12.C.S.ルイス(ナルニア国)

ナルニア国物語7 さいごの戦い

著 者:C・S・ルイス (訳:瀬田貞二)
出版社:岩波書店
出版日:1966年12月1日第1刷 1984年9月10日第19刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ナルニア国物語の最終巻。ナルニアの世界は、前巻で誕生した時の逆をたどって、ただの暗黒に戻ってしまう。世界には寿命があり、それは誰にも逆らうことができないのか。アスランも今回は危機に瀕するナルニアを救おうとはしない。時の巨人に命じて全てを暗黒に戻し、その最後に良き者だけを救い出しただけだ。これは、とても宗教的だ。ノアの大洪水や終末思想を思い浮かべさせる。

 今回の第一の悪者はサルだ。ライオンの毛皮をロバに着せて、アスランだと皆をだます。まさにサル知恵なのだが、これに大方の人間や動物たちはだまされてしまう。小人なんぞは、本当のことが分かった後も、今度は何も信じることができなくなって、自分たちだけのナルニアを手に入れようとする。ルイスは大衆の愚かさを感じていたのではないか?

 滅び行くナルニアからドアを通って逃げのびた所は、やはりナルニアだった。そこからさらに高く遠く行った所もナルニア。真のナルニアとその影のナルニア。そして、その先にはアスランの国、天国だった。死んでしまった良き者がそこでは生きているし、ピーターたちは、自分たちの世界では事故で死んでしまっている。

 「正しい神に対する邪な信心もないし、悪い神に対する邪な信心もない」と、アスランは言う。何を信じるにしても正しい信心かどうかが問題、ということか?それから、「内側は外側より大きいものですよ。」という言葉も印象的だ。外から見えるものより、内面の方が豊かで大きいということだろうか?

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ナルニア国物語6 魔術師のおい

著 者:C.S.ルイス (訳:瀬田貞二)
出版社:岩波書店
出版日:1966年9月1日第1刷 1984年6月15日第20刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 ナルニア国創世の物語。今までの疑問とまでは言わないまでも、明らかにされていなかったことや、物語の基になる世界観などがわかる。これが、7巻の内の6巻にしてあるところが、なかなかの演出だ。

 今回は、ポリーとディゴリーという2人が主人公。ディゴリーのおじのアンドルーが、不十分な形でも、異世界へ行く方法を発見したことから物語りは始まる。「魔術師のおい」とはディゴリーのことだ。
 物語の後半に来て、2人はナルニアの創世に立ち会う。最初は暗黒の何もない所だったのが、どこからともなく歌声が聞こえ、大地ができ草木が生え、動物たちが歌声に合わせて生まれてくる。なんと厳かな雰囲気だろう。そう言えば、トールキンの書いた創世も歌によるものだった。

 さらに、この物語で、私たちの住むこちら側の世界と、あちら側のナルニアの2つの世界しかないのではなく、もっと多くのパラレルワールドが存在することが明らかになっている。移動するための中間の場所があることも。そう、クレストマンシーシリーズと同じだ。
 ジョーンズはトールキンに師事したこともあり、そのオックスフォードにはルイスもいたことを考えれば、ジョーンズがルイスの影響も受けたことは間違いないだろう。この発想が英国では非常にポピュラーなものでない限り。
 ディゴリーの住む長屋は、屋根裏に通路があり、それ伝いに他の家にも入ることができる。これもこのパラレルワールドのあり方の暗喩になっている。

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ナルニア国物語5 馬と少年

著 者:C・S・ルイス (訳:瀬田貞二)
出版社:岩波書店
出版日:1966年11月1日初版 1986年6月15日第23刷改版 1994年5月16日第31刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 1巻でナルニアにやって来たピーターたちがナルニアの王となって治めているころの話。と言っても、物語の舞台はナルニアではなく、隣国のアーケン国と、更に南のカロールメン。主人公もアーケン国の王子たち、人間の子どもたちはほんの少し、脇役としてしかでてこない。言わば、ナルニア国物語外伝、というところか。少し趣向も変わって面白い。ナルニアが属する世界の世界観を重層的に補完する効果がある。

 話は、カロールメンの孤児が実は王子だったとか、親が決めた結婚を嫌って逃げ出した女の子だとか、昔から何度も物語に取り入れられてきた筋書き。もっとも、ルイスがこの話を発表したのは50年も前、その頃にすでにこういった筋書きが多くの物語でされていたかどうかは分からない。
 ナルニアのスーザン女王に横恋慕した、カロールメンの王子は、アーケン国を不意打ちして攻める。カロールメンの王は、失敗した時にはその責任を全部王子に押し付ける気でいる。などと、今度の話は随分と人間くさい。そう言えば、魔女とか魔法使いが出てこない。ちょっとした人間ドラマとしても読めそうだ。

 ところで、今回のアスランは、今までと違うように思う。主人公の2人と馬2頭を出会わせるために追いかけたり、召使の痛みを分からせるために主人公の背中に傷をつけたりと、人間への介入が強いようなのだけど。何か理由があるのか。

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ナルニア国物語4 銀のいす

著 者:C・S・ルイス (訳:瀬田貞二)
出版社:岩波書店
出版日:1966年10月1日初版 1988年6月15日第22刷改版 1995年9月5日第33刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 前号「朝びらき丸 東の海へ」から70年ほど後のナルニアの物語。
 今回は、ユースチスとその学校の友達のジルが、アスランに呼ばれて行方不明のカスピアン王の息子リリアン王子を救いに行く。
 ジルはアスランから、王子を救うための4つのしるべを教わるが、3つまでは失敗してしまう。そのために大変な苦労をするのだが、これも運命のようだ。
 今回は、世界が奥地のほうへ広がる。巨人国や地下の「夜見の国」が登場する。(さらに地下深くには「ビスム」という地底世界があることになっている)
 リリアン王子は、夜見の国の魔女に捕らわれていた。話の中ではこの魔女は、1巻に出てきた白い魔女と同じものということになっている。どうやら、魔女というのはこの世界の魔の力を象徴しているようだ。
 リリアン王子を救出する際のなぞかけが二重三重で面白い。
王子は、「今から私は魔法をかけられるので、どんな望みを頼もうと、決して言うことを聞かないでくれ」と言い残して錯乱する。しかし、その錯乱状態こそが真の王子の姿なのだ。

 もう一つ気が付いたことを。ユースチスとジルが通う学校というのは、新教育実験学校といって、古い教育を止めた自由な学校ということになっている。話の中では、この学校はあまり評価されていない。教育者でもある著者の新しい教育改革に対する批判によるものであろう。

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ナルニア国物語3 朝びらき丸東の海へ

著 者:C・S・ルイス (訳:瀬田貞二)
出版社:岩波書店
出版日:1966年8月1日初版 1986年6月10日第22刷改版 1995年6月15日第33刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 前号「カスピアン王子のつのぶえ」から3年後のナルニアの物語。カスピアン王子がおじのミラースが追放したナルニアの7卿を探す東の海への旅。人間の世界からは、ルーシィとエドマンドの兄弟と、いとこのユースチス。
 7人の卿を探す旅は、世界の東の果てにあるというアスランの国への旅にもなる。今回の物語は、著者の宗教観が色濃く反映されているように思う。
 旅の最後に水の壁の向こうにそびえる大山脈が見え、それがアスランの国らしい。もの言うねずみのリーピチープは一人、皮舟に乗り水の壁を登って向こう側へ消える。これは、指輪物語にも見える西方浄土思想だと思う(今回は東方だったけど)。また、この水の壁の手前は、白いハスの花が一面に浮いている。これは仏教的だ。
 また、いやなやつだったユースチスは、竜になってしまったことから、いいやつに変わってしまう。竜が出てくるあたりは西洋のファンタジーの王道かも。改心するというのも、第1巻のエドマンドのように定番かも。その他に、星が地上に降りてなった人とか、海底人、奴隷商人、魔法使いなどが登場、島々を巡る旅など、ベルヌやスウィフトなど、西洋の古典のエッセンスが詰まった感じの話だ。

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ナルニア国物語2 カスピアン王子のつのぶえ

著 者:C.S.ルイス (訳:瀬田貞二)
出版社:岩波書店
出版日:1966年7月1日初版 1987年5月25日第24刷改版 1995年11月6日第35刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 前号「ライオンと魔女」から数百年後のナルニア国の物語。しかし、ピーター達4人の兄弟の世界では(つまり、こちら側の世界)、わずか1年後のこと。4人は不思議な力であちら側の世界へ引っ張り込まれてしまう。
 あちら側の世界では、4人は数百年前に魔女を倒し、善政を敷いた伝説の王たちなので、それが再び姿を現したことになる。このように時間軸を共有しないパラレルワールドがあるとすれば、数百年と言わず数千年前の王様が甦ることの説明ができる。なるほど!と手を打った。
 数百年後のナルニアは、かつてのように動物や木の精が話をする国ではなく、人間たちに征服された、面白くも美しくもない国になっていた。今回のお話は、叔父の奸計で殺されそうになった、正当な血筋の王子カスピアンを4人とライオンのアスランが助ける話。
 臆病にになったスーザンには、なかなかアスランの姿が見えなかったり、生気のない人に息を吹きかけると元気になったり、しかし、最初から導いてくれるのではなく、相当の苦労と努力をした人に救いを差し伸べたりと、アスランは神を象徴してるのだろう。

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ナルニア国物語1 ライオンと魔女

著 者:C.S.ルイス (訳:瀬田貞二)
出版社:岩波書店
出版日:1966年5月28日初版 1986年6月10日第25刷改版 1990年12月15日第30刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 C.S.ルイスは、英国ファンタジーの巨匠の一人とされる。オックスフォードでトールキンとも親交があった。本書は、ナルニア国という、向こう側の世界を描いた7作品の1番目。
 こちら側とあちら側の2つの世界がある。トンネルや鏡や穴を抜けると、2つの世界を行き来することができる、つまりパラレルワールド。「不思議の国のアリス」から「千と千尋の神隠し」まで、多くの作品に取り入れられた設定。この作品では、衣装ダンスが2つの世界を結んでいる。
 向こう側のナルニア国では、大変なことが起きていた。魔女が年中真冬にしてしまって、しかもクリスマスが来ない。ここに、屋敷の衣装ダンスを通って4人の兄弟が入り込んでしまう。しかも、その4人は、ナルニア国の運命の重要なカギを握っている。
 冒険譚として、すごく面白い。4人の子どもの性格付けも良く描き込まれている。子どもが主人公だけに、子どもたちは感情移入しやすいだろう。動物が話したり、向こう側に国があったり、アリスに近い感じかも。
 ところで、このC.S.ルイスもトールキンもルイス・キャロルも、ハウルのジョーンズ(ジョーンズはトールキンに師事していたらしい)も、みんな英国の作家。ハリー・ポッターのローリングが英国人なのも必然か。7巻シリーズなので続きも読みたい。

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