著 者:ビル・ブライソン 訳:楡井浩一
出版社:日本放送出版協会
出版日:2006年3月25日第1刷
評 価:☆☆☆(説明)
著者は、ユーモアのある旅行記を書く作家として有名だそうだ。物書きとしては一流であることの証だが、科学については門外漢。その著者が、3年の月日をかけて科学界の重鎮を含む多数の専門家を取材して、人類がこれまでに解明してきた科学の成果を語る。
テーマは、宇宙のあり方から、45億年あまりの地球の歴史の様々な分野にわたる。相対性理論や量子力学などの物理学はもちろん、生命の誕生や進化論、小惑星の激突やプレートテクトニクス、恐竜の絶滅と人類の起源、その他の科学の様々な発見と、ほぼ文字通りの「すべて」の歴史だ。(原題は「A Short History of Nearly Everything」,ほとんどすべて と少し控え目だ。)
これだけの内容の豊富さだから当然と言えば当然だが、600ページを超える大書だ。読み通すにはそれなりの時間と根気が必要だ。著者がいかに平易に書く努力をしてくれたとしても、テーマがテーマだけに難しい内容であることに違いないから、なおさら根気が必要になる。
しかし、それでも本書は思いの外読める。(私も何度か睡魔に襲われながらも結局読み通した。)それは、本書が科学的事実の解説ではなく、その解明に至る経緯と、それに関わる人に焦点を当てているからだ。
紹介される研究者の多くは、その変った言動と共に紹介される。塩素、フッ素、マンガンなどを発見したある科学者は、研究材料を何であれ舐めずにはいられない性格だった。ある極限状態の研究者は、酸素濃度が人体に与える影響を調べるために、自分はおろか家族や周辺の人々を次々に減圧室に放り込んだ。実験中に痙攣を起こした妻は、発作が治まった後、夕食の支度のために家に帰された。という話が盛りだくさんに紹介されている。
また、科学というのは新しい発見がなかなか認められないらしい。その発見が既成の学説を否定するとなればなおさらだ。プレートテクトニクスは今でこそ主流の学説だが、広く認められるようになったのは、1960年代の後半だ。
それまでは、大陸が移動している証拠として、遠く離れた大陸に生息する同種の動植物が次々と発見されると、科学者たちは大陸のどこにでも陸橋を懸けてこれを説明しようとしたと言う。アインシュタインも反対の立場を表明して、その誤りに気付かないまま亡くなっている。
こうしたことを、現代から過去を見て笑ってばかりはいられない。20年ぐらい後になって、「わずか20年前には、人が猿から進化したと本気で思っていたんだ」と言われているかもしれないのだから。
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ビル・ブライソン・著/楡井浩一・訳
日本放送出版協会・出版
『兎に角、この方、筆が立ちすぎ、面白い文章にのせられて科学の世界へGO』…