4.エッセイ

ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー

著 者:ブレイディみかこ
出版社:新潮社
出版日:2019年6月20日 7月20日 4刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

英国の出来事を読みながら日本のことを考えた本。

2019年の本屋大賞「ノンフィクション本大賞」受賞。著者は福岡市生まれで現在は英国在住のライター・コラムニスト。英国人の男性と結婚し、中学生の男の子がいる。本書は文芸雑誌「波」に連載のエッセイ16本を収録し書籍化したもの。

タイトル「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」は、中学生の息子がノートの端に書いた落書きの言葉。落書きの本人からの説明はないけれど、日本人の母、英国人の白人の父を持つ、自身のアイデンティティを表したもの、と読者は解釈するだろう。じゃ「ブルー」は?これは、とても意味深な言葉になっている。

何重もの意味で興味深かった。英国の中学生の暮らしが生き生きと描かれていたし、その社会が抱える問題も、それを克服しようとする努力も、身の周りの出来事として描かれていた。でも、一番に興味深かったのは、英国のことを描きながら、日本の私たちを改めて見直すように促す視点を感じたことだ。

もちろん、本書には日本のことはあまり書かれていない。最初は「英国人と結婚した日本人の母とその息子の英国暮らしの話」と、海外のホームドラマを見るように、自分とは距離を置いて読み始める。しかしある時に、読みながら自分たちと引き比べていることに気が付く。

例えばこんな一文がある。

英国の子どもたちは小学生のときから子どもの権利について繰り返し教わるが、ここで初めて国連の子どもの権利条約という形でそれが制定された歴史的経緯などを学んでいるようだ。

私の知る限り日本では、子どもたちが「子どもの権利について繰り返し教わる」なんてことはない。教科書に「子どもの権利条約」は載っているけれど、それはその理念を覚えるためで、「あなたたちには権利がある」と伝えるためではない。

本書とは離れるけれど、条約の署名時に、12条の1「自由に自己の意見を表明する権利」について、「必ず反映されるということまでをも求めているものではない」と、文科省が教育委員会にわざわざ通達するような国なのだ、私たちの国は。

小中学生の子どもを持つ親、教育に関わる人、英国の暮らしの興味のある人、におススメ。

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倒れるときは前のめり ふたたび

著 者:有川ひろ
出版社:KADOKAWA
出版日:2019年10月31日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 土佐弁でいう「はちきん」は、こういう人のことを言うのだろうな、と思った本。

 私が大好きな有川ひろさんのエッセイ集。タイトルから分かるように、2016年に出たエッセイ「倒れるときは前のめり」の第2弾。ちなみに著者は2019年2月に「有川浩」から「有川ひろ」にペンネームを改めた。本書は単行本としては「有川ひろ」名の最初の作品。

 収録されているのは、産経新聞大阪版、他の作家の書籍に書いた解説、著者のブログ「有川ひろと覚しき人の「読書は未来だ!」」の記事など、41本のエッセイと、特別収録小説として短編が2本。エッセイには「振り返って一言」という書きおろしコメントが付いている。

 とても良かったことを2つ、良かったことを1つ、残念だったことを1つ。

 とても良かったこと。1つ目は有川さんが書いた他の作家さんの書籍の解説。その本が無性に読みたくなった。紹介された本全部なのだけれど、特に「詩羽のいる街/山本弘」。「解説」は本の巻末が定位置だけれど、それ自身が「作品」であるし、独立させてまとめるとすごい宣伝になることが分かった。

 2つ目は特別収録の短編2本。1本は「県庁おもてなし課」のサイドストーリー「サマーフェスタ」で、もう1本は「倒れるときは前のめり」に収録した「彼の本棚」と対になる「彼女の本棚」。特に「彼女の本棚」。「彼の本棚」は初出が2007年だから12年越しの物語の成就。シビレた。本好きはいらぬ妄想をしてしまいそう。

 良かったこと。SNSの匿名性に起因するいろいろなことに、正面から立ち向かう有川さんの姿を知ったこと。そういう姿を気に入らない人もいるので、摩擦は大きい。しかしあくまで言葉を使って、議論をかみ合わせて主張を伝えようとする姿勢に心打たれた。

 残念だったこと。「シアター!」の完結を現状で断念、と有川さんがおっしゃっていること。どういう経緯でここに至ったのか、私は知らないのだけれど、著者本人がそうおっしゃるなら、それを受け入れる。

 最後に。共感することが多かったけれど、特に1つだけ紹介する。

 「嫌いの主張ではなく、好きの主張を」(「嫌い」は誰かを傷つける呪詛となる。「好き」は誰かを傷つけない言祝ぎになる。呪詛ではなく言祝ぎが蔓延する世界を望む)

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のっけから失礼します

著 者:三浦しをん
出版社:集英社
出版日:2019年8月10日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 笑い過ぎて酸素不足になって倒れるかと思った本。人前で読むのは控えた方がいい。

 月刊の女性向けファッション誌「BAILA」に連載したエッセイをまとめたもの。2014年6月号から2019年5月号までに掲載した60本を収録。

 とにかく変だ。どうかしていると思う。帯に「ありふれているのに奇想天外な日常」とある。冒頭2本目の「美容時間の問題」というエッセイに衝撃的なことが書かれている。「外出する用事があるときは、ちゃんと風呂に入って顔も洗う」。つまり..外出する用事がない時は,,,。

 「変だ」と思ったのは2つの意味で。1つ目は「なんでこんなに可笑しいのか」ということ。著者はほとんどの日は家に籠って仕事をしていて、だれとも会わない。そんな日常なのに、なんで毎月こんなに面白いことが起きるのか。

 それは、読み進めていけば分かる。それは「著者自身が面白いから」だ。例えば3本目のエッセイ「もやしとぬた」から引用する。

 スーパーでもやしを手にするたび、「やす・・・っ!」と驚愕の声を上げるのを抑えられない。「ヤス!」「銀ちゃーん」。一人で「蒲田行進曲」ごっこをはじめてしまうほどだ。...

 「もやしが安い」だけなのに、それを著者が面白可笑しくしてしまう。まぁ「力技」で面白くなっている。そして面白い著者が面白い人を引き寄せている。お母さんとかお父さんとかお友達とか編集者とか...。その人たちが面白いことをしてくれる。

 「変だ」と思った意味の2つ目は「なんでこの雑誌にこのエッセイなのか」ということ。「BAILA」の読者層は「おしゃれ感度の高い30代」らしく。紙面はおしゃれな洋服やコスメが満載になっている。そこに「外出する用事があるときは風呂に入る」というエッセイが、しかも巻頭に(タイトルの「のっけ」はそういう意味)ある。

 しかも、ここでは具体的に書かないけれど、下ネタもやたら多い。本書の書下ろし部分に、ボツになった下ネタが紹介されているけれど、これを読むと、編集者も頭を抱えた瞬間があるはず。それでも2014年に始まった連載が今も続いている。「おしゃれ感度の高い30代」に支持されているということか?

 冒頭の「とにかく変だ。どうかしている」は、ほめ言葉です。

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物語と歩いてきた道

著 者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2017年11月 初版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 物語には「違いを乗り越える力」がある。そのことを明瞭に感じた本。

 著者の上橋菜穂子さんは、平成元年(1989年)に「精霊の木」で小説家としてデビュー。その本の発行は2017年なので「29年目」。その著書は世界中で翻訳され、2014年には「国際アンデルセン賞作家賞」を受賞。本書はこれまでに書かれたエッセイやインタビュー記事、受賞式などでのスピーチが、全部を14編収録。一番古いものは1992年で著者が30歳の時、一番新しいものは2016年で著者が53歳の時のもの。

 著者は小説家だから、自分が紡いだ文章を本の形で世に出して、それは長く残っていく。一方で、エッセイやインタビューは文章として世には出るものの、長くは残らない。特にスピーチは「一瞬だけ人の目にとまり、すぐに消え去ってしまう運命にある」。本書はそれらを道に残る「足跡」として集めることで、著者がたどって来たくねくね道を浮かび上がらせようという試みだ。

 ひとつひとつの文章が、どれもこれも生き生きとして見える。おばあちゃんが語る物語を聞いて育ち、本が大好きだった少女時代。家の中でゴロゴロしていたい自分の背中を蹴っ飛ばすために選んだ文化人類学の道。作家になって深めた文化の差異を越えて他社と生きる「物語の力」。

 印象的なエピソードを一つ。幼い頃に石ころを蹴ろうとした瞬間、自分が石に吸い込まれたような感じになり、石の側から、蹴ろうとしている自分を見上げている錯覚が起きたそうだ。「あ、蹴られたら痛い」と思ったという。著者の深いところにあるのは、他社への理解なのだ思う。

 それは、石ころのエピソードで分かる著者が持って生まれた感覚と、文化人類学のフィールドワークで得た経験から培われ、強度を増したことなのだと推察する。文化人類学と物語、異なる分野の二つが著者の作品として昇華している。このことが、私にも不思議な安心感を与えてくれる。

 最後に。一文だけ引用。

 文化は、片方の手には剣を持っています。差異を見せつける分断の道具である剣を。しかし、もう一方の手は、他者に向けて伸ばし、手をつなぐための温かい手です。異なる人びと同士が、わかりあおうと伸ばす手なのです。

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べらぼうくん

著 者:万城目学
出版社:文藝春秋
出版日:2019年10月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 後輩の面白い身の上話を聞いているような気になった本。

 著者が大学受験に失敗した瞬間から、予備校、大学、就職して会社員、無職を経て「鴨川ホルモー」でデビューするまでを綴ったエッセイ。初出は「週刊文春」に連載。

 「あとがき」によると、著者は「おもしろいエッセイとは、人がうまくいっていない話について書かれたもの」という価値観を抱いているそうだ。翻って自分は作家として「そこそこ、うまくいっている」わけで、エッセイ仕立てにしたところでおもしろいわけがない、とも。

 それなのに週刊誌への連載を引き受けたのは、デビューまでは「うまくいっていない」からだ。大学受験で落ちる。一浪して京都大学に合格、しかし就職活動は全滅。留年して再び落ちまくったけれど1社から内定を得て就職。しかし仕事が合わす、小説家になるために退職、無職に。その時点で、何かの文学賞での受賞はおろか応募さえしていない。もっと言えば、大学生の時に書いた作品の他には、1編の小説さえ書き終えていないのに...。

 著者のエッセイでは、私は「ザ・万歩計」が大好きだ。とにかく笑わせてもらった。爆笑。本書は「爆笑」とはいかなかった。それは著者が面白くなくなったわけではなくて、視点が少し違うからかと思う。「面白い話を面白おかしく」だけではなくて、「万城目学の意見」を感じる。

 例えば、入社式後の役員との会食で。幹部(男性)の両側には必ず女性が座るよう先輩社員が指示を出した時。著者の意見は「気色わる」。滑稽極まりない構図を嫌がらないお偉方たちは「駄目だこりゃ」だ。この会社は実名がでていないけれど、それはすぐに分かる。

 その他にも、就職活動中の面接官のみっともない有様は、いくつか企業名が実名で記されている。これ大丈夫なのか?と思ったけれど、まぁ「文春」ならそんなことは気にしないか。

 最後に。著者の京都評を。言わんとすることがよくわかるので。

 常に何かをしなくてはいけない、動かなくてはいけない、とけしかけてくる東京とは正反対の街だった。京都はいつだって何も言ってこない。

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一日一生

著 者:酒井雄哉
出版社:朝日新聞出版
出版日:2008年10月30日 第1刷 2019年3月30日 第33刷
評 価:☆☆☆(説明)

 自分は「まだまだだ」と思った本。

 2008年の本が再び注目されているのは、冤罪で長期勾留された元厚生労働省事務次官の村木厚子さんが、今年の1月にテレビの番組で「この本に救われました」と紹介したから。帯にもそう書いてあるのを見て読んでみようと思った。

 著者は酒井雄哉師。僧界の最高位である大僧正にして、荒行である千日回峰行を満行した大行満大阿闍梨となる。しかも千日回峰行を2回も満行。これは千年を超える比叡山の歴史で3人しかいないらしい。

 タイトルの「一日一生」は、「今日の自分は今日でおしまい。明日はまた新しい自分が生まれてくる」ということ。だから今日失敗したからって落ち込むことはない。今、自分がやっていることを一生懸命に忠実にやることが一番。

 「自分はまだまだだ」と思うのは「一日一生」が心に沁みないからだ。「明日はまた新しい自分」なんて、「Tommorow is another day」のスカーレット・オハラみたいだと、余計な事を思って、その言わんとすることがスッと入って来ない。

 念のため言うと、私も一応頭では分かっている(つもり)だ。著者は「繰り返し」について何度も言及している。それは7年かけて4万キロを歩く千日回峰行から得たことだと思う。4万キロを思うと途方もないけれど、一歩一歩右足と左足を交互に出すことに集中することで達成に近づく。7年も一日一日の繰り返し。村木さんは一日ずつ気をしっかりと持って164日間の勾留を耐えた。

 自分はまだまだだ。「一日一生」が心に沁みるには修練が足りない。でもたぶんそれも喜ぶべきことなのだろう。
 

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真田忍者で町おこし

著 者:くノ一美奈子
出版社:芙貴出版社
出版日:2019年9月14日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 忍者の実在を強く実感した本。

 著者のくノ一美奈子さんは長野県上田市の温泉旅館の女将さんで、真田忍者をテーマとした街の活性化の活動に取り組んでおられる。2015年から地元の新聞に連載をはじめ、本書はその連載を基に加筆修正を行って、5年間の活動をまとめたもの。

 全7章。第1章で「町おこし」のことを語り、第2章で「忍者食」を研究、第3章で「忍者の修行」を現代のスポーツにつなげ、第4章で「真田忍者のルーツ」を史書によって探求、第5章は「くノ一」の考察、第6章は「真田家の歴史」を忍者を軸にして俯瞰、第7章で「真田十勇士と立川文庫」を研究。変幻自在。「忍者」というワンテーマを入口にして、その奥に、これほどの豊饒な世界が広がっているのに驚く。

 全編にわたって興味深いことが書かれているのだけれど、特別に強い印象が残ったのが、第4章に含まれる「伊与久一族」に伝わる伝承。伊与久一族は、真田忍者である「吾妻衆」の一翼を担った家系。この文章は伊与久家の末裔である伊与久松凮氏の特別寄稿。そこには松凮氏が祖母から伝えられた伝承と、自身が身をもって体験した体術などの修行が記されている。

 「特別寄稿」を強調したのでは著者に申し訳ないけれど、これも著者の熱心な活動あっての寄稿だと思う。私はこれで忍者の実在(それも現代まで続く)を強く実感した。

 巷に流れる風聞に、外国人に「忍者って本当にいるのか?」と聞かれたら「最近はとても少なくなった」と答えると喜ばれる、というのがある。私はこれからは自信と実感を持って答えられる。「とても少なくなった」と。

 Amazonでの取り扱いがないようなので、興味を持たれた方は、出版社の芙貴出版社(TEL 0261-85-0234)にお問い合わせください。

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「ミライの兆し」の見つけ方

著 者:御立尚資
出版社:日経BP
出版日:2019年9月24日 初版
評 価:☆☆☆☆(説明)

 出版社の日経BPさまから献本いただきました。感謝。

 視野を広く持ち、ちょっとした変化にも注意深くありたい、と思った本。

 本書は、著者が日経ビジネス電子版に、2010年4月から2019年1月まで連載したコラム「御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」」から、2017年6月以降の、比較的新しい31本を選んで収録したもの。著者はボストンコンサルティンググループの日本代表やグローバル経営会議メンバーを歴任したコンサルタント。

 テーマ別の6章建て。テーマを私なりにラベリングすると「アートとビジネス」「テクノロジーへの期待と不安」「米中関係と国際政治」「視点の置き方」「未来づくりの方法論」「未来のきざし」。個々のコラムの中では教育や社会の問題にも言及・提言があり、とても幅広いテーマに目が届いている。

 興味深かったことを1つだけ紹介。ヒットメーカーの川村元気さんの、ヒットの秘訣のたとえ話。駅に向かう途中に通る郵便ポストにクマのぬいぐるみが乗っている。何万人もの人が「なんか変だな」という違和感を持ちつつも、ただ通り過ぎていく。そこで、そのぬいぐるみを手に取って「みなさん、これ、なんか変ですよね」とはっきり口に出していう。それがヒットの共通項だという話。

 本のタイトル「「ミライの兆し」の見つけ方」は、第6章のテーマの沿ったもので、直接的には最後のコラム「読める未来、読めない未来、そしてつくる未来」に記されている。逆に言えば、それまでの30本のコラムには書かれていない。私は読みながらそう思った。

 しかし、読み終わった後に、全体をパラパラと見返していると、多くのコラムが連携して「ミライの兆し」を指し示していることが感じ取れた。単に「キャッチーで売れそうなタイトルを付けた」(読んでる最中はそう思っていた)というわけではなかったのかな?、と思った。

 最後に苦言。コラム中に「2017年7月24日付の記事」への言及があるのに、その記事は本書に収録されていない。既出のコラムから選んで収録したので、こういうことが起きたのは分かる。しかし、配慮してもらいたかった。

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イイダ傘店のデザイン

著 者:飯田純久
出版社:パイ・インターナショナル
出版日:2014年4月20日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 写真を見てウキウキと楽しくなり、文章を読んでしみじみと感じ入った本。

 本書はタイトルのとおり「イイダ傘店」という傘店の傘のデザインを紹介する本だ。「イイダ傘店」というのは、雨傘・日傘を布から創造し、一本一本手作りする傘屋。店舗は持たないで、半年に一度全国をまわる受注会を開催して注文を受けている。

 本書が指す「傘のデザイン」は、主には傘の布のテキスタイルデザインだけれど、手元(持ち手)や(傘を留める)ボタン、(開いた時にしずくが落ちてくる)露先、天紙(てっぺんの丸い布)、陣笠(軸の先)の他、道具なども紹介。ほぼ全ページに載っているカラー写真を見ているだけで楽しくなってくる。

 本書の著者は「イイダ傘店」の店主。デザイナーであり傘職人でもある。ところどころに著者による1ページの文章が何編が載り、その他にも写真の説明の短い文章が添えてある。これが味のあるエッセイになっている。傘に対する想いは誰よりもあるのに、力みというものがまったく感じられない。

 私が気に入ったところを少し引用。

 まだ傘屋としての実績も実態もない頃、僕は趣味のように布と傘を作っていた。同じ頃、同じような実績と実態で、靴を作り始めていた友人がいた。ある日、「1万円で知人の靴を作った」と、その友人が嬉しそうに僕のところへやってきて、その1万円で傘を注文したいと言ってきた。はじめてお金をもらって誰かのための傘を作ったのがその1本だった。

 いつかは「イイダ傘店」の傘を買いたい。そう思った。

 イイダ傘店の公式ページ

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育てて、紡ぐ。暮らしの根っこ -日々の習慣と愛用品-

著 者:小川糸
出版社:扶桑社
出版日:2019年9月8日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

出版前のゲラを読ませてくれる「NetGalley」から提供いただきました。感謝。

Simple is Beautiful. 生活スタイルの理想。かくありたい、と思った本。

食堂かたつむり」「ツバキ文具店」「キラキラ共和国」著者の小川糸さんの作品には、ちょっと疲れた人への優しさがある。そういうところが私は好きだ。その著者が、心のあり方や暮ら方などについて綴ったエッセイが40編。著者自身やお部屋、大事にしている持ち物やおすすめの食品の写真付き。

テーマ別に章になっていて「心のあり方」「体との付き合い方」「私らしい暮らし方」「ドイツに魅せられて」「育て続けるわが家の味」「自分式の着こなし」「人とのつながり」の7章。心に沁みこんでくるような素敵な言葉が随所にある。その言葉に一貫して感じられるのは「余裕」。

「余裕」は著者も意識しているらしく、「はじめに」にこんな文章がある。「自然であること、無理をしないこと。それが、今の私の暮らしのテーマになっています。(中略)自分にとって必要な行いを習慣化することで無駄を省き、慣れ親しんだ愛用品を持つことで、自分自身がラクに、自由になれる。」

「慣れ親しんだ愛用品」が素敵。京都の○○旅館のお昼寝布団とか、鎌倉のギャラリーで作ったテーブルとか、加賀の○○製茶場のお茶とか、築地の○○商店や◇◇商店に買い出しに行く昆布、煮干し、かつお節、海苔...。本当にいいものを選んで使っておられる。名前を聞いても私には良さはわからないけれど。

次々と繰り出される「丁寧な暮らし」(著者は言下に否定されているけれど、まぎれもなくそうだと思う)は、ともすると自慢に聞こえて妬ましく感じてしまうかもしれない。私がそう感じなかったのは、著者の作品が好きで偶像視したからかもしれない。「かくありたい」と思ったのは本当だけれど、そうなれる気がしないのも本当の気持ち。でも「マネしてみよう」と思ったことがいくつかある。さっそくやってみようと思う。

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