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空気を読む脳

著 者:中野信子
出版社:講談社
出版日:2020年3月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 日本では他の国に比べて、新型コロナウイルス感染症に「感染する人は自業自得だ」と思う人が多い理由が分かる、と聞いて読んだ本。

 日本人が「激しいバッシングが止まらないのはなぜか」「失敗を恐れるのはどうしてか」「幸福度が低いわけは?」といったテーマを、遺伝子特性や脳科学を切り口に語る。また「容姿や性へのペナルティ」と題して、性別や性に関する調査研究を紹介。

 「バッシング」についての考察が心に残ったので、そのことを紹介する。

 本書の最初に語られるのが「最後通牒ゲーム」という実験について。ゲームは2人で行われる。一方の人(A)が資金の配分権を持つ。自分にどれだけ多く配分してもいい。ただし、もう一方の人(B)は拒否権を持ち、それを発動すると双方の取り分がゼロになる。Bは例え1円でも配分があれば、拒否権を発動しない方が取り分が多い。

 それでも拒否権は発動される。自分が損してでも不公平な配分をしたAを懲らしめるためだ。そして拒否権を発動する率が高い人は、脳にあるセロトニントランスポーターという物質の密度が低い。さらに日本人は、その量が世界でも一番少ない部類に入る。「悪いヤツを懲らしめる」傾向が強い集団なのだ

 ネットで他人を追い込むような激しいバッシングが起きるのは、日本人のこの傾向が関係しているという仮説。加えてバッシングすることは、自分が正義の側にいることを確認する行為で、脳はさらなる報酬を得る。つまり「快感」なのだ。さらに日本は、大きな災害が相次いだことで「絆」(集団の結束)をより重視する社会にシフトしている。暗澹たる思いがするけれど、これじゃ「バッシング」がなくなりそうもない。

 最初の「感染する人は自業自得だ」について。セロトニンは「安心感」をもたらす神経伝達物質で、それが少ない日本人は単純化していうと「不安」傾向が強い。「感染した人には何かをちゃんとやらなかったんだ」と思うことで、その「不安」に対処している、と考えることができる。なるほど、うまく説明できる。

 「おわりに」が印象的だった。著者のこれまでの曲折や苦悩が垣間見える。

 そんなに快感なの?「それ」は?

という言葉を起点に語られる文書は、書籍のあとがきの範疇を越えて、告白あるいは告発のようだ。「それ」によって、人々は知能のスイッチが切られ、思考停止してしまう。著者は「それ」が理解できない。大多数の人はオートマチックに「それ」を運用できるらしいのに..

 「それ」が何かは、本書のタイトルにある「空気を読む」が有力候補だろう。でも敢えて最後まで「それ」と書いたのは、意味があるのだろうと思う。例えばもっと掴みどころのないものを指しているのだとか。

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勝手に予想!2020本屋大賞

 明後日4月7日(火)に本屋大賞が発表されます。10作品がノミネートされていて、今年はそのすべての作品を読むことができました。

 その10作品は「線は、僕を描く」「店長がバカすぎて」「夏物語」「熱源」「ノースライト」「むかしむかしあるところに、死体がありました。」「ムゲンのi」「medium霊媒探偵城塚翡翠」「ライオンのおやつ」「流浪の月」です。

 何度も予想して一度も大賞が当たったことがないのですが、懲りずに今年も、私の予想を発表します。

 大賞:「熱源」 2位:「流浪の月」 3位:「線は、僕を描く」 4位:「ノースライト」

 「熱源」は、明治から昭和初期にかけての、樺太のアイヌや祖国を失ったポーランド人らの群像劇で、「自分は何者か?」を問う骨太の群像劇です。正直にって他の作品とは一線を画す秀作だと思います。直木賞も受賞していることが気がかりですが、過去にもダブル受賞の例があるので。

 「流浪の月」は、幼児誘拐事件と、その被害者の「その後」を描いた作品です。事件があると、私たちは分かりやすい説明を求めます。本書は、その世間が納得しやすい分かりやすい説明と事実のギャップを浮き彫りにしたものです。

 「線は、僕を描く」は、著名な水墨画家に弟子入りした大学生の物語です。白い画仙紙に墨だけで描く水墨画の世界が、主人公自身の境遇や成長とともに、魅力的かつユーモラスに描かれています。先輩たち登場人物も魅力的でした。

 「ノースライト」は、一級建築士を主人公とした一家失踪事件を追うミステリーを入口にした、様々な要素が縦横に絡む人間ドラマです。入口から予想したものとはずい分違うところに着地して、心地よく裏切られました。

 最後に少し苦言を呈します。ノミネート10作品に「子どものころの出来事のトラウマ」を扱う作品が多いのです。

 主人公に関して、目前で肉親が殺される作品が2つ、両親の突然の死で心に傷を負う作品が1つ、性的虐待を受ける作品が1つ。主人公が父親に叩かれ、別の登場人物が性的虐待を受けている作品が1つ。つまり半数の5作品が「トラウマ」を描いている。(残りの5作品でも、子どものころの父の死がストーリーに絡む作品が1つ、両親が亡くなっている作品が1つ。)

 本屋大賞は、個々の書店員さんの投票によってノミネート作品が決まりますから、総体としての意思があるわけではありませんが、「書店員はトラウマがそんなに好きなのか?」と思わずにいられませんでした。

—-2020.4.7 追記—-

 大賞は「流浪の月」2位「ライオンのおやつ」3位「線は、僕を描く」4位「ノースライト」で5位が「熱源」でした。私の予想の大賞は5位だけれど、2位が大賞、3位と4位は的中です。かなりいいセンいったんじゃないでしょうか。

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2019年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。このランキングも今年で11年目。新しい10年の最初の年ととして、新たな気持ちで向き合いたいと思っています。
  (参考:過去のランキング 2018年2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は102作品でした。☆の数は、「☆5つ」が4個、「☆4つ」が54個、「☆3つ」は40個、「☆2つ」が4個、です。
 「☆5つ」「☆4つ」は昨年より1つずつ多く、「☆3つ」「☆2つ」は昨年と同じ数です。特に意図していないのに、毎年同じような数に落ち着くのが不思議です。今年も読書を楽しめました。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
美しき愚かものたちのタブロー / 原田マハ Amazon
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傑出した美術コレクションである「松方コレクション」にまつわる物語。コレクションを遺した松方幸次郎その人と、そのアドバイザーを務めた美術史家を中心に「日本に美術館を創る」という強い想いを描く。
傲慢と善良 / 辻村深月 Amazon
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婚約者が突然失踪した39歳の男性が主人公。婚約者はストーカー被害にあっていた。主人公は失踪との関係と彼女の行方を調べるために彼女の出身地の群馬に。その過程で彼女と自分との間の溝が浮き彫りになる。
宝島 / 真藤順丈 Amazon
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返還前の沖縄の20年間を、アメリカ軍の倉庫から資材や食料などを盗み出してくる「戦果アギヤー」たちの目で描く。冒頭から主人公たちが疾走していて、そのままの勢いで物語が奔流のように流れる。
鹿の王 水底の橋 / 上橋菜穂子 Amazon
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医療を主なテーマにしたファンタジー。先進的な医療技術と、宗教を根本とした医術。2つを対峙させて「医療とはどうあるべきか?」を、民族の存亡、愛する人への想い、などのテーマとともに重層的に描く。
彼女は頭が悪いから / 姫野カオルコ Amazon
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2016年に起きた「東大生強制わいせつ事件」に着想を得たフィクション。後に加害者と被害者になる男女を主人公に、それぞれの「青春」を描き、そして「事件」が起きる。様々な意味で物議をかもした問題作。
愛なき世界 / 三浦しをん Amazon
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洋食屋の店員の男性が、T大理学部の大学院生の女性に恋をした、でも彼女は「植物の研究にすべてを捧げる」と決めている、という物語。影響を与え合う2人や、他のキャラクターのエピソードがとても心地いい。
テミスの休息 / 藤岡陽子 Amazon
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個人事務所を開いた弁護士の男性と、その弁護士事務所の事務員の女性の物語。事務所で受けた相談の経過を語りながら、2人のこととそれぞれのことを描く。「信頼できる人と一緒にいる」ことの安らかさを感じる。
さざなみのよる / 木皿泉 Amazon
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富士山の近くで生まれ、20代で東京に出て、故郷に戻って43歳で亡くなった女性。生前に関係のあった人々が主人公の14話の連作短編。それぞれの話から浮かび上がる女性はとてもチャーミングな人だった。
下町ロケット ヤタガラス / 池井戸潤 Amazon
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「下町ロケット」シリーズの第4作。前作「下町ロケット ゴースト」と一体の物語。日本の農業を救うかもしれない「無人農業ロボット」の開発を軸に、「何のための技術開発か?」という根源的なテーマを描く。
10 ベルリンは晴れているか / 深緑野分 Amazon
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第二次世界大戦終戦直後のドイツ、ベルリンが舞台。主人公は17歳のドイツ人の少女。ソ連の秘密警察から殺人の疑いのある人物を探すように命じられる。場面の描写が詳細で映像を見たように光景が浮かぶ。

 今年の第1位「美しき愚かものたちのタブロー」の原田マハさんは、一昨年は「暗幕のゲルニカ」で5位に、昨年は(10年以上前の作品ですが)「カフーを待ちわびて」で2位。すっかり私の好きな作家さんになりました。

 第2位の「傲慢と善良」は、予想外の展開に翻弄されましたが、最後にはしっかり着地しました。「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」と似た二部構成がそれを可能にしていると思います。ただ「予想外」と思うのは男性だけで、女性なら最初から分かる、という意見もあります。

 第3位「宝島」は、直木賞受賞作。返還前の沖縄を「内側から描いた」作品です。私たちが接する沖縄の情報は、本土からさらに言えば東京から、つまり外側から描かれたものですが、内側の視点では違うものが見えているのだろうなぁ、と思いました。

 選外の作品として、 門井慶喜さん「銀河鉄道の父」、夏川草介さん「新章 神様のカルテ」、伊坂幸太郎さん「クジラアタマの王様」が候補になりました。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
武器としての世論調査 / 三春充希 Amazon
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世論調査をはじめとする政治に関する様々な調査データを、自然科学のデータ処理の方法を活かして、精緻に分析した本。「内閣支持率が実感と違う」と思う、私の違和感の理由がこれで晴れました。
FACTFULNESS(ファクトフルネス) / ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング Amazon
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世界の様々な事実を、私たちがどれだけ誤認しているかを知らせてくれる。報道で知る「世界」は、センセーショナルな方向への偏りがあって、多くの人が悲観的に捉えている。そのことを知る必要があると思いました。
戦争の記憶 コロンビア大学特別講義-学生との対話- / キャロル・グラック Amazon
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第二次世界大戦を各国の人がどう記憶しているのか?をテーマとした、日本、中国、韓国、アメリカ、カナダ、インドネシアの学生との対話を収録。各国で「自国に都合が良い記憶」が政治に利用されていることが分かります。
帝国の慰安婦 / 朴裕河 Amazon
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いわゆる「慰安婦問題」について、感情や政治的立場を排して、事実に忠実にあろうと努めた報告書。日韓の間はもちろん、国内でも主張が対立しているけれど、どの主張も問題を不用意に「単純化」していると分かります。
「決め方」の経済学 「みんなの意見のまとめ方」を科学する / 坂井豊貴 Amazon
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多数決は人々の意思をまとめて集団としての決定を与えるのに適しているのか?という問いに答えた本。多数決は二択の投票以外には向いていない、もっと優れた決め方がいくつもある、ことが分かります。
命に国境はない 紛争地イラクで考える戦争と平和 / 高遠菜穂子 Amazon
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著者は2004年の「イラク日本人人質事件」の人質の一人。今もイラクで人道支援をしています。イラクの現状と日本やアメリカの見え方を、現地に身を置いて伝える。私たちが知っていることとは、まったく違いました。
PTAのトリセツ~保護者と校長の奮闘記~ / 今関明子 福本靖 Amazon
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神戸市の中学校で実際に成し遂げた「PTA改革」の報告。ネガティブな文脈で語られることの多く、不要論まで言われるPTAについて、「ではどうすればいいのか?」という答えがここにあります。
絵を見る技術 / 秋田麻早子 Amazon
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「名画をちゃんと見られるようになりたい」という人のために、絵画の見方を「絵画の構造」の視点から説明。「バランスがいいな」と感じるのはどうしてか?を言葉にできます。この次に美術展に行くのが楽しみになりました。
物語と歩いてきた道 / 上橋菜穂子 Amazon
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著者が30歳から53歳までの間に書いたエッセイ、インタビュー、スピーチを14編収録した本。物語作品に比べると長くは残らない文章を、「足跡」として集めることで、著者が辿って来たくねくね道が浮かび上がります。
10 55歳からの時間管理術 「折り返し後」の生き方のコツ / 齋藤孝 Amazon
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「無理がきかなくなる」「社会的な立ち位置に変化がある(暇になる)」のが、だいたい55歳ぐらい。そうなったときに時間をどう使えばいいのか?人生100年時代の後半生の「コツ」や「心構え」を指南してくれる。

 第1位「武器としての世論調査」、第5位「「決め方」の経済学」は、どちらも選挙制度に関わる作品です。ここ何回かの国政選挙の結果に大きな違和感を私が感じていて、その気持ちがこれらの本を読むきっかけになりました。違和感の原因が相当程度明らかになりました。

 第3位「戦争の記憶」、第4位「帝国の慰安婦」、第6位「命に国境はない」は、どれも「戦争」に関する本です。そして「戦争の記憶」で主テーマになっている「それぞれに都合の良い記憶」のことが書かれています。それは、第2位「FACTFULNESS(ファクトフルネス」に、さらには第9位「物語と歩いてきた道」に書かれた「他社への理解」にまで通じています。

 選外の作品として、広野郁子さんの「「60点女子」最強論 」、伊藤羊一さんの「1分で話せ」、朽木ゆり子さんの「消えたフェルメール」が候補になりました。

絵を見る技術

著 者:秋田麻早子
出版社:朝日出版社
出版日:2019年5月2日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 この次に美術展に出かけるのが楽しみになった本。

 「名画をちゃんと見られるようになりたい」。本書はそういう人のために絵画の見方を「絵画の構造」の視点から説明する。「フォーカルポイント(主役)はどこか」「視点移動の経路はどこか」「バランスがよいとはどういうことか」「なぜその色なのか」「構図と比例のパターン」「全体的な統一感」を、章を建てて、実際の名画の豊富な実例を示して具体的に解説してくれる。

 例えば最初の「フォーカルポイント(主役)はどこか」では、まず「画面にそれひとつしかない」「顔などの見慣れたもの」「そこだけ色が違う」「他と比べて一番大きい」などの分かりやすい特長をあげる。次に「明暗の落差が激しいところ」「線が集まっているところ」など、少しテクニカルな見方を紹介する。

 こんなテクニックを覚えなくても「絵なんて好きなように観ればいい」という意見は、至極まっとうだと思う。私もこれまでそういう考えで美術展に足を運んで名画と対峙してきた。それで「あぁこの絵いいな」と感じた作品のポストカードを購入して帰る。それで満足してきた...

 いや「満足してきた」のは違っていて、だからこの本に手が伸びたのだろう。いや、正直に言うと「何か見逃してきたんじゃないか?」という気持ちは常にあった。本書の冒頭にあるちょっとしたテストをやって、その気持ちは「間違いなく見逃してきた」という確信に変わった。「観ているが観察していない」シャーロックホームズの一節らしいけれど、まさにそう痛感した。

 絵を見る技術を知ることの効果を、ラグビーワールドカップの観戦を例にすれば分かりやすいかも。予備知識のない「にわかファン」でも、懸命にボールを前に運ぶ姿に興奮し感動もすることができる。でもラグビーのルールや戦術を知っていれば、もう一段深い楽しみ方ができるはず。

 それでもテクニカルに寄り過ぎて楽しくなくなったら意味がないので、賛否は残ると思うけれど、美術鑑賞が好きな方には一読をおススメ。

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ケーキの切れない非行少年たち

著 者:宮口幸治
出版社:新潮社
出版日:2019年7月29日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 いろいろなことが分かったけれど、これはちょっと重たい問題だと思った本。

 発売されたころに新聞や雑誌などでさかんに取り上げられていたので、帯のいびつな円の「三等分」とともに書名は知っていた。きっかけがあって読んでみた。

 著者は、現在は大学の臨床心理系の教授。前歴は、児童精神科医として病院で勤めた後、医療少年院に法務技官として勤務している。本書は、その医療少年院での勤務経験が元になっている。医療少年院というのは、発達障害や知的障害を持ち非行を行った少年たちの「矯正施設」のこと。

 まずケーキの話から。医療少年院で、ある粗暴な言動が目立つ少年の面接で、円を描いて「ここに丸いケーキがあります。3人で食べるとしたらどうやって切りますか?皆が平等になるように切ってください」という問題を出した。すると少年はまずケーキを縦に半分に切って、その後「う~ん」と悩みながら固まってしまった、というエピソード。タイトルが「~非行少年たち」と複数になっているように、こうした少年(少女も含む)は、医療少年院に大勢いるらしい。

 ケーキが切れない理由は何かと、これの何が問題なのかと言うと「少年たちは、こんな簡単なことも分からない。ちゃんとした教育を受けられなかったこと」ではなく、ましてや「ケーキを切ってもらうような家庭環境になかったこと」なんかではない。(タイトルだけを見て考えると、こんなことを思う人もいそうだけど)

 ケーキが切れない理由は「認知機能に問題がある」からなのだ。そして問題は「この少年たちへのこれまでの支援が役に立たない」ということ。これまでの支援というのは「認知行動療法」と言って、ワークブックなどで思考の歪みを修正して対人関係スキルなどを改善するもの。しかし「認知機能」に問題があれば効果は期待できない。この点については著者からの解決策の提示がある。

 さらに発展した問題。医療少年院や児童精神科に来た少年たちは「発見された」わけで、まだ発見されていない少年たちが存在する。「認知機能」に問題があると、簡単な問題が解けない。想像ができないので、他人の気持ちがわからない。先のことを考えられないので、目標を立てられないし、それに向かって努力もできない。そんな子どもは、本来は支援を必要としているのに、「困った子」「悪い子」と思われている可能性が高い。そして「少年」はいつか「大人」になる

 正直に言って、どう消化していいのか分からない。今は「知ること」で第一歩だと思うしかない。

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真田忍者で町おこし

著 者:くノ一美奈子
出版社:芙貴出版社
出版日:2019年9月14日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 忍者の実在を強く実感した本。

 著者のくノ一美奈子さんは長野県上田市の温泉旅館の女将さんで、真田忍者をテーマとした街の活性化の活動に取り組んでおられる。2015年から地元の新聞に連載をはじめ、本書はその連載を基に加筆修正を行って、5年間の活動をまとめたもの。

 全7章。第1章で「町おこし」のことを語り、第2章で「忍者食」を研究、第3章で「忍者の修行」を現代のスポーツにつなげ、第4章で「真田忍者のルーツ」を史書によって探求、第5章は「くノ一」の考察、第6章は「真田家の歴史」を忍者を軸にして俯瞰、第7章で「真田十勇士と立川文庫」を研究。変幻自在。「忍者」というワンテーマを入口にして、その奥に、これほどの豊饒な世界が広がっているのに驚く。

 全編にわたって興味深いことが書かれているのだけれど、特別に強い印象が残ったのが、第4章に含まれる「伊与久一族」に伝わる伝承。伊与久一族は、真田忍者である「吾妻衆」の一翼を担った家系。この文章は伊与久家の末裔である伊与久松凮氏の特別寄稿。そこには松凮氏が祖母から伝えられた伝承と、自身が身をもって体験した体術などの修行が記されている。

 「特別寄稿」を強調したのでは著者に申し訳ないけれど、これも著者の熱心な活動あっての寄稿だと思う。私はこれで忍者の実在(それも現代まで続く)を強く実感した。

 巷に流れる風聞に、外国人に「忍者って本当にいるのか?」と聞かれたら「最近はとても少なくなった」と答えると喜ばれる、というのがある。私はこれからは自信と実感を持って答えられる。「とても少なくなった」と。

 Amazonでの取り扱いがないようなので、興味を持たれた方は、出版社の芙貴出版社(TEL 0261-85-0234)にお問い合わせください。

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2018年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。
 このランキングも今年で10年目です。これで小説部門は100作品、ビジネス・ノンフィクション部門は75作品を、選んできたことになります。
  (参考:過去のランキング
2017年2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は102作品でした。☆の数は、「☆5つ」が3個、「☆4つ」が53個、「☆3つ」は40個、「☆2つ」が4個、「☆1つ」が2個、です。
 「☆5つ」は、この数年は3個か4個で安定しています。「☆4つ」「☆3つ」もたいたいこのぐらいの割合で、今年も読書を楽しめました。「☆1つ」を付けたのは10年ぶりです。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
みかづき / 森絵都 Amazon
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昭和の高度成長期に、理想を持って学習塾を立ち上げた創始者夫婦と、その一族三代の大河小説。大らかな夫と意思の強い妻、その血を受け継いだ子ども達が、衝突しながらも支え合うドラマ。
カフーを待ちわびて / 原田マハ Amazon
商品ページへ
沖縄の離島の海と空、ゆったりとした時間を背景にしたラブストーリー。商店を営む男性と、遠くから来て住み込みで働く若い女性の暮らしぶりを描く。デビュー作にして完成度の高い作品。
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ / 辻村深月 Amazon
商品ページへ
殺人を犯して逃走中の幼馴染を案じて、その行方を捜すライターが主人公の第一部と、逃走中の幼馴染が主人公の第二部からなる二部構成。ミステリーと女友達の人間ドラマの2つが楽しめる。
また、同じ夢を見ていた / 住野よる Amazon
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主人公は小学生の少女。他人にどう思われようが、正しいと思ったことをする。学校に友だちはいないけれど、町には親しくしている大人がいる。少女の成長を感じる物語。大仕掛けあり。
キッチン風見鶏 / 森沢明夫 Amazon
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港町にある洋食屋が舞台。その従業員やお客さんが入れ替わりで主人公を務める。その何人かは幽霊や守護霊が見える。たくさんの物語が同時に進む「誰かを思いやる心」を描いた作品。
最果てアーケード / 小川洋子 Amazon
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使用済みの絵葉書や人形用の義眼など、売れそうもない品々のお店が集まるアーケードが舞台。お店ごとのエピソードを積み重ねていくと「何かが少しだけおかしい」という思いが募る。
原発ホワイトアウト / 若杉冽 Amazon
商品ページへ
現役キャリア官僚のリアル告発ノベル。原発推進のありようを小説の形で伝える。集金・献金システムや、デモ潰しの手法は、具体的で説得力がある。昨今のニュースで思い当たる節もある。
百貨の魔法 / 村山早紀 Amazon
商品ページへ
50年続く地方の老舗百貨店が舞台。従業員やテナントの店員らが入れ替わりで主人公になる。その一人ひとり、お客さんの一人ひとりの物語を、百貨店に伝わる子猫の伝説とともに丁寧に紡ぐ。
盤上の向日葵 / 柚月裕子 Amazon
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将棋の駒と一緒に、山中で発見された死体遺棄事件の捜査に携わる刑事が主人公。捜査の進展と容疑者の生い立ちを並行して描く。将棋の棋士の勝負の世界と、人間の深い業を描いたドラマ。
10 マスカレード・ナイト / 東野圭吾 Amazon
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高級ホテルが舞台のミステリーシリーズ第3弾。殺人の犯人が仮装パーティーに現れる、という密告状が届き、刑事がクラークとなって捜査にあたる。コンシェルジュの仕事ぶりも見どころ。

 今年の第1位「みかづき」は、昨年の本屋大賞の第2位。本屋大賞の関連では、第8位の「百貨の魔法」は今年の本屋大賞の第9位、第9位の「盤上の向日葵」は同じく第2位と、私と本屋大賞は相性がいいらしいです。(ちなみに昨年、私が第1位にした「かがみの孤城」は、今年の本屋大賞でも第1位になりました)

 第2位の「カフーを待ちわびて」は、著者のデビュー作で10年前の作品です。「暗幕のゲルニカ」「楽園のカンヴァス」「サロメ」「たゆたえども沈まず」のアートミステリー作品で、ファンになりましたが、ラブストーリーのこの作品もすごく好きです。続編の「花々」と併せて楽しんでいただきたいです。

 第4位「また、同じ夢を見ていた」、第5位「キッチン風見鶏」、第6位「最果てアーケード」、第8位「百貨の魔法」は、「不思議+ハートウォーム」な作品で、私はそういうのが好物のようです。

 選外の作品として、 今村昌弘さん「屍人荘の殺人」、碧野圭さん「書店ガール」、石田衣良さん「うつくしい子ども」、三上延さん「ビブリア古書堂の事件手帖」が、心に残りました。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
「南京事件」を調査せよ / 清水潔 Amazon
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「南京事件」「南京大虐殺」について、調査報道の手法で取り組んだレポート。関係者から話を聞き、資料や記録を調べ、分かったことを別の方法で「裏取り」する。渾身の力を込めた報告
AI vs. 教科書が読めない子どもたち / 新井紀子 Amazon
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「いずれは万能に」と思われがちなAIが、実は「意味は分かっていない」と、その限界を指摘。その一方で、今の中高生も大半は同じように「文章の意味が分かっていない」ことも明らかに。
世界の中で自分の役割を見つけること / 小松美羽 Amazon
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気鋭の現代アーティストである著者が、自分の半生と自分に与えられた「役割」について記したもの。この本を通じて「あなたのこれから」を見つけて欲しい、という祈りが込められている。
安倍官邸vs.NHK / 相澤冬樹 Amazon
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「森友学園問題のスクープを連発して左遷されたNHKの記者」が著者。著者がどう取材して、どう報じられたか(報じられなかったか)を記すことで、この問題とNHKの異常さを浮かび上がる。
日本が売られる / 堤未果 Amazon
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「規制改革」の名の下に、「水」「土」「農地」「森」「海」「学校」「医療」「食の選択」が、値札を付けられて売られる。「日本で今、起きているとんでもないこと」が書かれている。
マーケットでまちを変える / 鈴木美央 Amazon
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普段は道や公園などの場所に、ある期間だけ仮設テントなどのお店が集まってお客さまを迎える「マーケット」。「日本中のまちを、マーケットから変えていく」。それができそうに感じる本。
フェルメール最後の真実 / 秦新二、成田睦子 Amazon
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フェルメールの作品に「旅をさせる」(所蔵館から借り出す)ことの実際を、臨場感のある筆致で記したもの。現存する37作品すべてをカラーで掲載、来歴などを含めて解説。実物が見たくなる。
スノーデン 監視大国 日本を語る / 自由人権協会 Amazon
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「デジタル時代の監視とプライバシー」をテーマに、スノーデン氏のインタビューを含む、講演、パネルディスカッションを収録。日本では捜査機関の監視を制限する法律がないことを指摘。
日本史の内幕 / 磯田道史 Amazon
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歴史学者の著者による、古文書にまつわるエッセイ集。ほぼすべてのエッセイに、根拠となる古文書を示し、その意気込みが伝わる。日本の出版文化、災害からの再起など、テーマは深く広い。
10 赤松小三郎ともう一つの明治維新 / 関良基 Amazon
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「全国民に参政権を与える議会の開設」「法の下の平等」など、現行憲法につながる憲法構想を日本で初めて提案した、赤松小三郎の研究書。赤松にだけでなく、憲法観にも新しい光を当てる。

 第1位「「南京事件」を調査せよ」、第4位「安倍官邸vs.NHK」、第5位「日本が売られる」は、ジャーナリストによる作品です。ここ数年、ジャーナリズムに対する期待と不安を感じていますが、このように骨太な報告が出版されることに、小さな安心を感じました。

 第2位「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」は、深刻な問題提起を含んでいると思います。本書では「中高生」ですが、調査をすれば大人も同様の結果なのではないでしょうか?つまり「文章を読んでも意味が(正確に)理解できない」。様々な場面で対話がまともに成り立たないのは、このせいではないかと思います。

 第3位「世界の中で自分の役割を見つけること」、第6位「マーケットでまちを変える」は、何かに真剣に打ち込み結果を出している人の「確かさ」を感じます。その姿を見て、自らのことを顧みると、やりたいこと、やった方がいいことが浮かんで、少し力づけられます。

 選外の作品として、小室淑恵さんの「働き方改革 生産性とモチベーションが上がる事例20社」、鈴木博毅さんの「「超」入門 空気の研究」、小西美穂さんの「小西美穂の七転び八起き」が、良かったです。特に「働き方改革」は、私の「これから」につながりそうな気がします。

勝手に予想!2018本屋大賞

 明日4月10日(火)に本屋大賞が発表されます。10作品がノミネートされていて、今年はそのすべての作品を読むことができました。

 その10作品は「AX アックス」「かがみの孤城」「キラキラ共和国」「崩れる脳を抱きしめて」「屍人荘の殺人」「騙し絵の牙」「たゆたえども沈まず」「盤上の向日葵」「百貨の魔法」「星の子」です。

 これまでも何度か予想していても、大賞が当たったことがないのですが、懲りずに今年も、私の予想を発表します。

 大賞:「屍人荘の殺人」 2位:「かがみの孤城」 3位:「百貨の魔法」 4位:「たゆたえども沈まず」

 「屍人荘の殺人」は、ペンションを舞台にした「クローズドサークル(密室)殺人事件」のミステリ作品。粒ぞろいの候補作の中で、そのオリジナリティと完成度に「特別感」を感じました。すでに多くのミステリランキングで高い評価を受けていますが、本屋大賞受賞によって、ミステリファン以外にも読者を獲得できるでしょう。著者のデビュー作ということも、書店員さんが「売りたい本」という、本屋大賞の主旨に対するプラス要因になっていると思います。

 「かがみの孤城」は、中学生たちが鏡を通り抜けてお城に集う、ファンタジックな設定。それでいて、壮大な「救い」の物語。私は、この作品を昨年の「今年読んだ本ランキング」の1位にしたし、ノミネート10作品でただ一つ☆5つを付けた。だからこの本が、私の一番のおススメなのだけれど、本屋大賞の主旨を鑑みて敢えての二番にしました。

 「百家の魔法」は、地方の老舗百貨店を舞台にした、ハートウォーミングな物語。店員たちのそれぞれのストーリーを語りながら、同時に大きな物語が進む。 登場人物たちやこのお店を応援したくなるとともに、自分も励まされているように感じる。他の作品と比べて、とりわけ幅広い層の読者に受け入れられる作品だと思います。

 「たゆたえども沈まず」は、ファン・ゴッホを題材に「史実を巧み取り入れたフィクション」。著者は、この本と同様の、画家とその作品をテーマにした作品を多く記していて、これまでも何度かノミネートされているけれど、この本はこれまでとは違った完成度を感じました。昨年は6位ですが、今年はそれより上位になると思います。

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2017年の「今年読んだ本ランキング」を作りました。

 恒例となった「今年読んだ本のランキング」を作りました。小説部門、ビジネス・ノンフィクション部門ともに10位まで紹介します。
  (参考:過去のランキング 2016年2015年2014年2013年2012年2011年2010年2009年2008年

 今年このブログで紹介した本は102作品でした。☆の数は、「☆5つ」が4個、「☆4つ」が50個、「☆3つ」は44個、「☆2つ」が5個、です。
 「☆5つ」の4個のうち小説は1個だけで、少し評価が辛かったかな?と思いました。「☆4つ」(楽しめた(役に立った)。おススメ)が、半分の50個もありますから、今年も読書を楽しんだなぁと改めて実感しました。

■小説部門■

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
かがみの孤城 / 辻村深月 Amazon
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少年少女が鏡を通り抜けてお城に集い、秘密の部屋の鍵を探す、というファンタジックな設定。それぞれに抱えているものがあり、それを丁寧に描くことで、本当に奥深い物語になっている。
蜜蜂と遠雷 / 恩田陸 Amazon
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直木賞と本屋大賞のダブル受賞作品。国際的なピアノコンクールを舞台とした出場者たちの群像劇。文章が、音楽と映像の両方の感覚を呼び覚ます。物語の力を示した著者渾身の作品。
君たちはどう生きるか / 吉野源三郎 Amazon
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80年前の1937年、日本が戦争を始めたころに出版された作品。倫理や哲学的なテーマを、少年と叔父の対話として身近な問題に引き付けて綴る。今なお大事なことが書いてある。
真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥 / 大沼紀子 Amazon
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「まよパン」シリーズの最終巻。真夜中に営業するパン屋と、そこにやってくる入り組んだ事情を持ったヤヤこしい人々が紡ぐ物語。ちょっと欠けた部分のある人間たちの優しさが素敵に感じる。
暗幕のゲルニカ / 原田マハ Amazon
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ピカソの「ゲルニカ」を巡るミステリー。MoMAのキュレーターが主人公の「現代」と、ピカソの愛人が生きる「過去」の、2つの物語が響き合う。キュレーターでもある著者にしか書けない物語。
ホワイトラビット / 伊坂幸太郎 Amazon
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誘拐をビジネスにしているグループで働いている男が引き起こした人質立てこもり事件。登場するのがクセのある人物ばかりで誰も信用できない。著者お得意のトリックが仕込まれた物語。
アキハバラ@DEEP / 石田衣良 Amazon
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アキハバラのオタクたちが作った会社と、そこで開発した画期的な検索エンジンを巡る、大企業との攻防。「不適応者の群れが、新しい時代のチャンピオンになる」痛快なストーリー。
玉依姫 / 阿部智里 Amazon
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ファンタジー、ミステリーファン注目の八咫烏するシリーズの第5弾。「山内」という異界を舞台としてきたシリーズで、突然現代の日本を舞台に。著者は新人ながら物語巧者であることを証明。
不時着する流星たち / 小川洋子 Amazon
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実在する人物や出来事からの連想によって、著者が紡ぎ出した10編の物語たち。何か少しだけ、でも決定的におかしい。例えると「リアルな夢」。そんな物語をたっぷりと楽しめる。
10 罪の声 / 塩田武士 Amazon
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山田風太郎賞受賞。1980年代の「グリコ・森永事件」を題材にした作品。犯人の家族を描くことで、未解決事件のありゆる「真相」を提示。「事件の後」を丁寧に描いたことも秀逸。

 今年の第1位「かがみの孤城」は、昨年の「東京會舘とわたし」に続いて2年連続の辻村深月さんの作品になりました。さらに一昨年は「ハケンアニメ」が第2位。辻村深月さんの作品が好きだとは感じていましたが、ランキングを付けることで「こんなに好きだったのか!」と、自分でも驚いています。

 4位「真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥」、8位「玉依姫」は、シリーズの中の1冊で、その本自体に加えてシリーズとしての評価も加味しました。もし読んでみようと思われたなら、ぜひシリーズの1冊目から順に。そして1冊目がそれほどでもなくても、2冊目3冊目ぐらいまでは読んでいただきたいです。

 選外の作品について言うと、 岡田淳さんの「こそあどの森の物語 はじまりの樹の神話」、西加奈子さんの「i(アイ)」 が、心に残りました。その他、小路幸也さんの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」、ジェフリー・アーチャーさんの「機は熟せり」は、長く続くシリーズの1冊で、こちらはシリーズ全体としておススメ。

■ビジネス・ノンフィクション部門■

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

順位 タイトル/著者/ひとこと Amazonリンク
みみずくは黄昏に飛びたつ / 村上春樹 川上未映子 Amazon
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川上未映子さんが村上春樹さんに聞いたインタビュー。文字数にして25万字。同業者のインタビューだからか、機微に触れる話も。ファンではなくても、春樹さんに興味があれば楽しめる。
スノーデン 日本への警告 / エドワード・スノーデン Amazon
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エドワード・スノーデン氏が、滞在先のロシアから参加したシンポジウムを書籍化したもの。「言論の自由やプライバシーの権利は社会全体に利益をもたらす」という指摘を重く受け止めたい。
福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」 / NHK取材班 Amazon
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福島第一原発の事故について、6年間にわたる取材によって明らかになったことまとめたもの。「なぜそれが起きたか」「どうすれば防げたか」を調べて考えることが未来のために必要。
ライフ・シフト / リンダ・グラットン アンドリュー・スコット Amazon
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2007年生まれの人が半分に減る年齢は104歳。平均寿命が80歳台なので、人生80年と思っていたら100年だった。それに合わせた人生をしなければならないことに気付かせてくれる本。
歴史の愉しみ方 / 磯田道史 Amazon
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歴史学者の著者のエッセイが52編。「忍者の子孫を訪ね歩き、根こそぎ古文書を見ていく」という、フィールドワーク主体の歴史学者のスタイルを知った。歴史学の存在価値にも触れる本。
言葉にできるは武器になる / 梅田悟司 Amazon
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電通の現役のコピーライターによる「言葉」の指南書。特筆すべきは、言葉を「伝える道具」としてだけでなく「考える道具」としたこと。よりよくより深く考えるためにも言葉を磨かなくてはいけない。
日本会議の研究 / 菅野完 Amazon
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安倍内閣の閣僚の大半が関わりを持つ「日本会議」という民間団体を、ルーツから掘り起こしたレポート。今の世の中の動きと照らし合わせると、本書の内容が説得力を持って迫ってくる。
キャスターという仕事 / 国谷裕子 Amazon
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「クローズアップ現代」を降板した著者が、鋭い問題意識を通して番組について綴る。「映像」が最大の情報であるテレビの世界で、複雑な問題や思想を伝えるための「言葉」の力と怖さを指摘。
新聞記者 / 望月衣塑子 Amazon
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著者は、官房長官会見で有名になった東京新聞の記者。子どものころから書き起こして、駆け出し記者時代を経て現在に至るまでを綴る。著者の新聞記者としてのあり方の理由が分かる。
10 一汁一菜でよいという提案 / 土井善晴 Amazon
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著者料理は研究家。夕食は「ご飯と具だくさんのみそ汁」だけでOK。「きちんとした食事はおかずが何品以上」という固定観念へのアンチテーゼ。毎日の料理をする人は、これで気が楽に。

 下位とは言っても、菅野完、国谷裕子、望月衣塑子と並んでいて、上位の方には原発問題もリストアップされているので、一定の傾向が出ていることは否めません。現在の政治・社会のあり方に対する強い危機感が私にはあって、特に新書を手に取る時にその思いが強く影響しています。

 そんな中で、1位の「みみずくは黄昏に飛びたつ」は、政治・社会をテーマにしたものではありません。学生時代から30年以上も読み続けている、村上春樹さんのことをさらに知ることができました。聞き手の川上未映子さんに感謝です。

 こうして並べてみて気が付いたことがあります。本の間に一見では分からない関連性があることです。例えば、3位の「福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」」と、5位の「歴史の愉しみ方」。「歴史の~」で著者の磯田さんは、原発事故を経験して、歴史学の社会への生かし方について考え行動をとられています。

 また、6位の「言葉にできるは武器になる」と、8位の「キャスターという仕事」は、ともに「言葉の力」について書いています。9位の「新聞記者」にも通じます。そして、2位の「スノーデン 日本への警告」とも「報道の自由」というテーマが共通します。ちょっと面白かったです。

勝手に予想!2017本屋大賞

 明日4月11日(火)が本屋大賞の発表日です。今年は10作品がノミネートされていますが、そのうちの8作品を読みました。

 読んだのは「i(アイ)」「暗幕のゲルニカ」「桜風堂ものがたり」「コンビニ人間」「ツバキ文具店」「罪の声」「蜜蜂と遠雷」「夜行」です。読んでいないのは「コーヒーが冷めないうちに」「みかづき」です。

 全部は読んでいないし、これまでいいセンは行くけれど当たったことがないのですが、今年も、私の予想を発表します。

 大賞:「暗幕のゲルニカ」 2位:「蜜蜂と遠雷」 3位:「罪の声」 4位:「桜風堂ものがたり」

 「暗幕のゲルニカ」は、19世紀と21世紀、現実とフィクションが行き来する構成が見事で、とても上質な読み物になっていました。それに加えて「反戦」を象徴した「ゲルニカ」の時代背景や制作意図を取り込むことで得た、今の時代へのメッセージ性を評価して大賞にしました。

 「蜜蜂と遠雷」は、「暗幕のゲルニカ」とどちらにするかすごく迷いました。著者の描写力の高さが発揮されていて、作品としての完成度が抜きんでていると感じました。ただし既に直木賞を受賞しているので、それを追認するのでは書店員さんが選ぶ意味がないのではないかと思いました。実際のところ、直木賞受賞作が本屋大賞を受賞した例は、これまでにはありません。

 「罪の声」は、昭和の大事件をテーマとした作品で、「本当に「こうだったかもしれない」と思わせる読み応えがありました。この作品で山田風太郎賞を受賞していますが、まだデビュー5年ということで、書店員さんが発掘して世に出た、ということになるのではないでしょうか?

 「桜風堂ものがたり」は、売れる本を発掘する才能がある書店員が主人公。同僚たちも書棚づくりに熱意を持って取り組む。まさに「本屋大賞の心」を持った人たちの物語。完成度も高く、心を打つ場面もあり、きっと上位に入ってくるでしょう。

—-2017.4.12 追記—-

 大賞は「蜜蜂と遠雷」に決定しました。2位「みかづき」3位「罪の声」4位「ツバキ文具店」と続きます。3位の「罪の声」が的中しましたが、その他は外れました。直木賞とのダブル受賞は、少し前までは「あるかもしれない」と思っていたのですが、ずっとないので「ないものだ」と思ってしまいました。

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