ハイコンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代

書影

著 者:ダニエル・ピンク 訳:大前研一
出版社:三笠書房
出版日:2006年5月20日第1刷 5月30日第3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 訳者の大前研一氏によれば、これからの日本人は「右脳を生かした全体的な思考能力」と「新しいものを発想していく能力」が必要になるという。そして、本書にはそういった能力の重要性とその磨き方が書かれている。

 著者の(訳者も)時代認識では、現在の「情報化の時代」から、これからは「コンセプトの時代」になるとしている。アルビン・トフラーが「第三の波」で、産業社会から情報化社会への移行を指摘したが、今度はその情報化社会も終わりを告げ、次の時代へ移るということだ。
 その「コンセプトの時代」では、6つの感性が求められる。1.機能だけでなく「デザイン」 2.議論よりは「物語」 3.個別よりも「全体の調和」 4.論理ではなく「共感」 5.まじめだけでなく「遊び」 6.モノより「生きがい」だ。
 ここまでなら、よくあるお手軽自己啓発本のようだ。「デキるビジネスマンはここが違う」みたいな本だ。しかし、本書は少し奥が深い。

 何より現状分析が的確だ。上の6つの感性も現状分析の上に成り立っていて、思い付きではない。著者の現状分析では、情報化時代にもてはやされた、金融業やITのエンジニアや、弁護士、会計士などの「ナレッジワーカー」の職が危うくなっているという。
 原因の1つは、インドとIT技術だ。米国の大手金融業では、企業会計や財務分析をインド人MBA取得者に委託しているという。米国内で行うのと同じ品質の仕事が、何分の1かのコストでできるからだ。判例検索をする弁護士業務、ソフトウェア開発も同じ理由で、インドに流出している。米国内で高給を謳歌していたエリートたちは、ずっと安い賃金で同じ仕事を提供する人々と競争しなくてはならなくなった。
 IT技術も脅威だ。データベースの充実で、医療情報など、従来は一部の有資格者が独占していた知識が、限りなく無料に近いコストで誰でも手に入れることができる。また、会計や医師の診療行為さえ、初歩的な部分に限られるとは言え、数万円のパソコンソフトでできてしまう。

 だからこそ、ネットワークでつながった遠いインドではできないこと、コンピュータソフトではできないこと、がこれからは重要になってくる。それが「デザイン」他の感性を必要とする仕事だ、というわけである。本書には、それぞれの感性を磨くには、どこのサイトに行って何を手に入れて、と詳しく書いてあるので、興味を持った人は一読の上実践することをおススメする。

 しかし、著者も訳者も触れていない点で、気になることがある。それは、著者が指摘するような能力を持つ人は、「そんなに沢山いなくても良い」ことだ。
 商品のデザインはともかく、ビジネスのグランドデザインなどを行うのは、一握りの人々だと思う。本書の読者のひとりひとりが、こういった能力を磨いたり仕事を目指したりするのは良いことだが、社会全体で見ると、多くの人が職を失うか抑制された賃金で働くしかなくなるのではないか。
 世界の工場といわれる中国に生産ラインを移してしまったことで、多くの工場従業員の職が奪われたのと同じことが、今度は、高学歴で高い技能を持ったナレッジワーカーにも起きるということだ。社会や技術の進歩は確かに、極端な貧困などからは人々を救ったが、その行き先は幸せにつながっているのだろうか?

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

2つのコメントが “ハイコンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代”にありました

  1. まーちゃん

    YO-SHIさんこんばんは。
    早速お邪魔してみました。

    この本は建築雑誌で紹介されていて、興味がありました。
    こういう内容だったのですね(^^)

    まだ読むのは先でいいやと思っていたのですが、早く読みたいと思いました。
    また、色々参考にさせて頂きます。
    よいお年を(^_-)-☆

  2. YO-SHI

    まーちゃんさん、コメントありがとうございます。

    どうも、いらっしゃいませ。
    建築雑誌でも紹介されていたんですね。
    建築のお仕事もやっぱり、デザインが重要だからでしょうか?

    興味を持たれたようですから、読まれるといいですよ。
    これからのことを、うまく言い当てているように思います。
    ただ、秀でた能力のない身としては、肩身が狭い思いがします。
     

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です