻勢に直面する大坂本願寺(今の大阪城の場所にあった)、その脇を流れる木津川が注ぐ難波海(今の大阪湾)と広い範囲に及ぶ。

 主人公は、瀬戸内海の島々を根城にする村上水軍の当主、村上武吉の二十歳の娘の景(きょう)。醜女で悍婦、つまり「ブサイクで気が荒い」という、小説の主人公としては珍しい設定。普通なら近くにいて欲しいとは思わないタイプのはず。ところがこれが魅力的な女性なのだ。

 物語は、信長勢に包囲される大坂本願寺の苦境から始まり、景が「海賊働き」をする瀬戸内海に移り、景とともに大坂に移って、また瀬戸内海に戻って、再々度大坂に..と振り子のように行き来をする。景の心の内も、舞台が移る度に振り子のように揺れ動く。「もう傷つかないで欲しい..」と思うものの、景の無垢の魂は、そんな私の想いを踏み越えるように跳躍する。

 面白かった。「面白ない奴」が軽蔑を表し「阿保やで、あいつ!」が賛辞、という泉州(大阪の南部)、いや今や関西全般の気質が、随所に笑いを引き起こす。この気質は言い換えれば、他人も自分も楽しもうというサービス精神。それは著者自身にも備わっているらしく、本書全編に行き渡っている。

 上巻下巻それぞれにある合戦シーンが見せ場。多少長いけれど、現場にどっぷり浸った気分でハラハラして読むと気にならないだろう。

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小太郎の左腕

著 者:和田竜
出版社:小学館
出版日:2009年11月2日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「のぼうの城」「忍びの国」に続く、著者のデビュー3作目。「のぼうの城」は、ベストセラーになって映画化され、東日本大震災による曲折を経て今秋に公開予定、と評判が高い。第2作の「忍びの国」は、それよりもさらに楽しめたので、第3作の本書は期待が大きかった。

 時代は戦国期、1556年。桶狭間の戦いの4年前、織田信長がまだ尾張国も統一していない頃で、各地で国人領主らが盟主を立てて、小競り合いを繰り広げていた時代。主人公は、そんな盟主の1つ戸沢家の重臣、林半右衛門。六尺を超す身の丈に丸太のような腕と脚、という大男。戦場では「万夫不当の勇士」と恐れられていた。

 戸沢家と敵対する児玉家にも、花房喜兵衛という豪勇の重臣がいる。半右衛門と喜兵衛は、互いを認め合いながらも、合戦、一騎打ち、籠城戦、謀略と、様々な形で激突する。そこに、小太郎という名の少年や、半右衛門の過去などが絡んでくる。

 正直に言って、物語に乗りきれなかった。功名と名誉を何より重んじ、勇猛と潔さを敬い卑怯を嫌う、命のやり取りさえカラリとやってのける。著者が「この時代の男たちは...」と言って、しつこいぐらいに繰り返す「男の美学」。本書は言わばその美学を、半右衛門と喜兵衛が体現する物語だ。

 私としては、それを貫いてくれれば良かった。その美学を危うくする事態の出来によって、物語に起伏が生まれ、登場人物の描写にも深みが増したのは分かる。こうしたことを高く評価する向きもあるだろう。ただ私はそうして欲しくなかった。

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忍びの国

著 者:和田竜
出版社:新潮社
出版日:2011年3月1日 発行 11月15日 8刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「のぼうの城」でデビューした著者の第2作。「のぼうの城」では、史実にある武州忍城の籠城戦で、忍城に拠った実在する武将たちの活躍を描いた。有名な武将たちではないけれどその働きは目覚ましく、「無名のキラ星たち」と私は呼んでいる。本書も、天正伊賀の乱という史実をベースにした物語。実在の武将たちが数多く登場する。

 天正伊賀の乱とは、伊勢の国主で織田信長の次男の信雄が、隣国の伊賀の国に攻め入った戦い。伊賀の国と言えば忍者だ。信雄が相手にしたのは忍者軍団。本書で忍者軍団を率いるのは百地三太夫だと言えば、「あぁあの」と思う人も多いだろう。

 主人公らしきは「無門」という名の、金のためそれも女房に渡す金のためにしか働かない忍者。「分身の術」的な忍術は出てこない。強調されているのは、敵味方なく相手を欺く「謀略」の技。そして彼らは人間離れした体術で、凄まじい戦い方をする。

 対する伊勢の信雄軍も負けてはいない。そのひとり日置大膳は、鉄砲の弾も届かない遠くを逃げる忍者を、鑿頭の矢で射て、頭をすっ飛ばしてしまうような豪勇の者。かくして伊勢と伊賀、武士と忍者の、力と技と頭脳の総力戦が展開される。

 文庫の「解説」は、読書家で知られる昨年5月に亡くなった児玉清さん。亡くなる4カ月前の執筆。この本のことが好きで盛り立てよう、読者を楽しませようと言う気持ちがあふれている。合掌。

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のぼうの城

著 者:和田竜
出版社:小学館
出版日:2007年12月3日初版第1刷 2008年7月22日第11刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2008年上半期の直木賞候補、2009年の本屋大賞第2位。映画化され2011年秋公開予定。何とも華やかな経緯を辿っているが、本書は著者のデビュー作。

 時は天正18年(1590年)、織田信長が本能寺で討たれて8年。天下の西半分を手中に収めた豊臣秀吉が、関東の大家である北条氏を攻略しようとしていた時。所は武州忍城。今の埼玉県行田市にある、北条氏に当時は臣従していた成田氏の居城だ。
 物語は、石田三成を総大将とする2万3000の兵を、武士の数ならわずかに500人、戦力となる領民をあわせても2600人で迎え討った忍城の籠城戦を描く。そう、この物語は史実を基にしている。豊臣秀吉、石田三成、大谷吉継ら大坂方の武将はもちろん、成田長親、正木利英、甲斐姫ら忍城に籠もる面々も実在の人物だ。

 タイトルの「のぼう」とは「でくのぼう」の略。こともあろうに、忍城の総大将となる成田長親に付けられたあだ名だ。無意味に大きな身体で、何一つ真っ当にできない不器用さから、領内の農民にまで面と向かってそう呼ばれている。しかし、彼に大きな将器を感じる者もいる。戦が進むにつれて、敵に回した石田三成、大谷吉継も「果たして賢か愚か」と悩む。読者も悩む。
 寡兵で大軍に対抗し時に打ち破る。痛快物語の鉄板とも言える。そこに、勇将智将はもちろん、武勇に優れた美しい姫を加えてもまだ足りず、「でくのぼう」の総大将まで配し、エンタテイメント性も加えた。正直その年の代表作か?と言われると戸惑うが、楽しめることは間違いないだろう。映画もきっと楽しい娯楽作品となると思う。

 映画「のぼうの城」オフィシャルサイト

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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