図書館の神様

著 者:瀬尾まいこ
出版社:筑摩書房
出版日:2009年7月10日 第1刷 2022年4月25日 第14刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 瀬尾まいこさんって、初期からこんないい物語を書いていたんだ、と思った本。

 2019年に「そして、バトンは渡された」で本屋大賞を受賞した著者のデビュー(2002年)後の一作目。

 主人公は早川清(キヨ)、女性。4年後に統合が決まっている鄙びた高校の国語教師として赴任、部員が一人しかしない文芸部の顧問になった。小学校低学年の時から高校生まで、自分の時間を全てバレーボールに費やして成績も残していたが、ある事件によって辞めることになった過去がある。

 物語は、唯一の部員で部長の垣内君と顧問の清の文芸部の1年間を中心に描く。垣内くんは高校3年生だけれど、教師で年上の清よりよほどしっかりしている。部活の事務仕事を含めた活動をテキパキとこなし、「正義とは何か」なんていう清の思い付きのような振りにも、ちゃんと応える。

 そして「そんなクラブ、廃部にしてしまえばいいのに」と言っていた文芸部が、清にとって大事なものになっていく。

 暖かいものが身のうちに流れ込んでくるような物語だった。

 人との関りが清を助ける。垣内くんの他に、清と言葉を交わす男性が3人いる。弟の拓実と、同僚の体育教師の松井と、不倫相手の浅見さん。それぞれの立場に相応しい形で清を支える。垣内くんを含めて男性4人の描き方も、私は好きだ。(不倫はいただけないけれど)

 最後に。終盤に「精神と肉体が同じ方向に同じ分量だけ動かされている」という言葉がある(序盤にこれと対になる言葉もある)。「あぁこの場面にピッタリな表現だな」と思った。

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疲れリセット即効マニュアル

著 者:梶本修身
出版社:三笠書房
出版日:2017年8月5日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 なんだか疲れやすい。お医者に行くほどではない、行っても原因はわからない。そんな人が読んだらいいと思う本。

 著者は大阪市立大学の「疲労医学講座」という、「疲労医学研究」を専門に行う、日本で唯一の研究室の代表。その著者が「疲労のメカニズム」と、「昼間・仕事中」「夜・家に帰ってから」「休日・プライベート」「考え方」の4つの場面とテーマに分けた「その場で簡単にできる疲労リセット法」を伝える。
 「はじめに」にそう書いてあった。「その場で簡単にできる」は、気をそそられるけれど、なんだかウソくさい。本当ならありがたいけれど..。期待半分で読み始めた。

 著者の研究で、運動による疲労も、デスクワークによる疲労も、眼精疲労も、心因的なストレスも、すべての疲れの原因は脳内の「自律神経」にあった、ということが分かったそうだ。

 運動やストレスで自律神経に過度な負担がかかると、活性酸素が発生して自律神経のパフォーマンスが低下する、これが「疲労」の正体。そしてこれ以上自律神経を傷めないように、脳が発信したアラートが「疲労感」。

 だから疲労の回復のためには、「自律神経への負担を抑える生活習慣」「活性酸素の酸化作用を抑える「抗酸化作用」を持つ成分が含まれる食べ物を摂る」「自律神経の酸化を回復する質の高い睡眠」が大事になる。

 「生活習慣」「食事」「睡眠」。なんのことはない、よく知っていることだった。それでも、それらが大事なことの「なぜ?」を説明してもらって得心することはできた。「疲労」と「疲労感」が違うことも発見だった。栄養ドリンクを飲んで軽減するのは「疲労感」であって「疲労」ではない。

 また「その場で簡単にできる」も半分ぐらい本当だった。生活習慣や食事は簡単には効果がでないけれど、本書には「疲れやすい人」と「疲れない人」の対比が30項目あって、これらは比較的簡単に「疲れない人」の方を実行できる。(中にはちょっと疑問が残るものもあるけれど)

 例えば「デスクワーク」。疲れやすい人は「一段落つくまでがんばって、まとめて休憩をとる」。疲れない人は「一段落つこうとつくまいと、1時間おきにトイレに立つ」。仕事内容によると思うけれど、私の今の仕事なら即実行できる。

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戦争は女の顔をしていない

著 者:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 訳:三浦みどり
出版社:岩波書店
出版日:2016年2月16日 第1刷 2022年4月15日 第14刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

リアル版の「同志少女よ、敵を撃て」。簡単には読めないけれど、簡単には断念もできない本。

本書は、ベラルーシのジャーナリストである著者が、第二次世界大戦でドイツとの戦争(独ソ戦)に従軍したソ連の女性兵士たち500人以上を取材し、その肉声をまとめたもの。今年の本屋大賞を受賞した「同志少女よ、敵を撃て」の著者の逢坂冬馬さんが、インタビューで「同書の執筆を決意させた」本、とおっしゃっている。

第二次世界大戦でソ連では100万人を超える女性が従軍している。他国のように看護婦や軍医としてだけではなく、狙撃兵や高射砲兵、機関銃兵といった実際に人を殺す兵員としても参加している。またパルチザンなどの抵抗運動に参加していた女性たちも多くいる。年齢は15歳ぐらいからで、まさに「少女」も従軍していた。

「女が語る戦争」は「男が語る戦争」とは違う。男が語る戦争は、どこどこの戦線にいて、進撃したとか退却したとかいう事実、あるいは「記録」。こういうことは本書の前にも多く語られている。女が語る戦争は、どこどこに行ってこんなことをした、その時こういう気持ちだった、という体験や気持ち、あるいは「記憶」。これらは口を閉ざされて長く表に出ることはなかった。

なぜ口を閉ざしていたか?独ソ戦はソ連にとっては、祖国を守った勝利の戦争。戦争から戻った兵士は英雄だ。たとえ足を片方失くしても英雄だし結婚もできた。しかしそれは男の兵士のことで、女の兵士を迎えた社会は冷たかった。「戦地で何をしていたか知ってるわ。若さで誘惑して、あたしたちの亭主と懇ろになってたんだろ。戦地のあばずれ、雌犬」と侮辱を受けた話が載っている。だから、女たちは口を閉ざして戦争のことを言わない。戦後までを含めて女と男の戦争は違う。

簡単にまとめるとこんな感じのことが、本書には書かれている。しかしもっと遥かに複雑な物事が記されている。(ざっと数えてみたら)170人あまりの「肉声」は、当たり前ながら多様で要約にはなじまないし、「かわいそう」といった安易で一面的な見方も慎まなければならない。

例えば、生々しい戦闘の話と一緒に、恋愛のことを語る人もいる。彼女らにとっては「青春」の日でもあった。私が一番意外だったのは、進んで志願してこの戦争に加わった人が多数いたことだ。また、私にとっては「同志少女よ、敵を撃て」の影響は大きく、「狙撃兵」と書いてあればセラフィマと重ね合わせ、「オリガ」という名前を見ると複雑な気持ちになった。

随所に挟まれる著者による取材や出版の経緯などで、戦後のソ連、ロシアのことが分かる。本書は脱稿した後もしばらくは無視され、ゴルバチョフがソ連の書記長になる1985年まで出版されなかった。さらに、著者の祖国のベラルーシでは、大統領が著者を非難し長く著者の本は出版されていない。その大統領は今も現職で、ロシアのウクライナ侵攻を支援している。

著者は、2015年にノーベル文学賞を受賞した。

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