31.伊坂幸太郎

クジラアタマの王様

著 者:伊坂幸太郎
出版社:NHK出版
出版日:2019年7月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「伊坂幸太郎の本を読む」という期待にキッチリ応えてくれた本。

 主人公は岸君。大手のお菓子メーカーの宣伝広報部員。妊娠中の妻と二人で暮らしている。この前まで「お客様サポート」に居て、そこでの苦情対応は高く評価されている。物語は,岸君の会社の新商品のマシュマロに対する苦情電話から動き出す。「マシュマロに画鋲が入っていた」という。

 岸君の後任のお客様サポート係が、この苦情への対応を失敗する。棒読みの謝罪の言葉、「はいはい」というバカにしたような返事、相手の主張に反論して、挙句にもう1回「はいはい」とあしらってしまった。当の後任は「投了」と言って会社を休んでしまい、岸君がその対応力を見込まれて、お客様サポートに復帰して事後処理にあたることになった..。

 本書には珍しい特徴がある。エピソードが切り替わるタイミングで十数カ所、コマ割りされたマンガが数ページ挟まっている。マンガは冒頭にもあって「ロールプレイングゲームの主人公が旅立つ」風の様子が描かれている。途中に差し挟まれているのには、その主人公が大きな獣と闘っている様子も。

 小説が苦手とする(と著者が思っている)アクションシーンを、絵やコミックで表現して挟み込む。これは著者が10年ほど前から考えていたことだそうだ。とはいえ、文章で表現された物語と挟み込まれたマンガの関連が、最初はさっぱり分からない。ある時「そういうことか!」と分かる。「胡蝶の夢」という言葉を思い出した。さらに進むと「胡蝶の夢」という言葉を思い出した。これはけっこう効果的な趣向だった。

 帯に「伊坂幸太郎の神髄がここに」とある。ちょっと誇大かなと思うけれど、言いたいことは分かる。ごく平凡に善良な人間が巻き込まれてヒーローに。立ち向かう相手は、得体のしれない巨大なシステム。ちょっと現実から遊離したような設定。技巧的なことを言えば伏線と回収、気の利いたセリフ。こういうのは伊坂さんの「スタイル」だ。私はこういうのが大好きだ。

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美女と竹林のアンソロジー

著 者:森見登美彦、伊坂幸太郎、恩田陸、有栖川有栖、京極夏彦 ほか
出版社:光文社
出版日:2019年1月30日 初版1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

知っている作家さん、初めての作家さん、いろいろな作家さんのテイストが楽しめる、詰め合わせギフトのような本だった。

本書は、「竹林愛好家」の森見登美彦さんが「美女と竹林」というテーマで、他の作家さんに作品をお願いしてできたアンソロジー。「お願い」に応じた作家さんが9人。阿川せんり(敬称略。以下同)、飴村行、有栖川有栖、伊坂幸太郎、恩田陸、北野勇作、京極夏彦、佐藤哲也、矢部嵩。これに森見さんを加えた10人の「美女と竹林」(をテーマにした作品)を収録。

まず、知っている作家さんから2人。伊坂幸太郎さんの「竹やぶバーニング」は、仙台の七夕祭りで使われている無数の竹の中から、「かぐや姫」が混入(!?)した竹を探す。「美女」で「かぐや姫」その人が登場するのも、「竹林」そのものが出てこないのも、他の作家さんにはあまりない特徴で、無二な印象を受けた。

恩田陸さんの「美女れ竹林」。「美女らない、美女ります、美女れ、美女ろう」と活用する。このアンソロジー企画の依頼の場面から書き起こしたり、なかなかコミカルな感じで始まるのに、この物語がダントツで怖かった。そういえば恩田さんは、コミカルもホラーも書く人だった。

次に、初めての作家さんから1人。佐藤哲也さんの「竹林の奥」には驚いた。23ページの作品全部が1段落で構成されているのだ。全編がワンカットの映画みたいだ。同じことを少しずつ表現を変化させて次の文に受け渡す。話もズルズルと物の位置がずれるように進む。一見して読みにくいだけでなく、確かに読みにくいのだけれど、不思議と最後まで読めた。

有栖川有栖さんや京極夏彦さんの作品は、確かにそれぞれの方の特徴が感じられるのだけれど、なぜか「森見登美彦っぽく」感じた。それは、初めての作家さんの何人かの作品でもそう思った。ちょっと不思議。

そうそう。森見さんには「美女と竹林」という作品がある。「妄想エッセイ」という森見さんにしかないジャンルの作品だ。

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シーソーモンスター

著 者:伊坂幸太郎
出版社:実業之日本社
出版日:2019年4月10日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 テンポよく物語がドンドン展開して、ハラハラワクワクする物語だった。

 本書は2つの物語が収録されている。表題作「シーソーモンスター」と「スピンモンスター」。「シーソーモンスター」は、製薬会社の営業マンの直人と、その妻の宮子の2人が主人公。直人の母のセツと3人で暮らしているが、宮子とセツつまり嫁姑の仲が悪い。80年代の「日米貿易摩擦」の日米ぐらい相いれない。(ちなみに、この物語の時代も80年代末)

 直人と宮子は、それぞれ事件に巻き込まれる。直人は顧客先の病院に不正に巻き込まれ、宮子の方は事故で亡くなった義父のことを、昔の伝手で調べていたら、自宅で暴漢に襲われた。..昔の伝手?そう、宮子には直人にもセツにも話していない過去がある。なんか超カッコいい。

 「スピンモンスター」は、「シーソーモンスター」から60年ほど後。現在からなら30年後ぐらいの近未来。人々は「パスカ」という、通信端末、身分証明書、財布を兼ねたカードを持ち歩いていて、もちろんそこに様々な履歴も記録されている。そのカードの情報や、防犯カメラの映像で、どこにいても警察などの政府機関にすぐに見つかる。

 主人公は水戸と檜山。主に水戸目線で物語は進む。上に書いたような世の中なので、送ったメールはすぐにコピーされる恐れがある。だから、大事なことや秘密なことは、手書きのメッセージで送るようになった。水戸はそのメッセージの配達人で、ある人のメッセージを配達したことで、追われる身となる。逃げて逃げて逃げる。そして「シーソーモンスター」の宮子も登場する。やっぱりカッコいい。

 奥さんがタダ者じゃないのは、伊坂さんの名作「モダンタイムス」を思い出す。逃げて逃げて逃げるのは、頂点を極めたと言われる「ゴールデンスランバー」のパターン。伊坂幸太郎ファンなら「あぁこれこれ!」というような、伊坂作品の魅力が詰まっている。もちろん、ファンではなくても楽しめる。

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フーガはユーガ

著 者:伊坂幸太郎
出版社:実業之日本社
出版日:2018年11月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 今年の本屋大賞の第10位の作品。

 主人公は常盤優我。20代前半。彼には風我というな名の双子の弟がいる。「フーガとユーガ」。タイトルは双子の兄弟の名前なわけだ。優我は、仙台のファミリーレストランで、東京のテレビ制作会社のディレクターの高杉と会っていた。本書は、優我が高杉に語った、自分たち双子の兄弟の長い物語。

 高杉と会うきっかけは、一つのビデオ。悪趣味というか完全に犯罪だけれど、ファストフード店のトイレの盗撮映像だ。そこには優我が映っていて、映像が飛んだように瞬間的に体勢が変わって、しかもさっきまでなかった絆創膏が顔に貼られていた。そのビデオを持ち込まれた高杉が、優我を探し出して「この動画について教えてほしい」と聞いてきた。

 優我の説明は明快だ。「双子の兄弟が瞬間移動で入れ替わっている」。ただ、優我は前もって高杉に告げている「僕の喋る話には記憶違いや脚色だけじゃなくて、わざと嘘をついている部分もあるので、真に受けないほうがいいですよ」...

 なかなか爽快な物語だった。でもそれ以上に痛々しかった。読者は高杉と一緒に、ウソかホントか分からない優我の話を聞かされる。でも「双子が瞬間的に入れ替わる」現象を使えば、いろいろなことができる。ちょっとしたいたずら。いじめられているクラスメイトを助ける。もっと大胆な仕掛けにも挑んでいく。うまく行った時には爽快だ。まぁウソかもしれないけれど。

 痛々しいのは、彼らや彼らの周辺の人たちの生い立ちや暮らしぶり。詳しくは書かないけれど、双子は真っ当な両親には恵まれなかった。物語は「父親に殴られる風我を優我がが見ている」というシーンから始まる。これ以上にひどいことはないように思うけれど、これを上回るかもしれない出来事も起きる。子どもがつらい目に会う話が苦手な私としては、ちょっとつかった。

 最後に。ちょっとつらい部分も含めて、著者の作品らしさを感じる物語だった。伏線もあるし、他の作品とのリンクもあるし、気の利いたセリフもある。私としては、ワタヤくんの職業に「あぁ伊坂さんらしい」と思った。

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クリスマスを探偵と

著 者:伊坂幸太郎 絵:マヌエーレ・フィオール
出版社:河出書房新社
出版日:2017年10月30日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

  完全に時機を逸してしまったけれど、クリスマスをテーマにした作品。

 本書は、以前に出版された「文藝別冊 [総特集]伊坂幸太郎」に収録された短編に、マヌエーレ・フィオールというイタリアの漫画家・イラストレーターの方の絵を付けて、絵本として出版したもの。ちなみに、この短編は伊坂さんが18歳の時に書いた「生まれて初めて完成させた物語」をリメイクしたもの。

 主人公はカール。15歳で家出をして、いくつかの職を経た後、4年前からは探偵まがいの仕事をしている。今日もクリスマスイブだというのに、浮気調査のために寒空のローテンブルクの街で、腹にたっぷりと肉の付いた50過ぎの男を尾行している。

 その男性が入って行った屋敷の近くにある公園で、ベンチに腰掛けて本を本を読んでいたサンドラと名乗る男性と言葉を交わす。時間もあることだし成り行きで、カールはサンドラに自分の身の上に起きたことを話始める。子どものころのクリスマスにまつわる苦い思い出を。

 著者自身が「技術的にはかなり拙いものだったのですが、アイディアやストーリー展開については気に入っていました」とおっしゃっている。先入観があることを承知で言うけれど、ストーリー展開には「著者らしさ」が感じられる。こうだと思っていたことが、実はそうではない(かも)。そいういう物語。

 昨年のクリスマスに合わせて読んだアンソロジー、「X’mas Stories」に収録されていた著者の作品「一人では無理がある」と、共通する着想もあって両方読むと面白さが増す。

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X’mas Stories

著 者:朝井リョウ、あさのあつこ、伊坂幸太郎、恩田陸、白河三兎、三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2016年12月1日 発行 12月15日 第3刷
評 価:☆☆☆(説明)

 もうすぐクリスマスなのでクリスマス・アンソロジー。朝井リョウさん、あさのあつこさん、伊坂幸太郎さん、恩田陸さん、三浦しをんさん、という私が大好きな作家さんが名を連ねる、夢のコラボレーション。白河三兎さんはたぶん初めて。

 収録作品を順に。朝井リョウさんの「逆算」は、1日に何度も逆算してしまう女性の話。お釣りの小銭が少なるように、時間に間に合うように。街で見かける人のこれまでの人生まで想像してしまう。あさのあつこさんの「きみに伝えたくて」は、好きだった高校の同級生の思い出を抱えた女性の話。ホラーミステリー。

 伊坂幸太郎さんの「一人では無理がある」は、サンタクロースの話。クリスマスにプレゼントをもらえない子どもたちに、プレゼントを配る組織。ケアレスミスが思わぬ結果を。恩田陸さんの「柊と太陽」は、遠い将来の日本の話。「再鎖国」をしてクリスマスの習慣も忘れら去られて久しい。

 白河三兎さんの「子の心、サンタ知らず」は、リサイクルショップでバイトする司法浪人の男性の話。店主は美人のシングルマザー、その子どもは小賢しいガキ。そのガキから共謀を持ちかけられる。三浦しをんさんの「荒野の果てに」は、タイムスリップもの。江戸時代の天草から現代の地下鉄明治神宮前駅に、武士と農民がタイムスリップ。

 どれも面白かったけれど、最後の「荒れ野の果てに」が、心にしみた。「天草」から想像できると思うけれど、キリシタンの迫害が物語の背景にある。タイムスリップして来た彼らから見れば、今は「理想の世界」。大事にせねば、と思う。

 クリスマスをテーマに、趣の違った物語が楽しめた。六者六様だけれど共通しているのは「クリスマスには何か特別なことが起きる」という気持ちだ。そういう気持ちはいいことだと思う。

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ホワイトラビット

著 者:伊坂幸太郎
出版社:新潮社
出版日:2017年9月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「AX(アックス)」のレビュー記事に「うれしいことに今年は伊坂幸太郎さんの新刊が3冊も出た」と書いたけれど、本書はその2冊目。

 主人公の名前は兎田孝則。2年前から「誘拐」をビジネスにしているグループで働いている。「ビジネス」だから業務分担があり、兎田は「仕入れ担当」。つまり、上から指示された人を連れ去ってくる役割。「倉庫」と呼ばれる指定場所まで人質を無事連れてくれば業務完了。

 重要な登場人物が他に2人いる。一人は宮城県警特殊捜査班の夏之目課長。この物語では、仙台市の住宅街で起きた、人質立てこもり事件の指揮を執る。もう一人は泥棒の黒澤。ひょんなことから事件に巻き込まれた。黒澤は、伊坂作品ではお馴染みの登場人物。ファンなら彼の登場はちょっとうれしいはずだ。

 物語は、夏之目課長が対応する人質立てこもり事件を中心に展開する。兎田が引き起こしたものだ。兎田の警察への要求は、「折田」という名前の人物を連れてこい、というもの。その人物が見つからないと、兎田のかわいい新妻の綿子ちゃんが、大変なことになる。

 「誘拐」をビジネスにするグループの一員とか、真っ当な人間とは言えないけれど、兎田にも憎めないところがある。その一方で、善良な市民のはずの被害者の家族が、ちょっとあやしい。あっさりと見つかった折田も、やけのクセのある人物。誰も信用できない。

 面白かった。これは伊坂さんが時々やるやつだ。いくつかの視点から出来事を描いていく。最後にそれらが「正しく」組み合わさると、思ってもみなかった真相が浮かび上がる。

 最後に。三人称で書かれた小説なので「語り」がある。その「語り」にちょっと「遊び」があって、伊坂さんとしては、たぶん新しい試みだと思うのだけれど、なかなか良かった。

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AX(アックス)

著 者:伊坂幸太郎
出版社:KADOKAWA
出版日:2017年7月28日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 うれしいことに今年は伊坂幸太郎さんの新刊が3冊も出た。本書はその1冊目。

 各エピソードの初めに、主人公の名前のハンコのマーク。これで本書が「グラスホッパー」「マリアビートル」に連なる物語だと分かる。そう、殺し屋がたくさん登場する(人がたくさん死ぬ)「殺し屋業界」の物語。帯には「殺し屋シリーズ」と書いてあった。確かに3冊目もあれば「シリーズ」だ。

 主人公の名前は「兜」。もちろん「仕事」をするときの名前で、本名は「三宅」というらしい。家族は妻と高校三年生の息子がいる。殺し屋の物語に、家族とのエピソードがあるのは、ちょっと珍しいと思うが、さらに珍しいのは、「兜」が大変な恐妻家であることだ。(そういえば、必殺仕事人の中村主水も恐妻家だったか。意外とあるのかも、この設定)

 どのくらい恐妻家かと言うと、「仕事」を終えて帰って来て妻が寝ていたら、腹が減っていてもカップラーメンは食えない、ほどだ。ビニールを破る音、フタを開ける音で、妻を起こしてしまったらいけないからだ。もしそうなったら「大変なこと」になるらしい。

 まぁそんな具合で(ちょっと変わった形だけれど)「家族思いの殺し屋」である「兜」は、息子が生まれたころから「仕事を辞めたい」と思っている。簡単に抜けられる業界ではないので「上からの指示」のまま、ズルズル「仕事」を続けている。

 本書はそうして「辞めたい」と思いながら、家族のことを気にしながら、妻にビクビクしなが、それでも標的を確実に仕留める、兜の鮮やかな仕事ぶりを描く5つの物語を収録した連作集。

 やっぱり面白い。「恐妻家の殺し屋」という設定に、少し面食らったけれど、これが物語に何ともいい味を醸し出すのに役立っている。伊坂作品らしく、伏線としても最後に生きて来る。いつも通りの技ありの作品。

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サブマリン

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2016年3月30日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。書き下ろし長編で、あの「チルドレン」の続編で、「陣内さん、出番ですよ。」と書いた帯が付いている。これは伊坂ファンならばすぐにでも読みたいだろうと思う。

 陣内は、数多い伊坂作品の魅力的なキャラクターの中でも、人気がある登場人物で、「チルドレン」以来12年間登場していない(たぶん。作品間リンクでの言及はあったけれど)。つまり待望の再登場だからだ。

 「チルドレン」は、陣内の学生時代と家裁の調査官になってからの、2つの時代を交互に描いた短編集だった。本書は長編で、家裁の調査官で主任になった陣内を、陣内さんの部下となった武藤を主人公にして描く。時代は「チルドレン」の「家裁の調査官パート」から、数年後ぐらい。

 陣内のことがよく分かるエピソードが「チルドレン」にある。永瀬という盲目の友人が、盲目というだけで憐れまれて現金を手渡された。その過剰な同情は、永瀬はじめ友人たちの心に影を落とす。陣内も怒った。「何で、おまえがもらえて、俺がもらえないんだよ」「(目が見えないことなど)そんなの関係ねえだろ」

 その魅力は健在だった。「空気を読まない」から誰かを傷つけてしまうかもしれない。でも、その固定観念に縛られない感性は、時に「本当に大事なモノ」をしっかりと捉える。陣内のところに、かつて担当した少年たちがなぜか顔を出すのは、やはり何か救われた思いがあるからだろう。

 だから面白かった。ただ、本書は重いテーマを抱えている、ということも指摘しておく。サンデル先生の「これからの「正義」の話をしよう」に重なる、「正義」に関するもので、容易には答えが出ない。そのために、荷物を持ったまま物語を読むような気の重さを感じてしまった。

 最後に。鴨居くんはどうしたのだろう?

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陽気なギャングは三つ数えろ

著 者:伊坂幸太郎
出版社:祥伝社
出版日:2015年10月20日 初版第1刷 10月30日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 伊坂幸太郎さんの最新刊。「陽気なギャングが地球を回す」「~の日常と襲撃」に続くシリーズの第3弾。

 主人公は、お馴染みの響野、成瀬、久遠、雪子の4人組の銀行強盗たち。銀行強盗は2年ぶりだと言っているし、係長だった成瀬は課長になっているし、(第1弾で)中学生だった雪子の息子の慎一くんは大学生になっている。確実に時間が流れている、ということだ。

 時間は流れても彼らは変わらない。冒頭の響野の演説で「あぁあいつらが帰って来た」と感じた。「理由や意味のあることをほとんど言わない」という響野は、強盗に入った銀行で、カウンターに登って演説をする。

 その演説の間に仕事を終えて現場からは、正確無比な体内時計と超絶運転テクニックを持った雪子の車で逃走する。それが彼らのスタイル。ところが今回は現場から立ち去る時にアクシデントがあり、それが事件の発端。

 失踪したアイドルを追う怪しい雑誌記者に関わる→雑誌記者が通う会員制ギャンブルを開くギャンググループに関わる→追われる身になる..といった「巻き込まれ型」の展開で、テンポよく物語が進む。ちょっとした伏線が後で効いてくる。これまでのシリーズの良さが、そのまま生きている。

 「あとがき」に伊坂さん自身が書いているように、伊坂作品にはシリーズものは少ない。「この先どうなるのか分からない」話を書きたい、というのがその理由のひとつだそうだ。この「陽気なギャング」シリーズだって、簡単には先は読めないのだけれど、「お馴染みの雰囲気」が楽しめるという安心感はあって、それが心地いい。

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