ローマ人の物語11 終わりの始まり

著 者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2002年12月10日
評 価:☆☆☆☆(説明)

 古代ローマの歴史1000年をつづる連作の第11作目。
 15巻で完結の予定であるし、前753年から1000年の歴史ということは、395年のローマ帝国分裂か、476年の西ローマ帝国の滅亡まで、ということだろうから、161年就位のマルクス・アウレリウス帝から211年退位のセヴェルス帝までのこの巻は、もう終盤である。
 マルクス・アウレリウス帝は、五賢帝と呼ばれるローマの最盛期を飾る皇帝たちの最後の人である。だから、タイトルが「終わりの始まり」。実に簡にして要を得たタイトルである。
 この時代から、ローマ帝国は軍事帝国化し、坂道を転がり落ちるように、崩壊への道を進むことになる。言うまでもなくローマ帝国は、ずっと以前から強大な軍事力を持ち、周辺の民族との戦争を経てその版図を広げてきた。その意味では、ずっと以前から軍事大国ではあった。しかし、リーダー達のキャリアとして、ミリタリーとシビリアンの経験がクロスするシステムによって、高度にコントロールされた軍事大国だった。それが、内乱を制したセヴェルス帝の軍事優遇策によって微妙なバランスが崩れてしまう。
 著者の情報収集力やその分析、それによる独創的な歴史観は、感想を述べる必要もないくらい素晴らしい。
 ローマ帝国の発展の素は、征服した敗者をも赦し同化するする「寛容」さにある。その滅亡の始まりは軍事帝国化による、とする著者の意見は現代にも通じると思う。「歴史は繰り返す」と言いながら、歴史に学ぶことができない人類。
 まもなく、アメリカ軍によるイラク攻撃が始まる。

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