27.三浦しをん

マナーはいらない 小説の書きかた講座

著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2020年11月10日 第1刷 12月6日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 創作の現場が良く分かってよかったけれど、こんなに種明かしをしてしまっていいの?と思った本。

 コバルト文庫の「WebマガジンCobalt」に、著者の三浦しをんさんが連載していた「小説を書くためのプチアドバイス」を一冊にまとめたもの。著者は「コバルト短編新人賞」の選考委員を務めていて「ここをもうちょっと気をつけると、もっとよくなる気がする」とか思っていたらしい。連載を始めるいきさつは本書の「まえがき」に書いてある。

 本書は、フルコースのディナーに見立てた構成になっていて、全部で24皿もある(「多すぎるだろ」と著者もおっしゃっている)。一皿目から順にあげると「推敲について」「枚数感覚について」「短編の構成について」「人称について」「一行アキについて」「比喩表現について」「時制について」...。ご本人は途中で何度か「様子がおかしくなっている」と、謙遜というか自虐してみせたりしいるけれど、これは真正面から書いた「小説の書き方講座」だと、私は思う。とても参考になる。

 例えば「人称について」。一人称は「郷愁や抒情を醸し出しやすい。過去の出来事を振り返る、といった物語のときにひときわ効力を発揮」。でも「視野が狭くなりやすく、閉塞感が出てしまうおそれがある。語り手の外見について書きのくい」。三人称は「視点が切り替わったことが分かりやすい。描ける範囲が広い」。でも「語っているのは誰なの?神なの?作者なの?という疑問がつきまとう」

 小説を少し分析的に読む人にとっては「人称」は一般的な関心でもある。「村上春樹が三人称を使ったのは...」なんて話が好きな人はたくさんいると思う。ただ「書く立場」で考えるとこうなんだ、ということを、こんなに分かりやすく胸に落ちるように聞いたのは初めてだ。本書にはこのように「書く立場」ではこうなんだ、ということがたくさん書いてある(「小説の書き方講座」なのだから当然と言えば当然なのだけれど)

 本書を読んでいて、知り合いから「いよいよ書くのか!」と茶化されたけれど、私にはそういう気はもちろんない(今後ずっとないとは断言できないけれど)。じゃぁ何の役にも立たないのでは?と思われるかもしれないけれど、そうでもない。例えば、サッカーの経験がある人は経験がない人よりも、同じゲームを見ても違う楽しみ方があると思う。それと同じで著者の意図や工夫が少しわかれば、より小説が楽しめるかもしれない。

 また、三浦しをんさんらしい読んで可笑しいエッセイ集としても楽しめる。

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Seven Stories 星が流れた夜の車窓から

著 者:井上荒野、恩田陸、三浦しをん、糸井重里、小山薫堂、川上弘美、桜木紫乃
出版社:文藝春秋
出版日:2020年11月25日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 旅行気分とドラマを一緒に味わえた本。

 JR九州の豪華寝台列車「ななつ星」をテーマとした7つの文章。井上荒野、恩田陸、三浦しをん、糸井重里、小山薫堂、川上弘美、桜木紫乃、の人気作家7人の贅沢なアンソロジー。

 井上荒野さんの「さよなら、波瑠」は、60歳を越えて知り合って結婚した男女の男性が女性を見守る話。女性がカッコよくて切ない。恩田陸さんの「ムーン・リヴァー」は、壮年となった兄弟による、育ての親の叔母が残した言葉の謎解き。男の兄弟が子どもっぽい。三浦しをんさんの「夢の旅路」は、60年来の親友である女性の二人旅。なぜだろう?男性にはこういう旅はできない。

 糸井重里さんの「帰るところがあるから、旅人になれる」と、小山薫堂さんの「旅する日本語」は、随筆と随想。物語の間に挟むことで、読者はここで気持ちが切り替わる。糸井さんの随筆は「ななつ星」が博多駅を出て博多駅に帰ってくることに着想を得て。小山さんの随想はたったの7つの言葉を紹介するだけ。でも「日本語には、こんな美しい言葉があったのか!」と思った。

 川上弘美さんの「アクティビティーは太極拳」は、旅が新型コロナで中止になってしまった母娘によるバーチャルツアー。思いのほか母と娘の中が深まる。旅に行かなかったこの話が、他のどの物語よりも「ななつ星」の旅の紹介にしっかりなっていたのが何とも皮肉。

 桜木紫乃さんの「ほら、みて」は、市役所を退職した夫とその妻の旅行。妻は、5年前にひとり息子が就職してからの計画を実行するつもりでいる。今年58歳になる私としては、同年代の夫婦に強くおススメする。

 それなりの時間を過ごした夫婦が知っておくといいことが書いてある(と思う)。女性の側からみたことは想像するしかないけれど、男性が抱える心根はこの通りだと思う。心配を押し隠していた正雄さんに共感。

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のっけから失礼します

著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2019年8月10日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 笑い過ぎて酸素不足になって倒れるかと思った本。人前で読むのは控えた方がいい。

 月刊の女性向けファッション誌「BAILA」に連載したエッセイをまとめたもの。2014年6月号から2019年5月号までに掲載した60本を収録。

 とにかく変だ。どうかしていると思う。帯に「ありふれているのに奇想天外な日常」とある。冒頭2本目の「美容時間の問題」というエッセイに衝撃的なことが書かれている。「外出する用事があるときは、ちゃんと風呂に入って顔も洗う」。つまり..外出する用事がない時は,,,。

 「変だ」と思ったのは2つの意味で。1つ目は「なんでこんなに可笑しいのか」ということ。著者はほとんどの日は家に籠って仕事をしていて、だれとも会わない。そんな日常なのに、なんで毎月こんなに面白いことが起きるのか。

 それは、読み進めていけば分かる。それは「著者自身が面白いから」だ。例えば3本目のエッセイ「もやしとぬた」から引用する。

 スーパーでもやしを手にするたび、「やす・・・っ!」と驚愕の声を上げるのを抑えられない。「ヤス!」「銀ちゃーん」。一人で「蒲田行進曲」ごっこをはじめてしまうほどだ。...

 「もやしが安い」だけなのに、それを著者が面白可笑しくしてしまう。まぁ「力技」で面白くなっている。そして面白い著者が面白い人を引き寄せている。お母さんとかお父さんとかお友達とか編集者とか...。その人たちが面白いことをしてくれる。

 「変だ」と思った意味の2つ目は「なんでこの雑誌にこのエッセイなのか」ということ。「BAILA」の読者層は「おしゃれ感度の高い30代」らしく。紙面はおしゃれな洋服やコスメが満載になっている。そこに「外出する用事があるときは風呂に入る」というエッセイが、しかも巻頭に(タイトルの「のっけ」はそういう意味)ある。

 しかも、ここでは具体的に書かないけれど、下ネタもやたら多い。本書の書下ろし部分に、ボツになった下ネタが紹介されているけれど、これを読むと、編集者も頭を抱えた瞬間があるはず。それでも2014年に始まった連載が今も続いている。「おしゃれ感度の高い30代」に支持されているということか?

 冒頭の「とにかく変だ。どうかしている」は、ほめ言葉です。

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愛なき世界

著 者:三浦しをん
出版社:中央公論新社
出版日:2018年9月10日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。そして2冊続けての三浦しをん作品。「愛なき世界」だけれど、愛をたっぷり感じる物語。

 読み始めてしばらくして「これは「舟を編む」の系統だ!」と思った。著者には一部で「お仕事小説」と呼ばれる作品群がある。例えば「舟を編む」は辞書の編纂、「仏果を得ず」は文楽の大夫という、「お仕事」とそれに従事する人にフォーカスした小説、と言える。そして著者の「お仕事小説」が、私は例外なく好きだ。だから本書も期待を持って読んだ。

 主人公は藤丸陽太。20代初め。東京のT大赤門前の洋食屋「円服亭」の住み込み店員。もう一人。本村紗英。20代半ば。T大学理学部で植物の研究をしている大学院生。20代の男女二人が出会ったのだから、なるべくしてなったということで、藤丸くんが本村さんに恋をした。そういうお話。

 「そういうお話」なのだけれど、本村さんの方がウンと言わない。彼女は「植物の研究にすべてを捧げる」と決めている。だから誰ともつきあうことはできないし、しない。あぁ藤丸くん、残念。

 それでも藤丸くんが本村さんに魅かれ続けるし、本村さんだって藤丸くんからたくさんの影響や気付きを受ける。本村さんが所属する「松田研究室」には、いつも黒いスーツを着て陰鬱な殺し屋みたいな松田教授をはじめ、魅力的なキャラクターが揃っている。たくさんのエピソードのそれぞれがとても心地いい。

 そんな具合で今回は「植物の研究者」という「お仕事」に(藤丸くんの「洋食屋の店員」にも少し)フォーカスが当たっている。本村さんだけじゃなくて、研究室の面々の「植物への愛と好奇心」が半端じゃない。それがとても好ましい(家族にいたらちょっと困るかも?)。読者もその一端を垣間見ることで、ちょっと新しい世界を知ることができる。

 期待を持って読んだけれど、本書はその期待に十分以上に応えてくれた。私の「著者の「お仕事小説」が例外なく好き」も継続中だ。

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ののはな通信

著 者:三浦しをん
出版社:KADOKAWA
出版日:2018年5月26日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 主人公は、野々原茜と牧田はな。物語の始まりには、二人とも横浜の女子高校の2年生でクラスメイトだった。今「物語」と書いたけれど、通常の意味の「物語」ではなく、本書は全編が、この二人が互いに相手に書いた手紙で成っている。つまり書簡文学。「のの」と「はな」の間の手紙の往来。タイトルはそういう意味。

 また「手紙」と書いたけれど、郵便による手紙もあれば、授業中に回したメモもあり、後半には電子メールもある。郵便と電子メールには日付が付されていて、これがいつの出来事なのかがはっきり分かることも、本書の特長かもしれない。物語の最初は昭和59年(1984年)、最後は2011年。なんと30年近い時間が流れている。

 これは、「のの」と「はな」の友情を超えた絆の物語。1章は二人が高校生のころ。2章は進路が分かれた大学生のころ。3章は20年のブランクを経た2010年。4章は...3章の「その後」。各章の終わりには二人の関係の「終わり」があり、各章の始まりには「新しい始まり」がある。そうやって二人の関係は決別と再会を繰り返して30年続いた。

 あらすじは敢えて紹介しない。 読み進めると「え?!そう来たのかよ。そっちか!」という「驚き」が何度か。その「驚き」を、これから読む人にも感じて欲しいから。たぶん誰にも予想できない展開だと思う。

 最初の「驚き」が1章の真ん中あたりである。「これはちょっと趣味が合わない」と思うかもしれないけれど、それでもぜひとも2章、3章と読み進めて欲しい。私が「誰にも予想できない」と書いたのは、最初の「驚き」もそうだけれど、むしろ3章の展開の方を指している。

 「しをんさんは、私をどこに連れて行こうとしているのか?」と、最初の「驚き」で不安に思った。しかし、読み終わって連れて行ってもらったのは、読む前よりも少し自分の視界が開けた場所だった。

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X’mas Stories

著 者:朝井リョウ、あさのあつこ、伊坂幸太郎、恩田陸、白河三兎、三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 発行 12月15日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 もうすぐクリスマスなのでクリスマス・アンソロジー。朝井リョウさん、あさのあつこさん、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、三浦しをんさん、という私が大好きな作家さんが名を連ねる、夢のコラボレーション。白河三兎さんはたぶん初めて。

 収録作品を順に。朝井リョウさんの「逆算」は、1日に何度も逆算してしまう女性の話。お釣りの小銭が少なるように、時間に間に合うように。街で見かける人のこれまでの人生まで想像してしまう。あさのあつこさんの「きみに伝えたくて」は、好きだった高校の同級生の思い出を抱えた女性の話。ホラーミステリー。

 伊坂幸太郎さんの「一人では無理がある」は、サンタクロースの話。クリスマスにプレゼントをもらえない子どもたちに、プレゼントを配る組織。ケアレスミスが思わぬ結果を。恩田陸さんの「柊と太陽」は、遠い将来の日本の話。「再鎖国」をしてクリスマスの習慣も忘れら去られて久しい。

 白河三兎さんの「子の心、サンタ知らず」は、リサイクルショップでバイトする司法浪人の男性の話。店主は美人のシングルマザー、その子どもは小賢しいガキ。そのガキから共謀を持ちかけられる。三浦しをんさんの「荒野の果てに」は、タイムスリップもの。江戸時代の天草から現代の地下鉄明治神宮前駅に、武士と農民がタイムスリップ。

 どれも面白かったけれど、最後の「荒れ野の果てに」が、心にしみた。「天草」から想像できると思うけれど、キリシタンの迫害が物語の背景にある。タイムスリップして来た彼らから見れば、今は「理想の世界」。大事にせねば、と思う。

 クリスマスをテーマに、趣の違った物語が楽しめた。六者六様だけれど共通しているのは「クリスマスには何か特別なことが起きる」という気持ちだ。そういう気持ちはいいことだと思う。

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むかしのはなし

著 者:三浦しをん
出版社:幻冬舎
出版日:2005年225月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 7編の短編を収録した短編集。それぞれの短編が「浦島太郎」や「桃太郎」といった昔話をモチーフとした物語にそれぞれなっていて、短編の扉裏のページにその昔話が短く紹介されている。短編集のには、既出の複数の作品を1つにまとめたものであることがあるが、本書は書下ろし。

 一つ目の作品は「かぐや姫」をモチーフとした「ラブレス」。主人公は男性が早死にする家系の男。彼の父も祖父も27歳で死んだ。「明日、隕石が地球に激突します」と言われたような感情を持って、彼は27歳を迎えた。逃げようがない怖い気持ちと、何が起きるんだろうという期待。物語は主人公の一人語りの形で語られる。

 二つ目の作品は「花咲か爺」をモチーフとした「ロケットの思い出」。主人公は、子どもの頃にロケットという名前の犬を飼っていた男。今は空き巣を生業にしている。どうやらそれで捕まったらしいことが、冒頭で明らかになっている。物語は、子どものころから捕まるまでの半生を、警察の取り調べに答えている体で語られる。

 こんな感じで、主人公が自分に起きた出来事を語る。三つ目の「天女の羽衣」をモチーフとした「ディスタンス」まで読み進めても、収録されている作品につながりはない(ちなみに「ディスタンス」はけっこうショッキングな作品だ)。ところが、四つ目の「浦島太郎」をモチーフとした「入江は緑」で、「どっかでこの話聞いたような」と思い、五つ目の「鉢かつぎ」をモチーフとした「たどりつくまで」で、その思いは確信と変わる。

 そして最後の「桃太郎」をモチーフとした「懐かしき川べりの町の物語せよ」で、著者の意図が見えてくる。この短編は98ページと、他と比べて圧倒的にボリュームがあるので、これがメインの物語なのだろう。

 それぞれの短編も独立して個性的で味のある作品が多い。上に書いたように、一冊の短編集を通しての繋がりもある。書下ろしならではの仕掛けだと思う。

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あの家に暮らす四人の女

著 者:三浦しをん
出版社:中央公論社
出版日:2015年7月10日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 杉並区の善福寺川が大きく蛇行する辺りにある、古い洋館に住む4人の女性の物語。帯には「ざんねんな女たちの、現代版「細雪」 谷崎潤一郎メモリアル特別小説」とある。とても楽しめた。

 女性たちの名は、牧田鶴代、牧田佐知、谷山雪乃、上野多恵美。鶴代は佐知の母でもうすぐ70歳になる。佐知は37歳で独身、刺繍作家として生計を立てている。雪乃は佐知の友人で佐知と同じく37歳で独身、保険会社に勤めている。多恵美は雪乃の会社の後輩で27歳。

 4人は佐知の曽祖父が建てた家に住んでいる。鶴代と佐知の母娘が住む家に、雪乃と多恵美が順に転がり込んできたわけで、それなりの事情がある。ともかく今は、4人で家事を分担する共同生活を営んでいる。

 日々の暮らしと会話で、女性たち、特に佐知の内面を綴る。恋愛、仕事、友情、孤独、将来。もちろん事件も起きる。けっこうショッキングな出来事や物騒なこともある。しかし、それは佐知たちの内面の変化のきっかけであって、この物語はそうした出来事ではなく、女性たちの心の方を中心に描く。

 4人の名前はもちろん「細雪」の4姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子、にちなんでいる。それぞれの性格も緩やかに関係していると思う。エピソードにも「細雪」との関連を感じるものがいくつかあった。ただし、そういったことは知っていれば「おっ!」と思う程度で、知らなくても本書を楽しむ妨げにはならない。

 佐知の曽祖父が財を成し、ぼんくらの息子が資産が目減りさせたが、鶴代が一生困らぬぐらいの貯金はある。しかし、鶴代の娘(つまり佐知)が困らぬぐらいは、さすがにない。母娘であっても、この境遇の違いは大きく、母娘のかみ合わない会話が面白かった。

 面白いと言えば、佐知の「心の叫び」が今も耳に残る。自分の作品で身を飾ってデートを満喫する女性を思い浮かべて「一針一針にわが情念を込めて、おのれらの魂に直接刺繍してやりたい。おのれらの魂から吹き出す血潮で..」いや、普段は真っ当な生き方をしている常識人なんだけれど。

 参考:エンタメウィーク:浦しをんさんインタービュー

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星間商事株式会社社史編纂室

著 者:三浦しをん
出版社:筑摩書房
出版日:2009年7月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 大好きな三浦しをんさんの作品。でも、発行してすぐには読まなかった。それは主人公が「腐女子」だということだったから。主人公が腐女子じゃぁ、内容もあんな感じ?と思うと、どうにも落ち着かないので。

 読んでみると「あんな感じ」は、心配のないレベルだった。子どもが読むにはどうかと思うから、R-12というところか。

 主人公は川田幸代。29歳。高校生の頃から同人活動を続けている。星間商事株式会社社史編纂室勤務。編纂室には他に、合コンに明けくれる矢田信平と、グラマーなみっこちゃん、定年まであと1年の本間課長がいる。(それから誰も姿を見たことがないけれど、室長もいるらしい)

 現実にはそんなことはないのだろうけれど、フィクションでは社史編纂室というのは「ヒマな部署」だ。星間商事も例外ではない。昨年創立60周年を迎えたのに、社史はできなかった。前半はそんなユルユルのヒマさ加減が描かれる。

 ただ、編纂室の社員たちは実はけっこうデキる。もと居た部署で会社的にちょっとマズいことあって、まぁここに追いやられたわけだ。それなりに仕事を進める内に、会社のある時期に何か秘密があることに気が付く。この謎を追うミステリーが、本書の中心となるストーリー。

 その他に、幸代の同人活動とその仲間の話、幸代と恋人の話、みっこちゃんの恋の話等々、が絡んできて、楽しい読み物になっている。見方によっては、「神去なあなあ日常」「仏果を得ず」「舟を編む」と同じ、お仕事小説の「社史編纂」編でもある。 

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まほろ駅前狂騒曲

著 者:三浦しをん
出版社:文藝春秋
出版日:2013年10月30日第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「まほろ駅前多田便利軒」「まほろ駅前番外地」に続くシリーズ第3弾。舞台と登場人物は、これまでの2作でお馴染みの場所と人々だ。

 物語は、主人公の多田が営む便利屋「多田便利軒」に、高校時代の同級生の行天が転がり込んで、3年目を迎える正月から始まり、その年の大晦日で終わる。級生と言っても友だちではない。会話したことすらない。これまでの2年間と同様、多田は行天の言動に振り回されっ放しだ。

 今回は、「家庭と健康食品協会(略称:HHFA)」という無農薬野菜を販売する団体、バス会社の間引き運転の監視に執念を燃やす「多田便利軒」の常連客、多田が預かることになった4歳の少女の「はる」らを中心に騒動が巻き起こる。そして何と、多田にはロマンスの種が...。(星くんって、いい人だったんだね。)

 多田も行天も、自由に飄々と生きているように見えるが、実は過去の出来事によって精神にダメージを受けている。著者は、本書を「完結編」のつもりで書いたそうだ。そのためなのだろう、彼らの(特に行天の)ダメージの原因が語られ、その救済が描かれている。

 「完結編」ということだが、この終わり方で多田と行天がこのまま大人しくしているはずがない。著者もインタビューで「……どうですかね(笑)」なんて答えている。続編を希望。

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