34.加納朋子

空をこえて七星のかなた

著 者:加納朋子
出版社:集英社
出版日:2022年5月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 読み終わって「やっぱりそう来なくちゃ」に加えて「そう来たか!」と思った本。

 帯に「<日常の謎>の名手が贈る、驚きと爽快な余韻に満ちた全七話」とある。後半の「驚きと爽快な余韻」は感じ方次第だけれど、前半の「日常の謎の名手」は妥当な表現だと思う。本書に収録された7編の短編も、ちょっとした謎を含んだちょっといい話だ。

 7編のタイトルは「南の十字に会いに行く」「星は、すばる」「箱庭に降る星は」「木星荘のヴィーナス」「孤舟よ星の海を征け」「星の子」「リフトオフ」。なんとなく「星」が関係した物語が想像できる。ちなみに、最後の「リフトオフ」は、ロケットの打ち上げのこと。秒読みで「3、2、1、liftoff」と言ったりする。

 ただし「星つながり」以外には各短編に共通点は感じられない。「南の十字に会いに行く」は、小学生の女の子がお父さんと石垣島に旅行に行く話。行く先々で、黒服、黒サングラスのいかにも怪しい男が現れる。「星はすばる」は、事故で視力をほとんど失った少女の話。事故の前に参加した「こども天文教室」で光り輝くような王子様のような少年と出会う。

 「箱庭に降る星は」は、地方の高校の「天文部」と「文芸部」と「オカルト研究会」の廃部の危機。「木星荘のヴィーナス」は、東京の木造二階建てのアパートが舞台。「星の子」は、中学生の女子の友情を描く。こんな風に舞台となる場所も登場人物もバラバラ。「孤舟よ星の海を征け」に至っては、宇宙船の事故を描いたSFで、ジャンルさえ違う。

 ひとつひとつの短編は、それぞれに「そういうことか!」と思ったり、温かい気持ちになったり、その先が楽しみなったり、最初に書いたように「ちょっといい話」で心地いい。天文学者のおばあちゃん(動植物や文化の研究者でもあり合気道の先生でもある)や、洗濯物を入れたネットを振り回して人力脱水する美女(何してるんですか?で聞かれたら「自転」って答えた)や、登場人物には個性的かつ魅力的な人が多い。私が好きなタイプの物語だ。

 それでも欲深いことに、少しもの足りない。...と思っていたら...

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いつかの岸辺に跳ねていく

著 者:加納朋子
出版社:幻冬舎
出版日:2019年6月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「幼馴染の男女の甘酸っぱい物語」と思っていたら、それだけじゃなかった本。

 主人公は森野護と平石徹子。本書の始まりの時には二人とも中学3年生だった。でも、二人の物語はもっと前から始まっている。幼稚園から中学まで同じ学校。いやもっと前、家が近くで生まれた日も近いため、母親同士が仲が良かった。つまり、赤ちゃんの時からの幼馴染。でも護に言わせれば、「恋とか愛とか好きとか惚れたとか、そういう話では全然ない」という仲。

 それは徹子が「ほんとにワケわかんない」やつだからだ。登校中に仲良しでもなんでもないクラスメイトの手をいきなりつかんで早足に歩き出したり、道端で知らないおばあちゃんに抱きついたり、帰りの会で唐突に発言してクラスを議論の渦に巻き込んだり...素っ頓狂なことばかりやっている。普段は真面目な優等生なのに。

 本書は護視点の前半と、徹子視点の後半の二部構成。前半は中学生の護が過去を振り返りつつ始まり、徹子と別の学校に進学した高校生の時、遠くの大学に進学して成人式に帰ってきた時、就職して近くの支店に異動になって実家に戻ってからと、人生の折々のエピソードを綴る。もちろん、そこには徹子が「腐れ縁の幼馴染」として登場する。

 幼馴染の男女。関係が近くなったと思ったら、また適度な距離感に戻ったり。「そういう話か。まぁいい話だな」と思う。エピソードのそれぞれも面白い。でも「何か物足りないよね」と感じつつ前半が終わってしまう。

 ところがその「物足りなさ」は、徹子視点の後半が始まってすぐに消えてなくなる。前半の甘酸っぱい雰囲気もやがてなくなり、中盤からはキリキリと引き絞るような緊張感が覆う。

 著者は、あの「物足りない(何回も繰り返して著者には申し訳ないけれど)」前半に、何気ない風を装ってこんな仕掛けをしていたのか!!と感嘆符を重ねた気持ち。

 帯の「あの頃のわたしに伝えたい。明日を、未来をあきらめないでくれて、ありがとう。」という言葉が、読後にじわじわくる。

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我ら荒野の七重奏

著 者:加納朋子
出版社:集英社
出版日:2016年11月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の2010年の作品「七人の敵がいる」の続編。

 主人公は「七人の敵がいる」と同じく山田陽子。出版社の編集者でモーレツに忙しい。息子の陽介くんと夫の信介との3人家族。前作で陽子は、PTAや自治会などで、けっこうハデなバトルをやらかしている。

 本書は、前作の直後で陽介くんが小学校6年生の時、信介の上司の中学生の息子、秀一くんの吹奏楽の発表会から始まる。秀一くんのトランペットに感激した陽介くんは「秀一くんの学校に行きたい。吹奏楽部に入って、トランペット吹きたい」と、中学受験を決意する。

 職場でも「ブルドーザー」と呼ばれている陽子だけれど、陽介くんのことになると、さらに猪突猛進の度合いが高まる。陽介がN響でピカピカのトランペットを華麗に吹きこなす姿まで想像する。本書は、こんな感じの陽子が、陽介の中学3年までの吹奏楽部の活動に伴走する姿を描く。

 楽しめた。若干ひきつりながらではあるけれど。「あとがき」に「匿名希望の某お母様及びそのお嬢様」に取材したとあるけれど、エピソードの細かい部分までがリアルだ。「仰天エピソード」はフィクションだと思うから笑える。「これマジだわ」と感じるとそうはいかない。「ひきつりながら..」というのはそういう意味だ。

 吹奏楽のパート決めの悲喜こもごもも、会場取りのための努力も、保護者やOBからのプレッシャーも、いかんともし難い実力差も..脚色はあっても創作はない。我が家の娘二人も中学では吹奏楽をやっていた。私自身が経験したことではないけれど、こういう話はよく耳に入って来た。

 陽子の「ブルドーザー」ぶりは相変わらずだけれど、学習したのか少しうまく立ち回れるようになった。正論をはいて敵を作ってしまうけれど、結局たいへんな仕事を担って、改善も実現して役にも立っている陽子を、助けてくれる「チーム山田」的な人も現れた。「一人で猪突猛進」よりも、「チームで解決」の方がスマートなのは言うまでもない。

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トオリヌケ キンシ

著 者:加納朋子
出版社:文藝春秋
出版日:2014年10月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2014年の発行だけれど、現在のところ著者の最新刊らしい。表題作の「トオリヌケ キンシ」の他、「平穏で平凡で、幸福な人生」「空蝉」「フー・アー・ユー」「座敷童と兎と亀と」「この出口の無い、閉ざされた部屋で」の計6編を収録した短編集。

 「トオリヌケ キンシ」は、小学生3年生の男の子の話。「トオリヌケ キンシ」と書かれた札がある、50センチぐらいの隙間。そこに入って行くと、古ぼけた木造の家があった。

 「平穏で~」は、ウォーリーとか四つ葉のクローバーとかを、すぐに見つけることができる「超能力」を持った女の子の話。「空蝉」は、優しかったお母さんが突然、乱暴に怒鳴り散らす「バケモノになってしまった男の子の話。

 「フー・アー・ユー」は、「相貌失認」という病気で、人の顔が識別できない高校生の男の子の話。「座敷童と~」は、近所の家に突然やって来て「家の中に、座敷童がいる」と言ったおじいちゃんの話。「この出口の無い~」は、寝ている時に見る夢を自在にコントロールしようとしている浪人生の話。

 全体的に現実と空想の境界のような曖昧さが漂う。50センチの隙間は異世界への通路のようだし、「超能力」や「バケモノ」や「座敷童」が出て来る。話しかけてくる人が誰だか分からないというのも、世界を曖昧にする。最後の話は、そもそも「夢」が主題になっているし。

 ところが、読み進めていくと、どこかで話がストンと現実に着地する。ライトがついて急に明るく照らされたように。こういう「驚き」の仕込みはミステリ作家ならではの手際だ。

 最後に。どの作品も「フー・アー・ユー」の「相貌失認」のように「病気」と深く結びついている。これは、著者自身が大きな病を患ったことと関連があるのだろう。著者は、2010年に急性白血病で緊急入院し抗癌治療を受けられている。本書の短編は、表題作を除いてすべて、復帰後に「文藝春秋」に掲載した作品だ。

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はるひのの、はる

著 者:加納朋子
出版社:幻冬舎
出版日:2013年6月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「ささらさや」「てるてるあした」の続編。表題作「はるひのの、はる」を含む6編の短編を収録。

 主人公はユウスケ。物語の初めでは小学校に上がる前の春だった。彼は「ささらさや」「てるてるあした」のサヤの息子。その時はまだ赤ん坊だったユウ坊だ。本書は、ユウスケの成長を追って短編を重ねて、物語の終わりでは彼は高校生になる。

 「てるてるあした」の冒頭で、ユウスケのことが「不思議な赤ん坊」と書かれている。確かにユウスケの周りでは不思議なことが起きる。その訳が本書冒頭で分かる。彼には「見える」のだ。亡くなったけれどまだこの世に留まっている人たちの姿が。

 舞台は、佐々良の町を流れる佐々良川のほとりの原っぱの「はるひ野」(そう、表題作は「はるひ野の、春」という意味)。そこでユウスケは、川でうつぶせになって倒れている少女を見つける。その時、「見ちゃダメ」と言ってユウスケの手を引いた少女がいた。彼女の名は「はるひ」

 はるひはユウスケに「手伝って欲しいことがある」と言う。それはとても奇妙なお願いだったけれど、ユウスケは言うとおりにしてあげた。それ以降、はるひは数年に一度ぐらい割合で、ユウスケの前に現れては奇妙なお願いを繰り返し、すぐに姿を消す。その度に誰かが助けられる。

 各短編は、そんな感じで「いい話」で終わるのだけれど、モヤモヤしたものが残る。はるひは何のためにそんなことをしているのか?そもそも何者なのか?そういった謎が最後になって明らかになる。

 前2作は、亡くなった「見えない」人の存在を感じる不思議な物語だった。ユウスケにはそれが「見える」ので、亡くなった人の存在がリアルに感じられ、ファンタジーの要素を含んだ物語になった。「あとがき」に「シリーズ最後の作品」とされているが、それは惜しい。この言葉は反故にして構わないから、続編を希望する。

 最後に。著者が白血病と闘っておられたことは、闘病記を出版されているので知っていた。復帰第1作の本書が出版されて、私は本当に嬉しい。

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七人の敵がいる

著 者:加納朋子
出版社:集英社
出版日:2010年6月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、今年の春にフジテレビ系列で「昼ドラ」として放映された同名のドラマの原作。新聞のテレビ欄で見かけた時に、石川達三さんの「七人の敵が居た」と勘違いして「ずい分と古いものを持ち出してきたなぁ」と思った記憶がある。それが、先日図書館でこの本を見つけて「あぁこれだったのか!」と借りてきて読んだ次第。

 主人公は山田陽子。出版社の編集者。モーレツに忙しい。愛息子の陽介が入学した小学校の、最初の保護者会が本書の冒頭。この陽子のPTAデビューは最悪だった。「PTA役員なんて、専業主婦の方じゃなければ無理じゃありませんか?」と言ってしまった。つまり、その場にいた多くの母親を敵に回したわけだ。

 「専業主婦でなければ無理」ということはない(実は、私もPTA役員の経験がある)。ただ、陽子にとってはそれは根拠のある主張で、それを非難する声には正論で返して黙らせてしまう。
 正論は正論として「そうは言っても..」「そこを何とか..」で回っているのが現実のPTA活動だ(と私は思う)。しかし陽子は、陽介に累が及ぶのを危惧しながらも、正論を止められない。学校で、学童保育で、自治会で、スポーツ少年団で....。その度に敵を作ってしまう。

 こう書くと、陽子がとんでもなく自己中心的な人間のようだけれど、読み進めるうちに、そうではないことが分かる(「その言い方は何とかした方がいいよ」とは、最後まで思ったけれど)。また、「陽子vs敵」の図式の繰り返しの中で、陽子にも敵にも「事情」を潜ませてあって、この辺りは著者の技ありだ。

 本来は「正論」は文字通り正しくて、それが通らない現実の方に問題がある。職場で「ブルトーザー」とあだ名を付けられた陽子は、その馬力で現実の問題を正そうと立ち向かう。そんな陽子を、助けたり協力したりしてくれる人も現れる。ブルトーザーは色んなものをなぎ倒してしまうけれど、その後には道ができて、人が歩けるようになる。

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少年少女飛行倶楽部

著 者:加納朋子
出版社:文藝春秋
出版日:2009年4月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました。それも、中学生が空を飛ぶ話が。」これは「あとがき」の冒頭の著者の言葉だ。本書のことをよく表している。

 主人公は中学1年生の女の子の佐田海月。舞台は彼女が通う中学校。海月は、幼馴染の大森樹絵里と一緒に、2年生の部長の斎藤神と副部長の中村海星の2人しかいない「飛行クラブ」に入部する。「飛行クラブ」とは、文字通り飛行することを目的とするクラブ。活動内容の文書に「理想を言えば、ピーター・パンの飛行がベスト」と書いてある。

 この何とも奇妙なこのクラブの活動は部長の神の「空を飛びたい」という強い願望の現れだ。この中学ではクラブ活動が必修なのだけれど、神は既存のどのクラブにも入らず、自分でこのクラブを創ってたった1人で1年間活動してきた(海星は野球部と兼部、友達の神に付き合って籍を置いている)。まぁ正真正銘の「変人」だ。

 海月は、頼りない樹絵里の面倒を幼稚園の頃から何くれとなく見てきた。今回の入部も樹絵里の海星への恋心に付き合わされたものだ。他にもワガママな同級生にも慕われ(絡まれ?)ていて、どうやら海月は「放っとけない」たちのようだ。変人の神のことも放っとけなくなって、「空を飛ぶ」ために奔走する。

 著者の作品の特長と言えば「日常に潜む謎」を描いたミステリーだと思うが、今回はミステリーではない。「あとがき」の言葉通りの青春小説だった。一見するとステレオタイプな登場人物たちだけれど、その一人一人に対して人物造形の背景を丁寧に描く。お見事だ。最後に一言。海月のお母さんがいい味を出している。

 この後は書評ではなく、この本の「あとがき」を読んで思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

コッペリア

著 者:加納朋子
出版社:講談社
出版日:2003年7月7日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのはこれで7作目。これまでは連作短編か短編集だったが、本書は長編作品。また、「日常に潜む謎」を描いたこれまでとは違って、本書が描くのは日常から薄いヴェールで隔てられたような非日常。タイトルの「コッペリア」は、からくりで動く人形とそれに恋する青年が登場するバレエ作品の名前。本書も人形の存在が物語の大きな位置を占め、人形に恋した(執着した?)男性が登場する。

 主な登場人物は、人形に心を奪われてしまった青年の了、その人形を作った人形師のまゆら、まゆらのパトロンである創也、まゆらが作った人形にそっくりな劇団女優の聖、の4人。物語は、了と聖を1人称とした章が交互にあり、その間にまゆらと創也について語る3人称の章が挟まる形で進む。

 人形というのは、人の心をざわつかせる。しかもまゆらがつくる人形は、人肌そっくりの艶かしい質感とガラスの目を持った人形。それが、家の裏手に打ち捨てられてあったのだから、了がその人形に心を奪われたのもムリはない。
 そして、了がその人形と瓜二つの聖と出会い、創也も聖と出会い、聖はまゆらの個展に行って自分そっくりな人形と出会い、といくつもの遭遇が重なって、物語は複雑に進展していく。さらに著者は、ミステリ作家らしい仕掛けを施している。私は、人形が放つ妖しさに気を取られていて、まんまと騙されてしまった。

 余談であるが、私は学生のころマネキン会社の倉庫で短期バイトをしたことがある。けっこうリアルなマネキンで、至るところにその頭部、手足、胴体が積んであった。1日中その中にいると、生身の人間の一部と錯覚するようなこともあって、妙な昂ぶりを感じたことを覚えている。

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ラジオドラマ「有頂天家族」放送決定

 先日のアニメ「四畳半神話大系」続報に続いて、森見登美彦情報が入ってきました。NHK FMのラジオドラマ「青春アドベンチャー」で、森見さんの最高娯楽作品「有頂天家族」を放送する予定です。6月21日(月)~7月2日(金)までの月~金の10回、22:45~23:00の放送です。

 これは2008年に放送されたものの再放送なんです。このラジオドラマがあったことを、放送後にどなたかに教えていただいて知って、とても残念に思ったことを覚えています。なにしろ「有頂天家族」は、私としては今でも森見作品の中の(「宵山万華鏡」も良かったけれど、僅差で)ナンバー1ですから。

 実は先日、加納朋子さんの「モノレールねこ」の中の短編、「バルタン最後の日」の朗読が、NHK第一の「ラジオ文芸館」でありました。知ったのが当日の夕方だったので、ブログで紹介するタイミングがなかったのですが、その時に家のコンポでラジオの録音予約ができることが分かったので、今回も録音して聞くつもりです。しばらくはラジオがプチマイブームになるかも?

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螺旋階段のアリス

著 者:加納朋子
出版社:文藝春秋
出版日:2000年11月20日 第1刷 12月10日 第2刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は、日常に潜む不思議を描く連作短編集が持ち味。「日常の不思議」を解き明かすということで言えば、本書に登場する「探偵」ほどうってつけの登場人物はいない。何しろ謎解きを専門とする職業なのだから。ただし、明智や金田一やポアロやクィーンら、難事件を見事に解決する探偵を想像してはいけない。
 本書の主人公は会社の早期退職者支援制度を利用して、脱サラして探偵事務所を開いた仁木順平。当然、そうそう簡単に仕事の依頼は来ない。来ても仁木が期待するようなハードボイルド系の依頼はない。カギを探して欲しいとか、犬を探して欲しいとか、浮気調査かと思えば「浮気してない調査」だとか。

 でも不思議を描くのが巧みな著者のことだから、もちろん話はそう単純ではない。カギ探しだってただのカギ探しではない、犬探しも浮気してない調査も、背後には全く別の事件が隠されている。解決すべきは表面に見える依頼ではなく、背後の事件の方。
 さらにこの謎を解き明かすのは仁木ではなく、フラッとこの事務所に来て居ついた、高級少女服のカタログから抜け出したような美少女の安梨沙。探偵らしくない探偵、事件の依頼にはウラがあり、お茶くみ兼務の助手にしか見えない美少女の一言が事件を解決に..と、何度もひねった筋書きが「さすが」と思わせる。しかも「ひねり」はこれで全部ではないのだからスゴイ。

 仁木と安梨沙の探偵稼業の物語をもっと読みたいと思っていたら、続編があった。「虹の家のアリス」。近々読みたいと思う。

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