書店ガール2 最強のふたり

著 者:碧野圭
出版社:PHP研究所
出版日:2013年4月1日 第1版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 重労働で大変なお仕事だとは知っているけれど、書店員っていい職業だなぁと思った本。

 「書店ガール」の続編。主人公は前作と同じで西岡理子と小幡亜紀の2人。舞台も書店であることは同じだけれど、店は変わっている。前作で二人が勤めていた「ペガサス書房吉祥寺店」は、理子と亜紀ら店員の奮闘にも関わらず閉店となり、半年後にオープンした「新興堂書店吉祥寺店」に移っている。理子はスカウトされた形で店長に、亜紀は文芸書担当の正社員として採用された。

 理子は42歳。亜紀は29歳。前作では衝突の絶えなかった二人だけれど、本書ではいい関係が築けている。理子は亜紀を信頼しているし、亜紀は理子を尊敬している。勤め先の書店が大型書店チェーンになって労働環境が良くなったこと、亜紀が仕掛けた本が評判となって本屋大賞を受賞するなど、文芸書担当としての書店員として認められ充実していることも、二人の関係にいい影響を与えているのだろう。

 物語の初めの方で亜紀の妊娠が分かる。そのことで夫の保守的な面が顕わになる。「子供が三歳になるまでは母親の手で育てた方がいいっていうのは、常識だろ」とか言うのだ。亜紀は亜紀で「いずれは子供をと思ってはいたけれど、もうちょっと後がよかったな」というのが本音。業界的な繋がりも広がりつつあり、仕事が面白くて仕方ない時期で、ここで半年、一年休んでしまったら..という不安がある。

 この亜紀の妊娠や夫との関係を折々に描きながら、物語は多くのテーマを取り込みながら進む。書店業界全体の停滞。大型書店と中小の書店の間の齟齬と協調。言葉狩りのような言論空間の閉塞と不寛容。そんな中で協力し味方になってくれる仲間の有難さ。出版に携わる者の喜び。そして理子の恋愛模様まで。

 面白かった。ほぼ一気読み。ストーリーの本筋からは少し離れているのだけれど、心に残った場面がある。物語の中にいろいろな書店が「五十年後にも残したい本」を選ぶ、というところ。私はその書名を興味津々で追った。「あの本が選ばれてる!」とか思いながら。

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13坪の本屋の奇跡

著 者:木村元彦
出版社:ころから
出版日:2019年11月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

「町の本屋さん」がどんどん減っていくのは、Amazonとかのネット書店に押されてだと思っていたけれど、理由はそれだけじゃないんだと気が付いた本。

本書のいう「13坪の本屋」とは、大阪の谷六にある「隆祥館書店」のこと。ノンフィクションを中心に、1つの本で3ケタを優に超える(300冊とか500冊とか)売り上げがある。地元のサントリーの会長であった佐治敬三関連のノンフィクションで、アマゾンも八重洲ブックセンターも抑えて、売り上げの初速が全国で1位になったこともある。

つまりは「メッチャたくさんの本を売る町の小さな本屋」だ。本にする題材としてとても魅力的なお店だけどしかし、本書の焦点はそこには当てていない。焦点が当たっているのは、先代のころから続く、書籍流通の悪弊の解消のための闘いだ。

知っているだろうか?例えば、取次が配本を決めるので、売りたい本があっても小さな本屋には届かない。例の全国で1番売った佐治敬三関連のノンフィクションが文庫化された際に、隆祥館書店には1冊も配本されなかったそうだ。でもこのこと、つまり、小さな本屋には思うようには配本されないことは、知っている人も多いだろう。

では、取次の意向次第で「売りたくない(売れそうもない)本」が、小さな本屋に時には大量に届くことは?(嫌韓本が書店の棚にあふれる理由はこれだった) 売りたくない本でも届いた分は、月末請求で代金を支払わなくてはいけないことは?返品しても、大きな書店は即返金されるのに、小さな本屋は場合によっては1か月先になることは?

会社というのは商品が売れなくなっただけでは倒産しない。資金繰りが滞って債務の返済ができなくなって倒産する。返金が遅れればその間は借金になって、資金繰りを圧迫する。小さい本やにとっては死活問題だろう。「隆祥館書店」はこうした悪弊に異議を唱え続けて、僅かではあるけれど改善を勝ち取ってきた。

後半に収められた、「隆祥館書店」主催の「作者と読者の集い」の講演録も必見。藤岡陽子さん、小出裕章さん、井村雅代さん、鎌田實さんの4人の方のお話がとても示唆に富む。

さて、町の小さな本屋を守りたい、と思うなら何をすればいいか?それを考えねば。

もし「書籍流通の悪弊」に関心があったらこちらの記事も読んでほしい。
なぜ書店にヘイト本があふれるのか。理不尽な仕組みに声をあげた1人の書店主:ビジネスインサイダー

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ほんとうのリーダーのみつけかた

著 者:梨木香歩
出版社:岩波書店
出版日:2020年7月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 「言葉」に対する著者の真摯な態度に、共感し背筋が伸びる思いがした本。

 出版社の岩波書店のサイトによると、本書の大部分は、2015年に「僕は、そして僕たちはどう生きるか」の文庫の刊行を記念して、20歳までの人を対象に開催された、梨木香歩さんの講演を収めたもの。梨木さんは原則として講演の依頼を受けてこられなかったけれど、当時の社会情勢に強い危機感を抱き「若い人たちに直接メッセージを届けたい」とこの講演を引き受けられたそうだ。

 講演の主題は「社会などの群れに所属する前に、個人として存在すること。盲目的に相手に自分を明け渡さず、自分で考えること」。これを例をあげたり他の書籍を引いたりして、噛んで含めるように語る。私は講演の対象となった「若い人たち」ではないけれど、ゾクゾクするような共感と気付きを得た。

 「共感」は、著者が「日本語」について語る部分で。「大きな容量のある言葉をたいした覚悟もないときに使うと、マイナスの威力を発揮します」と著者は言う。「今までに例のない」「不退転の決意で」など。それほどのこともないのに、大袈裟な言葉を使うと、言葉が張り子の虎のように内実のないものになってしまう。そして「今の政権の大きな罪の一つは、こうやって、日本語の言霊の力を繰り返し繰り返し、削いできたことだと思っています」と続く。

 「気付き」は、「ほんとうのリーダー」について。これは書籍のタイトルにもなっているように、本書のキモなので、ぜひ読んでもらいたい。上の「講演の主題」で書いた「盲目的に相手に自分を明け渡さず、自分で考えること」に深く関わってくる。どうすればそうできるのか?を教えてくれる。

 本書に深く関わりのある本が2つある。一つは講演のきっかけとなった著者の「僕は、そして僕たちはどう生きるか」。もう一つは吉野源三郎の「君たちはどう生きるか」。この本は1937年、日中戦争に突入しファシズムが世を覆い始めたことに危機感を感じて、若い人に向けて出版されたもの。梨木さんの「僕は~」は、この本の問いかけへの一つの答えの意味合いがある。だから3冊を読んで欲しい。順番は問わない。敢えて言えば本書は70ページと、とてもコンパクトで読みやすい。それで本書を読むと、他の2冊のことが気になって読みたくなるだろう。

 最後に。吉野源三郎の本の出版(1937年)も危機感からなら、著者がに講演を引き受けた(2015年)のも危機感からだ。実は「僕は~」の執筆(2007年)も、本書の刊行(2020年)も危機感からなのだ。1937年はファシズムに対して、2007年は前年の教育基本法の改変に対して、2015年はやはり前年の集団的自衛権行使容認などに対して。そして今年は、新型コロナウイルス感染症下の同調圧力に対して。「自分を明け渡してはいけない」私たちは繰り返し試されている。

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口笛の上手な白雪姫

著 者:小川洋子
出版社:幻冬舎
出版日:2018年1月25日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 こういう物語が私は好きなんだとはっきりわかった本。

 「何かが少しだけおかしい」日常を切り取った8編の短編を収録。「何かが少しだけおかしい」が「小川洋子さんらしい」と私は思っている。

 8編のタイトルは「先回りローバ」「亡き王女のための刺繍」「かわいそうなこと」「一つの歌を分け合う」「乳歯」「仮名の作家」「盲腸線の秘密」、そして表題作の「口笛の上手な白雪姫」。2015年から2017年にファッション誌や文芸誌に掲載された作品。

 2つだけ紹介。「一つの歌を分け合う」は、「レ・ミゼラブル」の観劇に来た男性の話。彼は11年前の高校生の頃にも、叔母さんと観に来たことがある。叔母さんの一人息子が亡くなってしばらくしたころのことで、突然「あの子がミュージカルに出ているの」と混乱した様子もなく言ってきた。

 表題作「口笛の上手な白雪姫」。主人公は公衆浴場にいる小母さん。営業中は脱衣用ロッカーが並ぶ壁面の角にいつもいる。公衆浴場の一部分のように。小母さんは、赤ん坊の面倒を見てくれる。母親がゆっくり一人で入浴できるように。その子に合わせて湿疹の薬も塗ったり、果汁や白湯を飲ませたりもする。

 「どうしてもっと早く、この便利な仕組みに気づかなかったのか」というようないいサービスなのだけれど、やっぱり「少しだけおかしい」。そもそも、小母さんがどうしてここにいるのか、誰もちゃんと説明できない。物語が進むにしたがって「おかしなこと」も増えていく。

 小川洋子さんらしい(と私が勝手に思っている)世界を堪能した。次はどんなおかしなことがあるのかな?と、楽しみにしながら読み始め、おかしなことに浸って読み終わる。すっきりしない宙ぶらりんな気持ちで終わってしまうのだけれど、それがいい。

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常設展示室

著 者:原田マハ
出版社:新潮社
出版日:2018年11月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 美術館に行きたい。気兼ねなく旅行をして絵画を見に美術館に行きたい。そう思った本。

 美術館の絵画にまつわる、人生の岐路に立つ人々を描いた6編の短編を収録。

 「群青」の主人公は美青。メトロポリタン美術館の教育部門のスタッフ。障害を持つ子供たちのためのワークショップを計画している。「デルフトの眺望」は大手ギャラリーの営業部長のなづきが主人公。転倒して入院した父との思い出や今の仕事について描く。「マドンナ」はなづきの部下のあおいが主人公。一人暮らしの母を置いて世界中を飛び回っている。

 「薔薇色の人生」の主人公はパスポート申請窓口の派遣社員の多恵子。窓口に来た銀髪の紳士に興味を持ってしまう。「豪奢」はIT起業家と密会を重ねる紗季が主人公。高額な美術品を買い漁るIT起業家とは、務めていたギャラリーで出会った。「道」の主人公は美術評論家の翠。芸術賞の審査会の最終審査の作品の一つに目が留まる。

 どの短編にも著名な絵画が登場する。ピカソの「盲人の食事」、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」「デルフトの眺望」、ラファエロの「大公の聖母」、ゴッホの「ばら」、マティスの「豪奢」、東山魁夷の「道」。世界各地の美術館の収蔵品で常設展示されている。

 この本を読んでよかった、と思った。どれも粒ぞろいの短編で、どれも人生とか家族とかに関わる機微を、シャープにしかし優しさをもって描いている。とりわけ私は「マドンナ」と「道」の2つの短編に感じ入ってしまった。身近にいる家族と、遠い昔に分かれた家族をそれぞれ描いているのだけれど、その家族との繋がりの接点に絵画がある。

 主人公には共通点がある。全員が女性。アート関係の職業が多い(5人)のは必然かも。他に5人が30~40歳代、5人が独身。「人生の岐路に立つ人々」とは帯にある言葉だけれど、女性のある年代には「岐路」が多いのかもしれない、と思った。

 私は読書と同じぐらい美術館に行くのも好きなのだけれど、企画展を見に行くことが多い。それに対して本書の絵画は、常設展示の美術館で見られている。収蔵館がその絵画の家だとすると、その方が「会いに来た」という感じがする。常設展もいいなと思ったら、国立西洋美術館の常設展示を、行けども行けども素晴らしい絵画が並んでいてクラクラしたことを、思い出した。

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文系でもよくわかる世界の仕組みを物理学で知る

著 者:松原隆彦
出版社:山と渓谷社
出版日:2019年3月1日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 普段あまり自分を文系だとか理系だとか思わないのだけれど、やっぱり文系かもしれないと思った本。

 物理学に対して学生時代に「苦手、難しい、楽しくない」といったイメージを植え付けられ、大人になってからも縁遠いまま過ごしている。タイトルにある「文系」が表す、こういう人が本書の対象。それはとてももったいないことで、物理学を専門としている著者とすれば、物理学がわかれば「世の中はもっと深くも、細かくも、広くも、美しくもなる」そうだ。

 そこで、苦手だと思っている人にも読んでもらえるように、本書では様々な工夫がされている。例えば、本書は51個の項目で構成されていて、一つ一つの項目は数ページという読みやすいサイズで書かれている。各項目の最後には「まとめ」のページがあって、コンパクトに要約されている。「どうして雲は落ちないの?」「空はなぜ青いのか?夕焼けはなぜ赤いのか?」など、素朴な(子どもが聞きそうな)疑問が散りばめられている。そして数式は出てこない。

 それでいて取り扱う範囲は結構広い。「宇宙物理学」「光の性質」「素粒子、原子、分子」「相対性理論」「量子論」。「ブラックホール」も「ビッグバン」も「クォーク」も「中性子」も「ひも理論」も出てくる。アインシュタインもシュレーディンガーも登場する。地球の軸がなぜ傾いているのかの分かる。

 著者の工夫の甲斐あって、スラスラと読めた。相対性理論や、光に粒と波の両方の性質があることは、これまでに聞いた説明より分かりやすかったように思う。それはそうなんだけど、意地悪な言い方だけど、世の中が深くなったり美しくなったりする感じは全然しない。

 もちろん著者は「物理学が分かれば..」と言っているのであって、「この本を読めば..」とは言っていないので、先の言い方は意地悪以前のいいがかりだ。やっぱりもっと深く知らないと、世の中が深くなったり美しくなったりしないだろう。だから本書をきっかけにもう少し詳しい、項目を掘り下げた本を読むといいのだろう。何よりも「もっと知りたい」という気持ちも大事だ。今のわたしにはそれがなかったと思う。

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神々と戦士たち2 再会の島で

著 者:ミシェル・ペイヴァー
出版社:あすなろ書店
出版日:2015年10月30日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 前を読んでからずいぶん経つのに、そういうブランクを感じないでとても楽しめた本。

 「神々と戦士たち1 青銅の短剣」に続く、全5巻シリーズの2巻目。舞台は青銅器時代の古代ギリシアで、主人公はヒュラスという名の13歳の少年。幼いころに妹と一緒に山で拾われて、以来「よそ者」として暮らしていた。前卷で、「よそ者がその短剣を振るうときコロノス一族は滅びる」という巫女のお告げを基に、一帯に勢力を持つコロノス一族から追われる身になっている。

 今回の物語は、逃避行を続けるヒュラスが奴隷商人に捕まり、鉱山に送られるところから始まる。その鉱山がある島は、なんとコロノス一族が治める島だった。見つかれば殺されてしまう。しかもヒュラスはまだ知らないけれど、コロノス一族の一員でありながら、かつての親友のテラモンが儀式のために島にやってくることになった。

 島に来るのはテラモンだけではなくて、大巫女の娘で前卷でヒュラスと行動を共にしたピラもやってくる。主要な登場人物が再結集、ということで、多少わざとらしい展開だけれど許容範囲。新たな登場人物や、再登場した意外な人物が大事な役割を持っていたり、「火の女神」や「怒れる者たち」と呼ばれる神々が絡んできたり、絶体絶命もあり、物語は後半に向けて大いに盛り上がる。

 この「大いに盛り上がる」が、本書を読んでいた私の気持ちだ。実は前卷を読んだのは2年も前で(そのレビューの最後に「これからが楽しみだ」と書いたにも関わらず)、読んでもストーリーが分からないのじゃないか?という不安があったけれど、それは杞憂だった。もちろん細かく覚えてはいないのだけれど、スッと物語の世界に入ることができて、人物たちが生き生きと動き出すのが感じられた。

 とは言え、5巻シリーズなのであと3巻、今後はそう間を空けずに読みたい。

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青くて痛くて脆い

著 者:住野よる
出版社:KADOKWA
出版日:2020年6月25日 初版 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「大事なことは言葉で伝えよう」そう思った本。

 著者の作品を読むのはデビュー作「君の膵臓をたべたい」、第2作「また、同じ夢を見ていた」に続いて3作品目。前者は300万部、後者も40万部を突破で、デビュー即ベストセラー作家の仲間入り。本書も50万部突破だそうで、8月28日には吉沢亮さん、杉咲花さんのダブル主演の映画が公開される。

 本書の主人公は田端楓、物語の始まりの時には大学1年生。男子。「人に不用意に近づきすぎないこと」「誰かの意見に反する意見は出来るだけ口に出さないこと」を、人生におけるテーマとして決めつけていた。他人との関りを避けて、面倒なことを避けて、誰かから傷つけられることを避けて..

 楓がキャンパスで出会ったのは、楓とはおよそ正反対の性格の秋好寿乃。退屈な授業で、大きな声で発言を求め意見表明のような質問をして、周囲から「なにあれ」「痛った」と言われる。食堂で一人で定食を食べていた楓の横に来て、いきなり話しかけて突然の自己紹介。そうして出会った二人がサークル「秘密結社モアイ」をつくる。モアイの信念は「四年間で、なりたい自分になる」

 こんなに詳しく説明したけれど、ここまででわずか29ページ。そのページの最後には「あの時笑った秋好はもうこの世界にはいないけど」と書いてある。そしてページをめくると、楓はリクルートスーツを着た就活生になっている。モアイは楓たちが作ったものとは、似ても似つかない就活サークルに変容していた。

 青いです。痛いです。脆いです。このあと、楓は寿乃から託された言葉を胸に、モアイを奪還しようと奔走する。それはまぁ親友の意志を継ぐ「美しい物語」なのだけれど、私には「青臭い正義」に感じる。独りよがりで傍から見ていて「痛々しい」。寿乃に何があったのかもやがてあきらかになるが、楓は傷ついて「脆さ」が露呈する。

 もちろん「青さ」も「痛さ」も「脆さ」も、タイトルにしているのだから著者の狙いに違いない。そして狙い通りだ。素直な心で受け止めれば、震えるほど切ない物語だと思う。私はもう心がひねくれてしまったようだけれど。

映画「青くて痛くて脆い」公式サイト

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一人称単数

著 者:村上春樹
出版社:文藝春秋
出版日:2020年7月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 村上作品は、長編もいいけど、やっぱり短編の方が好きだ、と思った本。

 村上春樹さんの短編集。収録作品は、書き下ろしの表題作「一人称単数」と、文芸誌「文學界」に掲載された「石のまくらに」「クリーム」「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」「ヤクルト・スワローズ詩集」「謝肉祭(Carnaval)」「品川猿の告白」の7編の合わせて8編。

 村上春樹さんらしい作品たち。「中心がいくつもあって外周をもたない円」を思い浮かべられるか?と、老人が問いかけていなくなってしまう。何かの比喩なのか?深い意味があるのか?作品の中に答えはなく、そうしたい読者が思いを巡らすことになる。大学生の男の子が恋人でもない女性と簡単にセックスしてしまうのも「らしい」。

 印象に残ったのは「ヤクルト・スワローズ詩集」と「品川猿の告白」の2編。

 「ヤクルト・スワローズ詩集」は、「「風の歌を聴け」という作品で、それは「群像」の新人賞をとり..」と、著者自身の本当の経歴が書き込まれている。その他にも正確な事実が多くて「自叙伝」として読める。でも、私の知る限りでは、この作品の大事な部分は「作り話」で、著者はこの「作り話」を、これまでにもほかの作品でも何度か使っている。

 「品川猿の告白」は、「東京奇譚集」収録の「品川猿」の続編(多少の食い違いを感じるけれど)。主人公は、群馬県の鄙びた温泉旅館で住み込みではたらく人語を話す猿と出会い、その身の上話を聞く。以前は品川区に住んでいて「好きになった女性の名前を盗む」という悪癖があった。ブルックナーとリヒアルト・シュトラウスの音楽が好きだという。なかなか興味深い猿。

 小説に結論を求める人にはおススメできないけれど、独特の雰囲気はありながら(つまり「らしい)読みやすい。村上作品に馴染みがない人にもいいと思う。それと同時に「村上主義者(著者が「ハルキスト」ではなくこう呼んでほしいとおっしゃっている)」が好きそうな本だ。例えばタイトルにある「一人称」という言葉一つにでも、思うところがあるはずだ。

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ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ

著 者:三上延
出版社:KADOKAWA
出版日:2020年7月23日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

新しいシリーズがこんなに勢いのある物語で始まった、と思った本。

シリーズ再始動!ということで、本書からは「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ」とナンバリングが付く。新シリーズにはとても魅力的な登場人物が一人増える。前シリーズの主人公である、古書店「ビブリア古書堂」の大輔と栞子との娘である扉子だ。扉子はシリーズ前作の短編集「扉子と不思議な客人たち」で初めて登場し、文学と謎解きの才能のとてもとても楽しみな片りんを見せている。

今回は、高校生になった扉子が祖母の智恵子に呼び出されたシーンから始まる。扉子は智恵子から、横溝正史の「雪割草」にまつわる事件について、父の大輔が書いた記録を持ってくるように言われた。本書の本編は、この記録に描かれた事件の一部始終。その事件に合わせて、幼いころの扉子も登場する。

「雪割草」にまつわる事件は、2012年と2021年の2回起きた。鎌倉に住む同じ元華族の旧家を舞台として。発端は、当主が亡くなって、大切にしていた横溝正史の「雪割草」という本の行方がわからなくなった、その本を捜してほしいという依頼。しかし「雪割草」は、確かに横溝正史はその名の作品を書いたし、草稿が数枚見つかっているが、発表されたのかどうかさえ分からない。いわば幻の本だ。

旧家を舞台にしているし、争っているのは双子の姉妹だし、血縁のある親戚たちが不信を募らせているし、横溝正史の金田一シリーズに似た雰囲気が漂っている。こういうところも著者はうまい。

そして探すのは、存在が確認されていない「幻の本」。本に対する尋常ではない執着を持つ、智恵子、栞子、(そしておそらく扉子も)の篠川家の女性たちにとっては、喉から手が出るほど見つけたいシロモノ。実際この依頼を受けた時に栞子は「調査費用はいらないから読ませて欲しい」と言っている。

横溝正史のトリビアもあり、事件の謎解きも本格的で、篠川家三代の女性たちの微妙な関係性も目が離せず、扉子の推理には目を瞠る。奮闘する大輔くんも応援したい。新シリーズ1作目はとてもワクワクする物語だった。そして「シリーズ再始動」というから、この後に何冊か新しい作品が出るのだろう。それがとても楽しみだ。

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