マチネの終わりに

著 者:平野啓一郎
出版社:毎日新聞出版
出版日:2016年4月15日 第1刷 12月25日 第13刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

「分かってもらえる」という気持ちは、強い結びつきにつながるものなのだな、と思った本。

2017年の渡辺淳一文学賞受賞、2019年11月に福山雅治さん、石田ゆり子さんをキャストとして映画化された。

主人公は蒔野聡史、クラシック・ギタリスト。物語の始まりの時には38歳。18歳の時に「パリ国際ギター・コンクール」で優勝した天才。20年経ってもその才能は衰えることはなく、2006年のその年は、国内で35回、海外で51回のコンサートをこなし、盛況のうちに最終公演日を迎えていた。

その最終公演日。サントリーホールで行われたコンサートの後に、蒔野と出会った女性が小峰洋子。40歳。フランスのFRP通信の記者。蒔野のレコード会社の担当者から紹介された。蒔野がその日唯一満足できた曲を洋子が褒める、それで気持ちが通じた。互いに特別な思いを感じた。

洋子には婚約者がいた。それは紹介された時からそう明かされていた。それでも蒔野の想いは募る。さらに、コンサートの直後に洋子は取材のためのイラクに行ってしまう。2003年に多国籍軍が侵攻し、その後内戦状態になっていたイラクに...。

物語が描くのは、この2006年から2012年まで。その間に、蒔野の身にも洋子の身にも、本当にいろいろなことが起きる。想いを募らせていたのは蒔野だけでなく洋子もで、互いの想いは相手にも伝わる。それでも行き違いが起きる。偶然の積み重ね、少しの無関心や無作為、人の心の脆さなどによって。歳を重ねた大人同士のラブストーリー。嘆息なしでは読めない(時には強い憤りも)。

それにしても、いい歳をした男女のくっついたり離れたりが、どうしてこんなに美しく感じるのか?これは著者の文章が織りなす美しさなのだろう。「よく晴れた朝」と書けば済むところを、「空の青さが、忙しなく家を出た人々の口を、一瞬、ぽかんと開けたままにさせるような」と描いて見せる。時折あるこんな表現も印象に残った。

これは後世に残る名作かも?と思った。

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新聞記者・桐生悠々忖度ニッポンを「嗤う」

著 者:黒崎正己
出版社:現代書館
出版日:2016年12月16日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 私は、桐生悠々のことを深くは知らず、浅薄であったな、と思った本。

 タイトルにある「桐生悠々」というのは、明治から昭和初期に活動した石川県出身のジャーナリストの名前。いくつかの職業に就き、いくつかの新聞社で記者として勤めた後、明治43年に信濃毎日新聞社の主筆に就任。一度退社した後に昭和3年に復帰、昭和8年まで同社の主筆を務めた。

 「桐生悠々」の名は、「長野県の近現代史」や「戦争とジャーナリズム」について勉強していると、比較的早い段階で知ることになる。昭和8年に信濃毎日新聞社を退社する原因となった「関東防空大演習を嗤ふ」という社説が有名だからだ。当時、関東一帯で行われた防空演習について、「帝都の空に迎へ撃つといふことは、我軍の敗北そのものである」と、「防空演習なんてしたって意味ないじゃん」と嗤ったのだ。昭和8年は、日本が国際連盟を脱退した年。2年前に起きた満州事変を境に、報道と世論が軍部支持に染められていたころだ。

 前置きが長くなった。しかし、このことは著者が本書を著すきっかけであり、現在と大いに関係がある。2017年に「X国からミサイルが発射され、我が国に飛来する可能性がある」として、全国で避難訓練が行われた。アラートから着弾まで4分とされる中で、頑丈な建物に避難するか、物陰に身を隠す、そうなければ「地面に伏せて頭部を守る」、という訓練だ。もうお分かりだと思うが、「関東防空大演習」と同じかそれ以上に「意味ないじゃん」だ。

 著者は金沢の放送局の現役のディレクターだ。報道に携わる者として、「国難」とまで言って煽って実施された、2017年の避難訓練について、「こんな訓練に意味はあるのか?本当は誰のための何のための訓練だったのか?こんな訓練を各地で繰り広げるより前に、政府がすべきことがあるのではないのか?」と伝えるべきだった(逆に言うと、そういう報道はされなかった)としている。

 著者には「抵抗するものを排除し、安全を理由に自由を規制し、情報を隠蔽する」現在の光景が、桐生悠々の時代と二重写しに見えている。だから桐生悠々を見直すことで、現代日本の危機を浮かび上がらせ、教訓を引き出したい。本書はそんな意気込みがこもった本だ。

 私は「長野県の近現代史」を勉強する中で、桐生悠々の名に出会い、「関東防空大演習を嗤ふ」のことも知っていた。しかし、和たちは浅薄であった。この社説を詳しく読んだことがなかったため、その主張が、主義としての「反戦」より、リアリズムに立ったものであることを、初めて知った。また、信濃毎日新聞退社後も、会員制の個人雑誌を8年間にわたって、29回もの発禁・削除処分を受けながら発行して主張し続けたことも知った。その記事の多くを読むこともできた。よかった。

 最後に。桐生悠々は昭和10年に「第二の世界戦争」を予想し、それが各国国民を挙げての絶望的戦争となり、その悲惨さ故に「「将来戦争は戦われ得ない、少なくとも戦われてはならないことを、人類が痛切に感ずる時期がくる」と記している。(念のため。世界が二度目の世界大戦に突入するのは、4年後の昭和14年(1939年))。完璧な予言だ。しかし「将来戦争は戦われ得ない」の部分の「戦争」を「世界大戦」に限れば、だ。この限定さえも破ってしまうことのないように祈る。

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名探偵カッレくん

著 者:リンドグレーン 訳:尾崎義
出版社:岩波書店
出版日:1965年3月16日 第1刷 2005年5月26日 第27刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 やっぱり海外の児童文学を読むのは楽しいな、と思った本。

 本書は、上橋菜穂子さんが選書されたブックリストにあり、また、著者のリンドグレーンさんの半生を描いた映画が先月公開されたことで読んでみた。

 舞台はスウェーデンののどかな街にあるストゥールガータン街。主人公はカッレくんは、その通りにある食糧雑貨店の息子。13歳。隣家のパン屋の娘のエーヴァ・ロッタと、靴直し屋の息子のアンデスと仲良しで、大人をからかうイタズラをしたり、別のグループと「白バラ・赤バラ戦争」をしたりして過ごしている。

 それからカッレくんは、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロなどの名探偵に憧れている。探偵になるための修行として、街で怪しいことは起きていないか注意したり、何か変わったことがあれば手帳に記録したりしている。ただ「いねむりをして夢をみている」ストゥールガータン街では、事件はなかなか起きない。

 ところが事件は起きた。エーヴァ・ロッタのお母さんのいとこ、と名乗る「エイナルおじさん」が街にやってくる。この人が何かと怪しくて、カッレくんが調査に乗り出す。それが、警察を巻き込んだ大事件に...。

 面白かった。子ども向けに書かれた物語なので、子どもが読んでどう思うか?が大事。と分かっていても、大人になってしまった私は、面白く読みながらもちょっと「批評」してしまう。例えば「子どもがこんなことしたら危ないじゃないか」とか。バラ戦争も悪者との対決も、いろいろなことが「やりすぎ」で、規範からはみ出している。

 「批評」に続けて「分析」もすると、「子どもが読んでどう思うか?」に立ち返れば、この「はみ出し」がウケるのだと思う。「えーっ、そんなことしちゃうの!」ほどワクワクすることはそんなにないから。

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女性のいない民主主義

著 者:前田健太郎
出版社:岩波書店
出版日:2019年9月20日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 女性を登用しない「実力主義」が、男性優位のルールによるまやかしであったことが分かった本。

 本書の発端の問題意識はこうだ。日本は民主主義の国であるとされている。「民主主義」は「人民が主権を持つ」ことを表し、その「人民」には男性も女性もいる(この枠にはまらない性的少数者も)。であるのに、日本では圧倒的に男性の手に政治権力が集中している。それはなぜなのか?さらに「それにも関わらず、日本が民主主義の国、とされているのはなぜなのか?」

 著者は「これは「政治学」の性格の問題で、こんな疑問を持たなかったぐらいに、著者を含めた政治学者は、女性がいない政治の世界に慣れきってしまっていた」と言う。それによって何か重要なものが見えなくなっているかもしれない。本書は、その「見えなくなっているかもしれない」ものを可視化する試みだ。

 そのために、本書ではジェンダーを「争点」ではなく「視点」として位置付ける。補説すると、「経済」「環境」「人権」「安全保障」などの争点の並列項目ではなく、あらゆる政治現象の説明に用いる「視点」とする、ということ。そうすれば「福祉」が「男性が稼ぐ」モデルを基にしていることが明確になるし、「選挙」において女性候補者が立候補できない理由も浮き彫りになる。

 ひとつ「あぁそういうことか」と思ったことがある。「男性らしく、女性らしく」というジェンダー規範は、二重構造になっている、と言う指摘。例えば企業において「積極的」な社員を高く評価するとする。一方で「男性らしく」に「積極的」、「女性らしく」に「控えめ」という規範があれば、企業としては男女を差別していなくても(いないつもりでも)、男性を優遇する結果になる。

 「差別しているつもりはない」。こういう話題で男性の答えにありがちな言葉だけれど、二重構造のために見えなくなっているだけで、差別になっていることはたくさんあるのだろう。そういう例が本書にたくさん載っている。資本主義という体制自体が、「競争」が原理的の組み込まれている以上、ジェンダー規範に従うと女性は評価されにくい。女性は、不平等なルールのゲームに参加させられているようなものだ。

 最後に。以前読んだ同様のテーマの「日本の女性議員 どうすれば増えるのか」では不調であった「女性議員と男性議員の政策志向の違い」の論考は、本書では見事に証明されている。いい仕事をしたと思う。

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となりの難民

著 者:織田朝日
出版社:旬報社
出版日:2019年11月8日 初版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 この国はマズいんじゃないかと、本格的に思った本。

 著者は、日本で暮らしている外国人を支援する活動として、外国人収容施設での面会活動などをしている。外国人収容施設とは、出入国在留管理庁(以前の入国管理局)が管理をしている施設で、全国に17カ所ある。そこには在留資格のない外国人「非正規滞在者」が収容されている。

 本書は、著者が支援活動を通して知った、外国人収容施設のヒドイありさまが記されている。そこに実際に行って収容されている外国人と面会して知った「実体験」だけに迫真の報告だ。そしてそればあまりにも痛々しく、そんなことを行う施設と国家に(それは私の国、日本だ)、私は強い怒りを感じる。

 そこでは何が行われているか?収容時にはスマホや病気の薬などの持ち込みが禁止される。持病があっても薬を飲むこともできない。家族や友人への連絡は、KDDIの高いテレホンカードを買って公衆電話からしかできない。外から連絡を取ることはできない。

 刑務所のようだ、と言いたいところだけれど刑務所よりヒドイことがある。刑務所は、裁判を受けて刑期が決まって入る。外国人収容施設は突然に収容が決まる。弁護士も付かず自身を守る方法もなく、身一つで収容される。裁判に相当する手続きもなく、収容期限は決まっていない。いつ出られるのか分からない不安は心身を蝕む。

 とりわけ人道上の問題があって許せないと思うのは医療の問題だ。持病の薬が持ち込めないだけでなく、外国人収容施設では必要な医療が受けられない。著者らの調べでは1997年から2019年の約20年に起きた、入管での死亡事故・事件は18件。うち5件は「医療放置」。「死ぬまで放っといた」ということ。ちなに自殺は6件、餓死が1件...

 「在留資格がないのに在留しているのは法律違反だ」だから当然だ、という声が、ネットを中心にある。しかし、たとえ法律違反でもこれはひどい。それに、望まずにその状態にされてしまった人もいる。母国を追われて日本を頼って来た人が、難民申請をしてもなかなか認められない。認められなければ在留資格もない。その間も場合によっては容赦なく収容される。こんな理不尽なことってある?

 読んだら気持ちが沈むと思うけれど、知っておいた方がいい。私の国の一部分は、紛れもなく「最低」だ。

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白銀の墟 玄の月

著 者:小野不由美
出版社:新潮社
出版日:2019年10月12日(1,2) 11月9日(3,4)
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「十二国記」シリーズの第10作。前作「丕緒の鳥」からは6年、書下ろし長編としては2001年の「黄昏の岸 暁の天」から実に18年。その空白を埋めるかのような4巻、計1600ページの超大作。

 舞台は戴国。「十二国記」の国々は、「王」と王を補佐する「麒麟」が揃って、善政を施すことで国の安寧を得る。どちらかが欠けても国が傾く。そういう天の理がある。
 それなのに戴国は政変があって、王の驍宗と麒麟の泰麒の二人ともが行方不明になっている。王の座を簒奪した僭主の政(まつりごと)がデタラメなこともあって、国が荒廃の一途をたどり民衆が苦しんでいる。そういう中で物語が始まる。

 シリーズとしては「黄昏の岸 暁の天」を受ける。「黄昏の岸~」で謀反の濡れ衣を着せられた軍の元将軍の李斎と、李斎に救出された泰麒が、物語の主人公。李斎が泰麒に付き従う形で登場して始まるけれど、途中で道が分かれ、李斎による驍宗の探索行と、泰麒による王宮での政争の、2つの物語が並行して進む。

 どっぷりと物語世界に浸かってしまった。

 4冊1600ページもあって、劇的な出来事は長く起きない。まぁ「泰麒の政争」は、心理戦でもあるので「何か起きそうという予感」だけでも充分なのだけれど、「李斎の探索行」は、行けども行けども行き着かないので、普通なら飽きてしまうだろう。

 ところがそうならない。李斎たちが新しい街に行き、それらしい情報を得て、時には同志と呼べる人に出会い、そしてまた次の街に...とする間、「十二国記」の世界を一緒に生きているような感覚になる。おそるべし。

 念のため。「十二国記」の予備知識なしで本書を読んでも楽しめないと思う。最低でも「風の海 迷宮の岸」「黄昏の岸 暁の天」を読んでおきたい。できれば「魔性の子」も。作品間に細かい繋がりがあるので、さらに可能であれば他の作品も。

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2019年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。このランキングも今年で11年目。新しい10年の最初の年ととして、新たな気持ちで向き合いたいと思っています。
  (参考:過去のランキング 2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は102作品でした。☆の数は、「☆5つ」が4個、「☆4つ」が54個、「☆3つ」は40個、「☆2つ」が4個、です。
 「☆5つ」「☆4つ」は昨年より1つずつ多く、「☆3つ」「☆2つ」は昨年と同じ数です。特に意図していないのに、毎年同じような数に落ち着くのが不思議です。今年も読書を楽しめました。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
美しき愚かものたちのタブロー / 原田マハ Amazon
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傑出した美術コレクションである「松方コレクション」にまつわる物語。コレクションを遺した松方幸次郎その人と、そのアドバイザーを務めた美術史家を中心に「日本に美術館を創る」という強い想いを描く。
傲慢と善良 / 辻村深月 Amazon
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婚約者が突然失踪した39歳の男性が主人公。婚約者はストーカー被害にあっていた。主人公は失踪との関係と彼女の行方を調べるために彼女の出身地の群馬に。その過程で彼女と自分との間の溝が浮き彫りになる。
宝島 / 真藤順丈 Amazon
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返還前の沖縄の20年間を、アメリカ軍の倉庫から資材や食料などを盗み出してくる「戦果アギヤー」たちの目で描く。冒頭から主人公たちが疾走していて、そのままの勢いで物語が奔流のように流れる。
鹿の王 水底の橋 / 上橋菜穂子 Amazon
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医療を主なテーマにしたファンタジー。先進的な医療技術と、宗教を根本とした医術。2つを対峙させて「医療とはどうあるべきか?」を、民族の存亡、愛する人への想い、などのテーマとともに重層的に描く。
彼女は頭が悪いから / 姫野カオルコ Amazon
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2016年に起きた「東大生強制わいせつ事件」に着想を得たフィクション。後に加害者と被害者になる男女を主人公に、それぞれの「青春」を描き、そして「事件」が起きる。様々な意味で物議をかもした問題作。
愛なき世界 / 三浦しをん Amazon
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洋食屋の店員の男性が、T大理学部の大学院生の女性に恋をした、でも彼女は「植物の研究にすべてを捧げる」と決めている、という物語。影響を与え合う2人や、他のキャラクターのエピソードがとても心地いい。
テミスの休息 / 藤岡陽子 Amazon
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個人事務所を開いた弁護士の男性と、その弁護士事務所の事務員の女性の物語。事務所で受けた相談の経過を語りながら、2人のこととそれぞれのことを描く。「信頼できる人と一緒にいる」ことの安らかさを感じる。
さざなみのよる / 木皿泉 Amazon
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富士山の近くで生まれ、20代で東京に出て、故郷に戻って43歳で亡くなった女性。生前に関係のあった人々が主人公の14話の連作短編。それぞれの話から浮かび上がる女性はとてもチャーミングな人だった。
下町ロケット ヤタガラス / 池井戸潤 Amazon
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「下町ロケット」シリーズの第4作。前作「下町ロケット ゴースト」と一体の物語。日本の農業を救うかもしれない「無人農業ロボット」の開発を軸に、「何のための技術開発か?」という根源的なテーマを描く。
10 ベルリンは晴れているか / 深緑野分 Amazon
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第二次世界大戦終戦直後のドイツ、ベルリンが舞台。主人公は17歳のドイツ人の少女。ソ連の秘密警察から殺人の疑いのある人物を探すように命じられる。場面の描写が詳細で映像を見たように光景が浮かぶ。

 今年の第1位「美しき愚かものたちのタブロー」の原田マハさんは、一昨年は「暗幕のゲルニカ」で5位に、昨年は(10年以上前の作品ですが)「カフーを待ちわびて」で2位。すっかり私の好きな作家さんになりました。

 第2位の「傲慢と善良」は、予想外の展開に翻弄されましたが、最後にはしっかり着地しました。「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」と似た二部構成がそれを可能にしていると思います。ただ「予想外」と思うのは男性だけで、女性なら最初から分かる、という意見もあります。

 第3位「宝島」は、直木賞受賞作。返還前の沖縄を「内側から描いた」作品です。私たちが接する沖縄の情報は、本土からさらに言えば東京から、つまり外側から描かれたものですが、内側の視点では違うものが見えているのだろうなぁ、と思いました。

 選外の作品として、 門井慶喜さん「銀河鉄道の父」、夏川草介さん「新章 神様のカルテ」、伊坂幸太郎さん「クジラアタマの王様」が候補になりました。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
武器としての世論調査 / 三春充希 Amazon
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世論調査をはじめとする政治に関する様々な調査データを、自然科学のデータ処理の方法を活かして、精緻に分析した本。「内閣支持率が実感と違う」と思う、私の違和感の理由がこれで晴れました。
FACTFULNESS(ファクトフルネス) / ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング Amazon
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世界の様々な事実を、私たちがどれだけ誤認しているかを知らせてくれる。報道で知る「世界」は、センセーショナルな方向への偏りがあって、多くの人が悲観的に捉えている。そのことを知る必要があると思いました。
戦争の記憶 コロンビア大学特別講義-学生との対話- / キャロル・グラック Amazon
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第二次世界大戦を各国の人がどう記憶しているのか?をテーマとした、日本、中国、韓国、アメリカ、カナダ、インドネシアの学生との対話を収録。各国で「自国に都合が良い記憶」が政治に利用されていることが分かります。
帝国の慰安婦 / 朴裕河 Amazon
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いわゆる「慰安婦問題」について、感情や政治的立場を排して、事実に忠実にあろうと努めた報告書。日韓の間はもちろん、国内でも主張が対立しているけれど、どの主張も問題を不用意に「単純化」していると分かります。
「決め方」の経済学 「みんなの意見のまとめ方」を科学する / 坂井豊貴 Amazon
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多数決は人々の意思をまとめて集団としての決定を与えるのに適しているのか?という問いに答えた本。多数決は二択の投票以外には向いていない、もっと優れた決め方がいくつもある、ことが分かります。
命に国境はない 紛争地イラクで考える戦争と平和 / 高遠菜穂子 Amazon
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著者は2004年の「イラク日本人人質事件」の人質の一人。今もイラクで人道支援をしています。イラクの現状と日本やアメリカの見え方を、現地に身を置いて伝える。私たちが知っていることとは、まったく違いました。
PTAのトリセツ~保護者と校長の奮闘記~ / 今関明子 福本靖 Amazon
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神戸市の中学校で実際に成し遂げた「PTA改革」の報告。ネガティブな文脈で語られることの多く、不要論まで言われるPTAについて、「ではどうすればいいのか?」という答えがここにあります。
絵を見る技術 / 秋田麻早子 Amazon
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「名画をちゃんと見られるようになりたい」という人のために、絵画の見方を「絵画の構造」の視点から説明。「バランスがいいな」と感じるのはどうしてか?を言葉にできます。この次に美術展に行くのが楽しみになりました。
物語と歩いてきた道 / 上橋菜穂子 Amazon
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著者が30歳から53歳までの間に書いたエッセイ、インタビュー、スピーチを14編収録した本。物語作品に比べると長くは残らない文章を、「足跡」として集めることで、著者が辿って来たくねくね道が浮かび上がります。
10 55歳からの時間管理術 「折り返し後」の生き方のコツ / 齋藤孝 Amazon
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「無理がきかなくなる」「社会的な立ち位置に変化がある(暇になる)」のが、だいたい55歳ぐらい。そうなったときに時間をどう使えばいいのか?人生100年時代の後半生の「コツ」や「心構え」を指南してくれる。

 第1位「武器としての世論調査」、第5位「「決め方」の経済学」は、どちらも選挙制度に関わる作品です。ここ何回かの国政選挙の結果に大きな違和感を私が感じていて、その気持ちがこれらの本を読むきっかけになりました。違和感の原因が相当程度明らかになりました。

 第3位「戦争の記憶」、第4位「帝国の慰安婦」、第6位「命に国境はない」は、どれも「戦争」に関する本です。そして「戦争の記憶」で主テーマになっている「それぞれに都合の良い記憶」のことが書かれています。それは、第2位「FACTFULNESS(ファクトフルネス」に、さらには第9位「物語と歩いてきた道」に書かれた「他社への理解」にまで通じています。

 選外の作品として、広野郁子さんの「「60点女子」最強論 」、伊藤羊一さんの「1分で話せ」、朽木ゆり子さんの「消えたフェルメール」が候補になりました。

グリーン・ノウの子どもたち

著 者:ルーシー・M・ボストン 訳:亀井俊介
出版社:評論社
出版日:2008年5月20日 初版 2011年11月30日 5刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 英国の児童文学ならではの古いお屋敷や森を感じる本。

 作家の上橋菜穂子さんがご自分のバックグラウンドをお話になる時に、必ず取り上げる本。この本が好きで、高校生の時に著者のボストン夫人にお手紙を書いて、ついには訪ねていったとか。どんな物語なんだろう?と興味があって読んだ。

 舞台はイギリスの田舎にある古いお屋敷。主人公はトーズランドという名の7歳の少年。少年の両親はビルマに住んでいて、寄宿学校の冬休みの間、ひいおばあさんのところで過ごすことになった。そのお家がグリーン・ノウという名前のお城のようなお屋敷。

 物語は、トーリー(ひいおばあさんはトーズランドのことをこう呼ぶ)が、このお屋敷の暮らしに馴染んでいく様を描く。「馴染む」というのは特別の意味がある。というのは、このお屋敷には何世紀も前に亡くなった子どもたちが「今も住んでいる」。最初は気配を感じるだけだったけれど、トーリーと徐々に打ち解けて行く。

 冒頭に、お屋敷に向かう汽車に一人で乗っている時には、トーリーは「つらいことをがまんし、悲しみにたえているような顔つき」をしていた。7歳の子どもが、会ったことのないおばあさんの家に一人で行くのだからそれも当然。それが物語の終わりには「来学期になったら、また学校に行かなくちゃいけない?」と聞くほどに..。読んでいる私もホッと心が温まる。

 亡くなった子どもが出てくるのだから、幽霊話には違いないのだけれど、怖い感じはまったくしない。あまりに生き生きとしているので、幽霊というよりは、時間を自由に行き来しているように感じる。

 シリーズの続きも読もうと思う。

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ストーリーで学び直す大人の日本史講義

著 者:野島博之
出版社:祥伝社
出版日:2018年4月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「古代から平成まで一気に」は、やっぱり難しいかな?と思った本。

 著者は有名予備校でダントツの支持を集める日本史のカリスマ講師らしい。「まえがき」に著者からのメッセージがいくつか含まれている。「海外で日本の社会や歴史について聞かれるけど答えが出てこない」「歴史は暗記だという風説が根強いけど、歴史は本来有機的で重層的な無数のつながり」「今の大学を目指す層が身につけつつある日本史像は、昔と様変わりしている」

 特に3つ目の「昔と様変わりしている」が強調されて、「化石のような人間-シーラカンスになりたくないなら、「大人」も必死に学び続けるしかありません」とある。まったくその通り。歴史をキチンと学び直したい、できれば効率よく。そう思って本書を読んだ。

 サブタイトルが「古代から平成まで一気にわかる」。ざっくりとページ数を数えると、縄文時代が3ページ、弥生時代が4ページ、古墳時代が10ページ、飛鳥時代が18ページ、奈良時代が4ページ、平安時代が20ページ...けっこうなハイペースで時代が流れる。応仁の乱から関ヶ原までの戦国時代は23ページ。大坂冬の陣・夏の陣はたったの1行半!

 江戸時代は長いこともあって58ページ、そのうち幕末だけで30ページ。明治時代が40ページ..。昭和も日中戦争から戦後までの戦争の時代に30ページ。著者が近現代史専攻ということもあるのかもしれないけれど、時代が下るにしたがって記述が詳細になる。学校の歴史の事業でよく言われる「近現代史が手薄」の逆。

 何となく「各時代を均等に」だと思っていたので、読んでいる最中が戸惑ったけれど、読み終わってみれは、これでいいんじゃないかと思う。明治から戦後までの流れのおさらいができた。でも「ストーリーで学び直す」だからか、基本的に文章での説明。図表は最小限しかない。それがちょっとつらかった。年表も欲しかった。

 最後に。「参勤交代は幕府が諸大名の経済力を落とすために行ったものという説明を聞くことがありますが、全くの間違いです。」って、そうだったのか!

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岸辺のヤービ

著 者:梨木香歩
出版社:福音館書店
出版日:2015年9月10日 初版発行 11月5日 第3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「生きる」ということは悩ましい、それでも素晴らしいことだ、と思う本。

 梨木香歩さんが描く児童文学。川の蛇行の後にできたマッドガイド・ウォーターという三日月湖が舞台。主人公はハリネズミに似た不思議な生き物、クーイ族のヤービ。ヤービたちが「大きい人たち」と呼ぶ、人間の「わたし」の語りで物語が進む。「わたし」は、マッドガイド・ウォーターにある寄宿学校のフリースクールで教師をしている。

 冒頭に「わたし」とヤービの出会いが描かれていて、これで「わたし」がどんな人なのか分かる。マッドガイド・ウォーターにボートを浮かべて本を読んでいる時。ミルクキャンディーを口に入れようとしていた時に、目と目があって、手に持ったキャンディを差し出した..。心豊かで優しい、でも慌てると自分でも思わぬ大胆なことをしてしまう。そんな人。

 ヤービの方はクーイ族の子どもで男の子。虫めがねで花粉やミジンコを観察して「帳面」に書き留めるのが好き。ヤービのひいおじいさん(グラン・グランパ・ヤービ)は、博物学者だったらしく、ヤービはその血をひいているのだろう。つまりは好奇心旺盛で感性も豊か。

 物語はヤービと、いとこのセジロ、クーイ族の別の種族のトリカ、の3人を、ちょっとした冒険を交えて描く。これが思いのほか様々なテーマを含んでいる。家族のあり方、親戚のあり方、仕事のあり方、環境の変化、そして「他の命をもらって生きる」ということ...。

 ちょっと重めのテーマもあるけれど、ちゃんと子どもの心に届く物語になっている。私は子どもではないので、本当のところは分からないけれど、そう思う。「トムは真夜中の庭で」とか「床下の小人たち」とか「ナルニア国物語」とか、海外の児童文学の古典を読んでいるような気持ちになるから。それは、小沢さかえさんの絵によるところも大きい。

 私が子どものころに夢中で読んだ「コロボックル」シリーズのことも思い出す。

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