27.三浦しをん

のっけから失礼します

著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2019年8月10日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 笑い過ぎて酸素不足になって倒れるかと思った本。人前で読むのは控えた方がいい。

 月刊の女性向けファッション誌「BAILA」に連載したエッセイをまとめたもの。2014年6月号から2019年5月号までに掲載した60本を収録。

 とにかく変だ。どうかしていると思う。帯に「ありふれているのに奇想天外な日常」とある。冒頭2本目の「美容時間の問題」というエッセイに衝撃的なことが書かれている。「外出する用事があるときは、ちゃんと風呂に入って顔も洗う」。つまり..外出する用事がない時は,,,。

 「変だ」と思ったのは2つの意味で。1つ目は「なんでこんなに可笑しいのか」ということ。著者はほとんどの日は家に籠って仕事をしていて、だれとも会わない。そんな日常なのに、なんで毎月こんなに面白いことが起きるのか。

 それは、読み進めていけば分かる。それは「著者自身が面白いから」だ。例えば3本目のエッセイ「もやしとぬた」から引用する。

 スーパーでもやしを手にするたび、「やす・・・っ!」と驚愕の声を上げるのを抑えられない。「ヤス!」「銀ちゃーん」。一人で「蒲田行進曲」ごっこをはじめてしまうほどだ。...

 「もやしが安い」だけなのに、それを著者が面白可笑しくしてしまう。まぁ「力技」で面白くなっている。そして面白い著者が面白い人を引き寄せている。お母さんとかお父さんとかお友達とか編集者とか...。その人たちが面白いことをしてくれる。

 「変だ」と思った意味の2つ目は「なんでこの雑誌にこのエッセイなのか」ということ。「BAILA」の読者層は「おしゃれ感度の高い30代」らしく。紙面はおしゃれな洋服やコスメが満載になっている。そこに「外出する用事があるときは風呂に入る」というエッセイが、しかも巻頭に(タイトルの「のっけ」はそういう意味)ある。

 しかも、ここでは具体的に書かないけれど、下ネタもやたら多い。本書の書下ろし部分に、ボツになった下ネタが紹介されているけれど、これを読むと、編集者も頭を抱えた瞬間があるはず。それでも2014年に始まった連載が今も続いている。「おしゃれ感度の高い30代」に支持されているということか?

 冒頭の「とにかく変だ。どうかしている」は、ほめ言葉です。

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愛なき世界

著 者:三浦しをん
出版社:中央公論新社
出版日:2018年9月10日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。そして2冊続けての三浦しをん作品。「愛なき世界」だけれど、愛をたっぷり感じる物語。

 読み始めてしばらくして「これは「舟を編む」の系統だ!」と思った。著者には一部で「お仕事小説」と呼ばれる作品群がある。例えば「舟を編む」は辞書の編纂、「仏果を得ず」は文楽の大夫という、「お仕事」とそれに従事する人にフォーカスした小説、と言える。そして著者の「お仕事小説」が、私は例外なく好きだ。だから本書も期待を持って読んだ。

 主人公は藤丸陽太。20代初め。東京のT大赤門前の洋食屋「円服亭」の住み込み店員。もう一人。本村紗英。20代半ば。T大学理学部で植物の研究をしている大学院生。20代の男女二人が出会ったのだから、なるべくしてなったということで、藤丸くんが本村さんに恋をした。そういうお話。

 「そういうお話」なのだけれど、本村さんの方がウンと言わない。彼女は「植物の研究にすべてを捧げる」と決めている。だから誰ともつきあうことはできないし、しない。あぁ藤丸くん、残念。

 それでも藤丸くんが本村さんに魅かれ続けるし、本村さんだって藤丸くんからたくさんの影響や気付きを受ける。本村さんが所属する「松田研究室」には、いつも黒いスーツを着て陰鬱な殺し屋みたいな松田教授をはじめ、魅力的なキャラクターが揃っている。たくさんのエピソードのそれぞれがとても心地いい。

 そんな具合で今回は「植物の研究者」という「お仕事」に(藤丸くんの「洋食屋の店員」にも少し)フォーカスが当たっている。本村さんだけじゃなくて、研究室の面々の「植物への愛と好奇心」が半端じゃない。それがとても好ましい(家族にいたらちょっと困るかも?)。読者もその一端を垣間見ることで、ちょっと新しい世界を知ることができる。

 期待を持って読んだけれど、本書はその期待に十分以上に応えてくれた。私の「著者の「お仕事小説」が例外なく好き」も継続中だ。

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ののはな通信

著 者:三浦しをん
出版社:KADOKAWA
出版日:2018年5月26日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 主人公は、野々原茜と牧田はな。物語の始まりには、二人とも横浜の女子高校の2年生でクラスメイトだった。今「物語」と書いたけれど、通常の意味の「物語」ではなく、本書は全編が、この二人が互いに相手に書いた手紙で成っている。つまり書簡文学。「のの」と「はな」の間の手紙の往来。タイトルはそういう意味。

 また「手紙」と書いたけれど、郵便による手紙もあれば、授業中に回したメモもあり、後半には電子メールもある。郵便と電子メールには日付が付されていて、これがいつの出来事なのかがはっきり分かることも、本書の特長かもしれない。物語の最初は昭和59年(1984年)、最後は2011年。なんと30年近い時間が流れている。

 これは、「のの」と「はな」の友情を超えた絆の物語。1章は二人が高校生のころ。2章は進路が分かれた大学生のころ。3章は20年のブランクを経た2010年。4章は...3章の「その後」。各章の終わりには二人の関係の「終わり」があり、各章の始まりには「新しい始まり」がある。そうやって二人の関係は決別と再会を繰り返して30年続いた。

 あらすじは敢えて紹介しない。 読み進めると「え?!そう来たのかよ。そっちか!」という「驚き」が何度か。その「驚き」を、これから読む人にも感じて欲しいから。たぶん誰にも予想できない展開だと思う。

 最初の「驚き」が1章の真ん中あたりである。「これはちょっと趣味が合わない」と思うかもしれないけれど、それでもぜひとも2章、3章と読み進めて欲しい。私が「誰にも予想できない」と書いたのは、最初の「驚き」もそうだけれど、むしろ3章の展開の方を指している。

 「しをんさんは、私をどこに連れて行こうとしているのか?」と、最初の「驚き」で不安に思った。しかし、読み終わって連れて行ってもらったのは、読む前よりも少し自分の視界が開けた場所だった。

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X’mas Stories

著 者:朝井リョウ、あさのあつこ、伊坂幸太郎、恩田陸、白河三兎、三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 発行 12月15日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 もうすぐクリスマスなのでクリスマス・アンソロジー。朝井リョウさん、あさのあつこさん、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、三浦しをんさん、という私が大好きな作家さんが名を連ねる、夢のコラボレーション。白河三兎さんはたぶん初めて。

 収録作品を順に。朝井リョウさんの「逆算」は、1日に何度も逆算してしまう女性の話。お釣りの小銭が少なるように、時間に間に合うように。街で見かける人のこれまでの人生まで想像してしまう。あさのあつこさんの「きみに伝えたくて」は、好きだった高校の同級生の思い出を抱えた女性の話。ホラーミステリー。

 伊坂幸太郎さんの「一人では無理がある」は、サンタクロースの話。クリスマスにプレゼントをもらえない子どもたちに、プレゼントを配る組織。ケアレスミスが思わぬ結果を。恩田陸さんの「柊と太陽」は、遠い将来の日本の話。「再鎖国」をしてクリスマスの習慣も忘れら去られて久しい。

 白河三兎さんの「子の心、サンタ知らず」は、リサイクルショップでバイトする司法浪人の男性の話。店主は美人のシングルマザー、その子どもは小賢しいガキ。そのガキから共謀を持ちかけられる。三浦しをんさんの「荒野の果てに」は、タイムスリップもの。江戸時代の天草から現代の地下鉄明治神宮前駅に、武士と農民がタイムスリップ。

 どれも面白かったけれど、最後の「荒れ野の果てに」が、心にしみた。「天草」から想像できると思うけれど、キリシタンの迫害が物語の背景にある。タイムスリップして来た彼らから見れば、今は「理想の世界」。大事にせねば、と思う。

 クリスマスをテーマに、趣の違った物語が楽しめた。六者六様だけれど共通しているのは「クリスマスには何か特別なことが起きる」という気持ちだ。そういう気持ちはいいことだと思う。

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むかしのはなし

著 者:三浦しをん
出版社:幻冬舎
出版日:2005年225月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 7編の短編を収録した短編集。それぞれの短編が「浦島太郎」や「桃太郎」といった昔話をモチーフとした物語にそれぞれなっていて、短編の扉裏のページにその昔話が短く紹介されている。短編集のには、既出の複数の作品を1つにまとめたものであることがあるが、本書は書下ろし。

 一つ目の作品は「かぐや姫」をモチーフとした「ラブレス」。主人公は男性が早死にする家系の男。彼の父も祖父も27歳で死んだ。「明日、隕石が地球に激突します」と言われたような感情を持って、彼は27歳を迎えた。逃げようがない怖い気持ちと、何が起きるんだろうという期待。物語は主人公の一人語りの形で語られる。

 二つ目の作品は「花咲か爺」をモチーフとした「ロケットの思い出」。主人公は、子どもの頃にロケットという名前の犬を飼っていた男。今は空き巣を生業にしている。どうやらそれで捕まったらしいことが、冒頭で明らかになっている。物語は、子どものころから捕まるまでの半生を、警察の取り調べに答えている体で語られる。

 こんな感じで、主人公が自分に起きた出来事を語る。三つ目の「天女の羽衣」をモチーフとした「ディスタンス」まで読み進めても、収録されている作品につながりはない(ちなみに「ディスタンス」はけっこうショッキングな作品だ)。ところが、四つ目の「浦島太郎」をモチーフとした「入江は緑」で、「どっかでこの話聞いたような」と思い、五つ目の「鉢かつぎ」をモチーフとした「たどりつくまで」で、その思いは確信と変わる。

 そして最後の「桃太郎」をモチーフとした「懐かしき川べりの町の物語せよ」で、著者の意図が見えてくる。この短編は98ページと、他と比べて圧倒的にボリュームがあるので、これがメインの物語なのだろう。

 それぞれの短編も独立して個性的で味のある作品が多い。上に書いたように、一冊の短編集を通しての繋がりもある。書下ろしならではの仕掛けだと思う。

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あの家に暮らす四人の女

著 者:三浦しをん
出版社:中央公論社
出版日:2015年7月10日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 杉並区の善福寺川が大きく蛇行する辺りにある、古い洋館に住む4人の女性の物語。帯には「ざんねんな女たちの、現代版「細雪」 谷崎潤一郎メモリアル特別小説」とある。とても楽しめた。

 女性たちの名は、牧田鶴代、牧田佐知、谷山雪乃、上野多恵美。鶴代は佐知の母でもうすぐ70歳になる。佐知は37歳で独身、刺繍作家として生計を立てている。雪乃は佐知の友人で佐知と同じく37歳で独身、保険会社に勤めている。多恵美は雪乃の会社の後輩で27歳。

 4人は佐知の曽祖父が建てた家に住んでいる。鶴代と佐知の母娘が住む家に、雪乃と多恵美が順に転がり込んできたわけで、それなりの事情がある。ともかく今は、4人で家事を分担する共同生活を営んでいる。

 日々の暮らしと会話で、女性たち、特に佐知の内面を綴る。恋愛、仕事、友情、孤独、将来。もちろん事件も起きる。けっこうショッキングな出来事や物騒なこともある。しかし、それは佐知たちの内面の変化のきっかけであって、この物語はそうした出来事ではなく、女性たちの心の方を中心に描く。

 4人の名前はもちろん「細雪」の4姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子、にちなんでいる。それぞれの性格も緩やかに関係していると思う。エピソードにも「細雪」との関連を感じるものがいくつかあった。ただし、そういったことは知っていれば「おっ!」と思う程度で、知らなくても本書を楽しむ妨げにはならない。

 佐知の曽祖父が財を成し、ぼんくらの息子が資産が目減りさせたが、鶴代が一生困らぬぐらいの貯金はある。しかし、鶴代の娘(つまり佐知)が困らぬぐらいは、さすがにない。母娘であっても、この境遇の違いは大きく、母娘のかみ合わない会話が面白かった。

 面白いと言えば、佐知の「心の叫び」が今も耳に残る。自分の作品で身を飾ってデートを満喫する女性を思い浮かべて「一針一針にわが情念を込めて、おのれらの魂に直接刺繍してやりたい。おのれらの魂から吹き出す血潮で..」いや、普段は真っ当な生き方をしている常識人なんだけれど。

 参考:エンタメウィーク:浦しをんさんインタービュー

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星間商事株式会社社史編纂室

著 者:三浦しをん
出版社:筑摩書房
出版日:2009年7月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 大好きな三浦しをんさんの作品。でも、発行してすぐには読まなかった。それは主人公が「腐女子」だということだったから。主人公が腐女子じゃぁ、内容もあんな感じ?と思うと、どうにも落ち着かないので。

 読んでみると「あんな感じ」は、心配のないレベルだった。子どもが読むにはどうかと思うから、R-12というところか。

 主人公は川田幸代。29歳。高校生の頃から同人活動を続けている。星間商事株式会社社史編纂室勤務。編纂室には他に、合コンに明けくれる矢田信平と、グラマーなみっこちゃん、定年まであと1年の本間課長がいる。(それから誰も姿を見たことがないけれど、室長もいるらしい)

 現実にはそんなことはないのだろうけれど、フィクションでは社史編纂室というのは「ヒマな部署」だ。星間商事も例外ではない。昨年創立60周年を迎えたのに、社史はできなかった。前半はそんなユルユルのヒマさ加減が描かれる。

 ただ、編纂室の社員たちは実はけっこうデキる。もと居た部署で会社的にちょっとマズいことあって、まぁここに追いやられたわけだ。それなりに仕事を進める内に、会社のある時期に何か秘密があることに気が付く。この謎を追うミステリーが、本書の中心となるストーリー。

 その他に、幸代の同人活動とその仲間の話、幸代と恋人の話、みっこちゃんの恋の話等々、が絡んできて、楽しい読み物になっている。見方によっては、「神去なあなあ日常」「仏果を得ず」「舟を編む」と同じ、お仕事小説の「社史編纂」編でもある。 

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まほろ駅前狂騒曲

著 者:三浦しをん
出版社:文藝春秋
出版日:2013年10月30日第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「まほろ駅前多田便利軒」「まほろ駅前番外地」に続くシリーズ第3弾。舞台と登場人物は、これまでの2作でお馴染みの場所と人々だ。

 物語は、主人公の多田が営む便利屋「多田便利軒」に、高校時代の同級生の行天が転がり込んで、3年目を迎える正月から始まり、その年の大晦日で終わる。級生と言っても友だちではない。会話したことすらない。これまでの2年間と同様、多田は行天の言動に振り回されっ放しだ。

 今回は、「家庭と健康食品協会(略称:HHFA)」という無農薬野菜を販売する団体、バス会社の間引き運転の監視に執念を燃やす「多田便利軒」の常連客、多田が預かることになった4歳の少女の「はる」らを中心に騒動が巻き起こる。そして何と、多田にはロマンスの種が...。(星くんって、いい人だったんだね。)

 多田も行天も、自由に飄々と生きているように見えるが、実は過去の出来事によって精神にダメージを受けている。著者は、本書を「完結編」のつもりで書いたそうだ。そのためなのだろう、彼らの(特に行天の)ダメージの原因が語られ、その救済が描かれている。

 「完結編」ということだが、この終わり方で多田と行天がこのまま大人しくしているはずがない。著者もインタビューで「……どうですかね(笑)」なんて答えている。続編を希望。

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著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2013年10月25日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、2006~2007年に「小説すばる」に掲載された作品を、2008年に単行本として刊行し、さらにそれを文庫化したもの。

 巻末の吉田篤弘さんによる解説にの冒頭に、「さて、読み終えた皆様、まずは声を揃えて「まいったなぁ」と言い合いましょう」とある。吉田さんの意図とは若干意味合いが違ったが、読み終えた後の私の第一声はまさに「まいったなぁ」だった。

 著者の三浦しをんさんは私の大好きな作家さんで、最近のものに偏っているけれど、小説とエッセイを合わせて十数冊の作品を読んだ。そのほとんどが「明るく前向き」な空気が包んでいたので、そんな物語を想像していた。人間の内面をこんなに黒々と見せる作品だったとは..。

 章ごとに主人公が何人か入れ替わる。1人目は、美浜島という人口271人の島に住む中学生の信之。信之が主人公の第一章は、島ののどかな景色と暮らしから始まる。しかしその島を大きな災害が襲う。それは島の住人のほとんどの命を奪うほどの荒々しいものだった。

 その災害のさ中にもう一つの事件が起きる。信之は同級生の美花を助けるために、「そいつを殺して」という声にしたがって人を殺めてしまう。島を襲った災害とこの事件とは、信之から確実に何かを失わせてしまった。

 第二章以降はそれから20年後の物語。信之の妻の南海子(なみこ)と、信之の美浜島時代の年下の幼馴染の輔(たすく)、それから信之の3人が入れ替わりで主人公となる。災害と事件は信之らの人生を変えてしまっただけでなく、その後の人生にまで重くのしかかる。

 数多くの「悪意」が描かれる。信之や輔の「悪意」も描かれるが、それは「敬慕」やら「憐憫」やらが入り組んだ「屈折」を伴うもので、100%の「悪意」とは違う。しかし、それが折り重なることで、100%の「悪意」よりもさらに醜悪な姿を見せる。

 出版社のWebサイトに、単行本刊行時のインタビューが載っている。「何作か明るい作品が続いていたので、"当然、そうじゃない部分も当然あるよ"と作品という形でお見せできてよかったです。」とのことだ。

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政と源

著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2013年8月31日 初刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 最近は、出す作品が必ずと言っていいほどヒットする著者の最新作。

 タイトルの漢字2文字は2人の主人公の名の1文字ずつだ。有田国政と堀源二郎。2人とも御年73歳。墨田区Y町という荒川と隅田川に挟まれた町で共に暮らしてきた。「幼馴染」という言葉で表すにはあまりに長い付き合い。
 気心の知れた2人だけれど、その生い立ちはずいぶん違う。国政は銀行員として定年まで勤め上げた。言わば堅い人生。源二郎は子どものころに「つまみ簪(かんざし)」職人に弟子入り。以来その道一本で来た職人。傍から見ると「自由人」そのものだ。

 物語は6章からなり。夏から少しずつ季節が移ろって翌年春までの、1年足らずの期間の出来事をつづる。途中で挿入される2人の子供時代のことや、それぞれの結婚にまつわるエピソードが、現在の2人の関係に通じていて、しみじみとさせられる。

 「しみじみ」の一方で、突然「笑いのツボ」を刺激されて、呼吸困難に陥る。主な原因は源二郎の言動にある。冒頭の葬儀のシーンで登場した源二郎は、禿頭の耳の上に僅かに残った頭髪を「真っ赤」に染めている。こんな「自由な」源二郎が大真面目にやるあれこれが面白すぎる。

 73歳になってもつまらないことで喧嘩をしたり拗ねたりと、子どものようだ。2人の境遇はそれぞれに寂しさを抱えている。それでも願わくば、このような年寄りになってみたい...

 第1章の扉絵を見て「じいさん萌えかよ!」と声が出た。少女漫画のイケメンキャラのようなじいさんが2人。カッコよすぎる。
 そうそう「つまみ簪」がわからない人は、Yotubeで「つまみ簪」と検索するといくつかの動画が表示されるので、見てみるといいと思う。

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