リラの花咲くけものみち

書影

著 者:藤岡陽子
出版社:光文社
出版日:2023年7月30日 初版第1刷 12月25日 6刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 2024年の吉川英治文学新人賞受賞作品

 言葉にするとありきたりだけれど、人が成長するということと、命は尊いということを感じる本

 主人公は岸本聡里。物語の始まりでは大学の新入生だった。北海道にある北農大学獣医学類。物語は獣医師を目指す聡里の学生生活の6年間を描く。

 女子寮に入寮した日、同室の子から「ファーストネームで呼んで」と言われて、聡里も「私も聡里って呼んでね」と本当は言いたいのに声にならない。聡里はそんな少女だった。

 冒頭で聡里の生い立ちが簡潔に描かれる。小学生の時に母を亡くし、父の再婚によって家の中での自分の居場所もなくし、中学卒業の少し前から祖母と暮らした。中学にはほとんど行っていないこともあって、大学進学は考えていなかったが、周囲の勧めに押し出されるような感じで大学生になった。

 心を揺さぶられる作品だった。

 基本的には聡里の成長物語で、事件もあり片想いもありの王道の青春小説だ。しかし獣医師を目指す聡里の学生生活は少し特別だ。授業には多くの実習があるのだけれど、そこでは動物の誕生に立ち会うこともあれば、避けられない死を経験することもある。
 その生々しい描写は、読んでいる私はギリギリ顔を背けずにいられたけれど(著者の描写の塩梅が絶妙に私に合っているのだと思う)、それに直面する聡里の気持ちは如何ばかりかと思う。

 青春小説王道の「成長」の部分も、とてもよかった。前には辛くて逃げ出してしまったことが、今度は真正面から受けとめられるようになった。それにはそれなりの時間がかかったけれど、少女から大人になる時期の成長は意外と早いこともある。

 祖母には「大事なことを伝えるには、大きな声ではっきり」と、そう言われていたが、冒頭の「ファーストネーム呼び」のエピソードのように、それがなかなかできなかった。でも友達に大事なことをちゃんと伝えられたエピソードは比較的早く訪れる。その友達とは親友になった。よかったねぇ、ちゃんと言うことができて..。

 娘より年下の女性の物語は、保護者目線で見てしまって涙腺が緩くて困る

 最後に、心に残った言葉を2つ

 絶対にしなくてはいけないことなんて、この世の中には一つもない

 いま言わなくては一生後悔することがある (中略) 人と人はその時限り、もう二度と会えないことの方が多い

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