2M.小川糸

育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ -日々の習慣と愛用品-

著 者:小川糸
出版社:扶桑社
出版日:2019年9月8日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

出版前のゲラを読ませてくれる「NetGalley」から提供いただきました。感謝。

Simple is Beautiful. 生活スタイルの理想。かくありたい、と思った本。

食堂かたつむり」「ツバキ文具店」「キラキラ共和国」著者の小川糸さんの作品には、ちょっと疲れた人への優しさがある。そういうところが私は好きだ。その著者が、心のあり方や暮ら方などについて綴ったエッセイが40編。著者自身やお部屋、大事にしている持ち物やおすすめの食品の写真付き。

テーマ別に章になっていて「心のあり方」「体との付き合い方」「私らしい暮らし方」「ドイツに魅せられて」「育て続けるわが家の味」「自分式の着こなし」「人とのつながり」の7章。心に沁みこんでくるような素敵な言葉が随所にある。その言葉に一貫して感じられるのは「余裕」。

「余裕」は著者も意識しているらしく、「はじめに」にこんな文章がある。「自然であること、無理をしないこと。それが、今の私の暮らしのテーマになっています。(中略)自分にとって必要な行いを習慣化することで無駄を省き、慣れ親しんだ愛用品を持つことで、自分自身がラクに、自由になれる。」

「慣れ親しんだ愛用品」が素敵。京都の○○旅館のお昼寝布団とか、鎌倉のギャラリーで作ったテーブルとか、加賀の○○製茶場のお茶とか、築地の○○商店や◇◇商店に買い出しに行く昆布、煮干し、かつお節、海苔...。本当にいいものを選んで使っておられる。名前を聞いても私には良さはわからないけれど。

次々と繰り出される「丁寧な暮らし」(著者は言下に否定されているけれど、まぎれもなくそうだと思う)は、ともすると自慢に聞こえて妬ましく感じてしまうかもしれない。私がそう感じなかったのは、著者の作品が好きで偶像視したからかもしれない。「かくありたい」と思ったのは本当だけれど、そうなれる気がしないのも本当の気持ち。でも「マネしてみよう」と思ったことがいくつかある。さっそくやってみようと思う。

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あつあつを召し上がれ

著 者:小川糸
出版社:新潮社
出版日:2014年5月1日 発行 2016年5月25日 4刷
評 価:☆☆☆(説明)

 「食堂かたつむり」「ツバキ文具店」で、ちょっと疲れたり傷ついたりした心を、優しく労わるような物語を描いてきた著者の短編集。共通するテーマは「料理」。様々なシチュエーションで「料理」がキーになる物語7編を収録。

 ホームに入居した祖母に食べさせる「かき氷」。恋人に案内された中華料理屋で食べる「ぶたばら飯」。10年以上一緒に暮らした人との別れの朝に食べる「松茸」。嫁ぐ日の朝に父に出す「おみそ汁」。思い出のパーラーで大事な人と食べる「ハートコロリット(コロッケ)」。パリのレストランで愛人と食べる晩餐。亡くなった父を偲んで母と作る「きりたんぽ」。

 こうやって、それぞれ短く書き出しただけでも、その料理に何か意味や想いが込められているのを想像してしまう。どんな時に誰と食べるのか?料理にとって、それがとても大事なことだ。一番心に残った1編だけを紹介する。

 それは最後の1編の「季節はずれのきりたんぽ」。主人公の由里は、母から父の四十九日に家で食事を一緒に、と誘われた。メニューは「きりたんぽ」。父の故郷の秋田の料理。大好物だけれど、その味や作り方にはとてもうるさかった。

 その日は、父が好きだった味付けのきりたんぽを、父の思い出話をしながら母娘の2人で作って食べる...。ところが..泣き笑い。そして開放感。母娘にはこういう関係があるのだなぁ、と思った。母が亡くなって残された父と息子にはこんなことは起きない。

 最後に。7編の多くは、冒頭にあげた作品のような「優しく労わるような」物語だけれど、ちょいちょいと違った手触りの物語が混じっている。安心して読んでいると不意打ちをくらうのでご注意を。

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キラキラ共和国

著 者:小川糸
出版社:幻冬舎
出版日:2017年10月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。昨年の本屋大賞で第4位となった「ツバキ文具店」の続編。「ツバキ文具店」は、NHKで多部未華子さん主演でドラマ化された(公式サイト)。

 主人公は前作と同じで雨宮鳩子(ポッポちゃん)。いや本書の冒頭で守景鳩子になった。前作で知り合った、近くでカフェを営む守景蜜朗(ミツロー)と結婚したのだ。前作の最後でミツローさんがポッポちゃんをお寺の境内でおんぶしたシーンがある。その時から付き合い始めてそれから1年足らず、だそうだ。

 ポッポちゃんは「ツバキ文具店」という文具店を営む傍らで、手紙の代書を請け負っている。こんなご時世でも手紙の代書を依頼に来るお客は一定数居て、ポッポちゃんは、依頼人の事情を聴いて、文面だけでなく、紙や封筒、筆記具、インクの色、字体、切手まで選んで、手紙を書いて投函する。

 前作は、この代書の依頼を主に、ポッポちゃん自身の身辺を従に描いた。本書では、主従が代わって、ポッポちゃんの物語が主になった。象徴的なのは、本書でポッポちゃんが最初に書く手紙が、自身の結婚のお知らせだったことだ。

 なんと言っても新婚だから...。行間から幸せが立ち上ってきて、甘い香りがしてきそうな物語。「私は恥ずかしくて「モリカゲさん」と言ってしまう。ミツローさんは、私のことを「ポッポさん」と呼んだり「ポッポちゃん」と呼んだり、たまに..」なんてあって、「どーでもええわ、好きなように呼びなさい」と思ってしまう私は、少し羨ましいのだろうきっと。

 タイトルだって「キラキラ共和国」で、なんだか浮足立った感じがする。ただ、これには意味付けがあって、隣家の婦人が教えてくれたおまじないに関係している。心に暗闇ができた時に「キラキラ、キラキラ」と唱える。今はちょっと「アホらしい」と思うけれど、いつか使う時がくるかもしれない。

 こんなおまじないが必要だったことで分かるが、ポッポちゃんもミツローさんも、結構深刻な事情も抱えている。それを一つ一つ乗り越えての結婚であり、その後の本書で描かれる約1年も、そうしたことの連続だった。ポッポちゃんに幸あれ。

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ツバキ文具店

著 者:小川糸
出版社:幻冬舎
出版日:2016年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。この著者の作品は「食堂かたつむり」に続いて2冊目。

 主人公は雨宮鳩子、親しい人からは「ポッポちゃん」と呼ばれている。20代。鎌倉にある「ツバキ文具店」を、祖母から継いで営んでいる。ツバキ文具店には、文具屋以外にもう一つの仕事がある。代書屋。他人に代わって書や手紙を書く。雨宮家は由緒ある代筆を家業とする家系で、ポッポちゃんはその11代目だ。

 だいたいのことはメールで済ますことができるご時世でも、手紙の代書の依頼がけっこう来る。ただ「きれいな字で」という清書ではなく、手紙の文面を含めてという依頼。それも「お悔やみ」とか「離婚の報告」とか「断り状」とか「絶縁状」とか、かなり難易度の高いものばかりだ。

 来るお客たちは、もつれた事情をそれぞれに抱えている。だからこそ「手紙の代書」などという回りくどいことを頼んでくるのだ。そしてポッポちゃんの手紙は、そのもつれた事情をやさしくほぐす。文面はもちろん、文字の形、使う紙、筆記具、切手までに、心を行き届かせた手紙を作る。

 「食堂かたつむり」の料理が、お客の心を解きほぐすのと似ている。そして主人公自身も、もつれた事情を抱えていて、誰かに解きほぐしてもらうことを待っているのも同じ。読んでいる私の心もほぐれてくる感覚(元々大した事情を抱えているわけではないけれど)。

 それから本書はよくできた鎌倉ガイドになっている。主人公が訪れる神社仏閣はもちろん、食事に行くお店も一部を除いて実在する。映画化されれば「聖地」になるんじゃないの?と思っていたら、4月からNHK ドラマ10で、テレビドラマ化されるらしい。

参考:多部未華子さん主演「ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~」制作開始!

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食堂かたつむり

著 者:小川糸
出版社:ポプラ社
出版日:2008年1月15日 第1刷発行 4月4日 第11刷
評 価:☆☆☆(説明)

 2008年発行のベストセラー。2010年には、柴咲コウさん主演で映画化されている。その映画のDVDを紹介する、HMVサイトのページによると、本書の発行数は2010年3月現在で80万部を超えるそうだ。私が何年か前に応募した書評コンクールで課題図書になっていたことと、テレビの映画のCMが記憶に残っていて、手に取ってみた。

 主人公は倫子、25歳。プロの料理人なろうと決めて、都会で料理店で働いていた。故郷に二は15歳の春に出て以来帰っていない。唯一の肉親である母とも会っていない。しかし、手痛い失恋をした(私は、相手の行為は「犯罪」だと思うけれど)彼女は、その故郷へ、母の元へ向かう。物語はここから始まる。

 その後は、故郷へ帰った倫子が、人々の助けを得て食堂を開き、その食堂に来店するお客や街の人々との触れ合いを描く。1日に1組だけ、お客の話を聞いて出す料理を考えるという、少し変わった食堂の「食堂かたつむり」。倫子の食堂で料理を食べたお客には、不思議な効果が表れる。倫子にも、以前は嫌っていた奔放な母との関係に変化が訪れる。

 すべり出しは良かった。故郷に帰って最初の夜、倫子は食堂を開くべく、母に一生一回の覚悟を決めてお願いをする。それに応える母の一言が良かった。この一言に母の心持ちを、私は感じ取った。極度に緊張していた倫子は、それに気付けなかったようだけれど。
 この一言に著者と本書に対する期待が高まったが、惜しいことにその後はこのような唸らせる一言にも展開にも出会わなかった。エピソードがプロットを追うだけの感じがした。もう少し肉付けがあれば良かった。

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