この記事は、昨日レビュー記事を書いた「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を深読みした解釈を書いています。お遊びのようなものですが、よければお付き合いください。
村上春樹さんの作品は、インタビューに応えたご本人の談によると、本来の物語からパラフレーズ(言い換え)が行われているそうです。場合によっては、その言い換えは何段階かにわたります。村上作品にはメタファー(暗喩)が多いと言われる理由でもあります。
そこで、暗喩を探して隠された元の物語を想像する、という楽しみ方が読者にはあるわけです。今回「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んで、思いついたことがあり、私もやってみようと、気まぐれに思い立ったわけです。
この物語の登場人物の多くの名前に、色の名前が使われています。特に重要なのが、主人公の多崎つくるの高校時代の4人の親友たちの名前。赤松慶、青海悦夫、白根柚木、黒埜恵里。「赤」「青」「白」「黒」。
この色を眺めて、数年前に読んだある本を思い出しました。その本は、万城目学さんの「鴨川ホルモー」。京都を舞台に繰り広げられる謎の競技「ホルモー」を戦うのは、京都大学青竜会、京都産業大学玄武組、龍谷大学フェニックス(旧朱雀団)、立命館大学白虎隊。「青」「玄(黒)」「朱(赤)」「白」
なんと!村上春樹さんは「鴨川ホルモー」から着想を得たに違いない!
....というのはもちろん冗談、申し訳ありません。
まぁその可能性はゼロではないとしても、もっとあり得る仮説としては、両者が同じものから着想を得ている、ということ。「鴨川ホルモー」のチーム名は、中国の神話で天の東西南北の四方の方角を司る4つの霊獣の名です。それに倣えば、この物語の4人で「天」「世界」「宇宙」といったものを表していると考えることができます。
さらに、この四方の中央に「黄龍」を加えたものが、五行思想に取り入れられています(「鴨川ホルモー」の外伝「ホルモー六景」には、同志社大学黄竜陣が登場します)。ここで、この物語の親友グループ5人の最後の一人。つまり主人公の多崎つくるが重要な意味を持ちます。
つくるは、自分の名前には色がない、ひいては自分には色彩がない、つまり特長や個性がなく「空っぽ」だと思っています。しかし、彼の名前をよく見直すと?「タザキツクル」。そうです、名前の中に「キ(黄)」が含まれているのです。
つまり、彼の役割は「黄龍」、中央を司る者だったと考えられます。物語の中で5人の親友グループは「乱れなく調和する共同体」に例えられていますが、黄龍を含めた五霊獣による「宇宙・世界」の均衡のことをそう表現しているのでしょう。
そして、中央の「黄龍」である多崎つくるを欠くことで、「宇宙・世界」は均衡を失い....という壮大な物語が、パラフレーズ(言い換え)前の「本来の物語」。
これが私の「深読み」です。いかがでしょう?
お付き合いありがとうございました。
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