2A.あさのあつこ

X’mas Stories

著 者:朝井リョウ、あさのあつこ、伊坂幸太郎、恩田陸、白河三兎、三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 発行 12月15日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 もうすぐクリスマスなのでクリスマス・アンソロジー。朝井リョウさん、あさのあつこさん、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、三浦しをんさん、という私が大好きな作家さんが名を連ねる、夢のコラボレーション。白河三兎さんはたぶん初めて。

 収録作品を順に。朝井リョウさんの「逆算」は、1日に何度も逆算してしまう女性の話。お釣りの小銭が少なるように、時間に間に合うように。街で見かける人のこれまでの人生まで想像してしまう。あさのあつこさんの「きみに伝えたくて」は、好きだった高校の同級生の思い出を抱えた女性の話。ホラーミステリー。

 伊坂幸太郎さんの「一人では無理がある」は、サンタクロースの話。クリスマスにプレゼントをもらえない子どもたちに、プレゼントを配る組織。ケアレスミスが思わぬ結果を。恩田陸さんの「柊と太陽」は、遠い将来の日本の話。「再鎖国」をしてクリスマスの習慣も忘れら去られて久しい。

 白河三兎さんの「子の心、サンタ知らず」は、リサイクルショップでバイトする司法浪人の男性の話。店主は美人のシングルマザー、その子どもは小賢しいガキ。そのガキから共謀を持ちかけられる。三浦しをんさんの「荒野の果てに」は、タイムスリップもの。江戸時代の天草から現代の地下鉄明治神宮前駅に、武士と農民がタイムスリップ。

 どれも面白かったけれど、最後の「荒れ野の果てに」が、心にしみた。「天草」から想像できると思うけれど、キリシタンの迫害が物語の背景にある。タイムスリップして来た彼らから見れば、今は「理想の世界」。大事にせねば、と思う。

 クリスマスをテーマに、趣の違った物語が楽しめた。六者六様だけれど共通しているのは「クリスマスには何か特別なことが起きる」という気持ちだ。そういう気持ちはいいことだと思う。

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シティ・マラソンズ

著 者:三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵
出版社:文藝春秋
出版日:2010年10月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本書は、スポーツ用品メーカーのアシックスの「マラソン三都物語」というプロモーションで、3人の人気女性作家がそれぞれ書き下ろした短編を収録したもの。その3人というのは、三浦しをんさん、あさのあつこさん、近藤史恵さん。これは贅沢だ。

 「三都物語」の「三都」とは、ニューヨーク、東京、パリの3つ。それぞれで毎年3万5~6千人もの市民ランナーが参加する、シティマラソン大会が催されている。三浦さんが「ニューヨークシティマラソン」あさのさんが「東京マラソン」、近藤さんが「パリマラソン」。それぞれのマラソン大会を題材にした物語を書き下ろしている。

 マラソン大会当日を描いたのは、三浦さんだけ。主人公を大会の参加者にしなかったのは、あさのさんだけ。主人公が陸上経験者じゃないのは、近藤さんだけ。三者三様だ。しかし、共通するものも見える。それは「回復」の物語だ。

 3人の主人公たちは、それぞれ挫折を経験している。いや、それは挫折とも言えないかもしれない。人生のどこかに置き忘れてしまったもの。そこの部分には穴が空いているので、本人もそうと気づかないけれど満たされない思いが募っている。そんな感じ。

 その穴がマラソンに関わることで埋められる。きっと「走る」ということは、人間の欲求や感情と深く結びついているのだと思う。小さな子どもたちを広い場所に連れて行くと、意味もなく駆け出すのは、それが気持ちいいからだ。

 そう、元来「走る」ことは気持ちいい。タイムや順位に拘れば辛いことが多くなる。しかし3万5千人もの参加者の多くは、気持ちよさを求めて集うのだろう。ネットには各大会の優勝記録が載っているけれど、記録には残らない何万何十万もの参加者と、その周辺の一人ひとりに物語があることを、本書は教えてくれる。

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ほっと文庫「ゆず、香る」「郵便少年」ほか

著 者:有川浩、森見登美彦、あさのあつこ、西加奈子
出版社:バンダイ
出版日:2011年8月1日
評 価:☆☆☆(説明)

 おもちゃ・ホビーのバンダイと角川書店のコラボレーション商品。30ページほどの短編小説に、その小説に登場する色と香りの入浴剤が1包付いている。全部で6種類発売されている内の4種類を買って読んでみた。

 読んだのは、有川浩さん「ゆず、香る」、森見登美彦さん「郵便少年」、あさのあつこさん「桃の花は」、西加奈子さん「はちみつ色の」の4つ。前の3人は、私が好きな作家さんで、西さんは「もし面白かったら他の作品も読んでみよう」と、新規開拓のつもりで選んだ。

 面白かった順も上に書いた順のとおりだった。まぁ好きな作家さんの順に書いたので、好きな作家さんの作品が面白かった、という至極当たり前の結果になっただけ、とも言える。

 それぞれを簡単に紹介する。「ゆず、香る」は、王道のラブストーリー。コラボ作品としてハマり過ぎな感じ。「郵便少年」の主人公は、たぶん「ペンギン・ハイウェイ」のアオヤマ君。悲しくもほのぼのとした作品。「桃の花は」は、30歳の女性の遠い昔の記憶をめぐる不思議な物語。「間に合ってよかった」と思えるいい話。「はちみつ色の」の主人公の小学生の母親は小説家。自分の誕生日に「誰からもおめでとうメールが来ねぇ」と憤っているような人。新規開拓のつもりだったが、私には合わなかったらしい。

 それぞれの著者のファンで、(399円払っても)30ページの書き下ろし短編が読みたい、という方にはおススメ。「小説と入浴剤のセットって、ちょっと面白そうじゃない?」という方もOK。

※この商品は入手困難になっている。私も1週間前に、近くの書店、ホームセンター、ドラッグストアを何軒か回ったが売っていなかった。商品のホームページに載っている「商品お取扱店舗」にも行ってみたが、チェーンの場合、全店にあるわけではないらしい。
 今日(2011.8.20)現在では、ネット書店で取り扱いがあるようだけれど、「ゆず、香る」と「郵便少年」は、Amazonでは在庫がなくて「9月26日入荷予定」になっている。
 1週間前には他のも在庫がなかったので、私はバンダイのショッピングサイト「プレミアムバンダイ」で購入した。ここなら今も買えるようだ。(ただし送料が525円(税込)かかる。399円のものを買うのにこの送料はちょっと痛い)

 ここからは書評ではなく、この商品についてちょっと気になったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ

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(さらに…)

ラスト・イニング

著 者:あさのあつこ
出版社:角川書店
出版日:2007年2月14日初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 同じ著者による小説「バッテリー」第6巻の新田東と横手ニ中の試合の前後談。特に第2章「白球の彼方」では、横手ニ中の名遊撃手、瑞垣の口によってあの試合の後、彼らが歩んできた道が明らかにされる。もちろん、第6巻の最後に巧が門脇に対して投げた白球がどうなったかも語られる。

 「バッテリー」の続編であることには違いないが、主人公は瑞垣だし、話の中心は瑞垣と門脇の関係に置かれている。それぞれ中学を卒業し、今は別々の高校に通う。どちらも進学先の高校は、周囲の期待や予想と違ったものだった。門脇はあるものを追い求めるため、瑞垣はあるものから逃れるため、15才の少年とは思えない決断の末の行動だった。

 正直に言って、この本を読もうと思ったのは、あの試合がどうなったのか知りたかったからだ。「バッテリー」はあそこで終わった話だし、充分に完結しているので、その後のことは、想像したい人は想像すればいい、という意見もあろう。私も、この本が出ていなかったらそう言うだろう。でも、知りたくて読んでしまった。「後日談など知らないほうが良かった」という結果を招く可能性を省みずに….。
 少し、意味ありげな言い方をしたが、結果的に言えば、読んでよかったと思っている。「バッテリー」読者にもおススメする。巧と門脇の対決の結果も、著者は実に練りこんだ答を用意していた。直接は語られないが、巧と豪のバッテリーの強靭さも垣間見られる。それにも増して、瑞垣と門脇の2人の少年のひたむきさを感じることができる。

 そう、本書を含めた「バッテリー」シリーズに流れる通底奏音は、少年たちのひたむきさ、なのかもしれない。本書で「ほんまもんの極めつきの生意気な人」と評される巧の頑なさも、混じりけのない「少年らしい素直さ」と見る見方にも、ある人に言われて気付かされました。瑞垣や門脇の行動からも同じような衝動があるように思います。
 主人公の巧たち1年生と比べて、3年生の瑞垣や門脇、海音寺らは大人びて描かれていたため、忘れてしまいそうになりますが、彼らとてたった2歳年上なだけでまだ10代半ば。迷いや悩みも多く、自分では処理しがたいこともあるはずなのに、彼らは自分の意思で乗り越えていく。感動。

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バッテリー(1)~(6)

著 者:あさのあつこ
出版社:角川書店
出版日:(1)2003.12 (2)2004.6 (3)2004.12 (4)2005.12 (5)2006.6 (6)2007.4 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 第1巻は11年前、最終巻の6巻は3年前に刊行されている。噂はかねがね聞いていた。児童書だと軽く見てはいけない、と。この度、小学生の娘が春休みに読むために6冊まとめて文庫本で買ってきたのを読んだ。
 主人公は、中学1年生の天才ピッチャー原田巧。中学生の天才ピッチャーというのがどういったものがイメージしにくいのだが、彼の球を受けた人、打席に入って対峙した人、近くで見た人までもが、「あいつは天才やで」と言うような球を投げる。
 彼が岡山の小さな街である新田市に、父親の仕事の都合で引っ越して来て、やはり才能のあるキャッチャーである永倉豪と出会い、バッテリーを組む。この二人を中心に、その家族、同級生、周辺の大人たち、他校の野球部員と、渦を大きくしながらストーリーが展開する。

 「渦」という言葉を使ったが、巧自身は、周辺への関心を全く持たないにも関わらず、周りの人々を巻き込んでしまう。巧の球を受けることができる唯一人のキャッチャーの豪、巧の球を打つことに魅入られてしまった全国レベルの強打者の門脇、その他にも多くの人たちの生活を、大げさに言えば人生を変えてしまう。巧が誰も投げられない球を投げる、というその1点だけのために。

 児童書だと軽く見てはいけない、と聞いていたが、全くその通りの読み応えのある本だった。うがった見方をすると、児童書というのは、大人から見て「子どもはこうあって欲しい」というメッセージを込めたものと言えるだろう。しかし、主人公の巧はそういった子ども像には収まらない。その意味では、本書は児童書たりえないのではないか?
 彼は、より早く力強い球を投げるという目的以外の、一切の規範や常識を拒む。監督に髪を切るように言われても、野球と関係ないとして無視する。先輩の言うことにも従わない。自分を支えてくれる豪の心情さえも汲むことができない。
 そんなだから、当然衝突を生む。彼のむき出しの自我が、周囲の人々とぶつかり、お互いを深く傷つける。

 「こうあって欲しい」ということで言えば、こんな巧が色々な経験を経て成長し、周囲に受け入れられていく、という成長物語が順当なところだろう。そういった話なら児童書として安心して読める。
 著者も、巧が周囲と妥協していく方が楽だと分かっていた。それでもそれを拒んだ。巧の物語をそんな風に描いてしまっては、巧を貶めることになると思って、彼を変えることを頑なに拒んだのだ。行間から、自分が生み出した主人公が辛い思いをすることへの葛藤が伝わってくる。

ココから先はネタバレありです。

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