著 者:森見登美彦
出版社:新潮社
出版日:2003年12月20日初版
評 価:☆☆☆(説明)
2003年の日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作品。ついでに著者のデビュー作。
「夜は短し歩けよ乙女」「有頂天家族」などの最近の作品を読んだ後で、このデビュー作を読むと、著者の作品世界がいかに独特の奇妙な形に練り上げられて来たか、が想像できて興味深い。
舞台は、他の作品と同じく京都の街、それも東山一帯。そこは、腐れ大学生たちがたむろする学生の街。この腐れ大学生の1人、森本が本書の主人公。男ばかりで下宿に集まって鍋をつついて妄想をたくましくしながら、クリスマスと恋愛礼賛主義を呪うというような、生産性のカケラもないような生活を送っているようなヤツである。
ストーリーは、森本の同類(つまり、彼の下宿で鍋をつついているようなヤツら、どいつもこいつもサエない)のエピソードを挟みながら、彼の日常を綴っていく。
日常とは言っても、もちろん平凡とは言えない。彼は、一時期付き合っていた彼女、水尾さんがいて、別れた後も「水尾さん研究」と称して、その日常の行動を観察・記録している(本人はストーカーとは根本的に違うと言っている)。また、ゴキブリ入りのプレゼント包装した箱を、それとは気付かずに開けて、下宿を昆虫王国にしてしまったりする。
全体を通して面白かった。エピソードが笑えるし、ラストの事件は何やら爽快感さえ漂う。登場人物たちは個性的だし。(言い忘れたが、主人公がフラれた水尾さんだって普通じゃない。)
しかし、変さ加減で言えば、やっぱり最近の作品の方が変。冒頭で「作品世界がいかに独特の奇妙な形に練り上げられて来たか」と言ったのは、そういう意味だ。登場する何人かの人物や出来事の造形を、さらにデフォルメしていくと最近の作品世界に行き着く。つまり、本書はデビュー作らしく著者の作品の原点と言える。
ちなみに、本書が「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞していることについては、説明が必要だろう。今までの話のような、男子大学生の醜態は、幻想的でもなければ、空想の翼が広がったりもしない。ただ、時折、電車が闇の中を煌々と明かりを付けて走り、フッと幻想の世界に入り込む。 ここの部分だけは他との対比もあって、くっきりと浮き上がって「ファンタジー」なのだ。
最後に「有頂天家族」のレビューでも白状しているが、私はかつて森本らと同じ、京都の腐れ大学生だった。だから、場所や出来事の多くはリアルに思い浮かべられる。面白かったのには、そういう理由も多分にある。
そう、私も、男ばかりで下宿に集まって鍋をつついてました。女の子の話もしたけれど、自分たちには全く関係ないのに、政治や経済の話をよく夜通ししていました。「オレが首相だったら....」って。笑っちゃいますね。
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コメント&TBありがとうございました。
予想に反して面白く読みました。女子も、生産性のない妄想をすると思います。(もてる人はしないと思います)
たもとさん、コメントありがとうございます。
あぁ、女子もしますか。やっぱり。
それでもって、もてる人はしないですよね。やっぱり。
太陽の塔というと…岡本太郎をおもいだしました。。。。
mikiさん、コメントありがとうございます。
さすがに芸術家ですね。
私も、親に連れられて万博に行った世代なので、太陽の塔と言えば岡本太郎、岡本太郎と言えば「芸術は爆発だぁ!」ですが。(笑)
その通り、タイトルの太陽の塔は、あの太陽の塔です。本の表紙の左上の方にそびえたっています。
あれが、本書の「ファンタジー」の部分に関わってるんです。
こんにちは~。
今さらですが、こちらを読みました。
要は、腐れ大学生の彼女がいない日常の様子(笑)なんですけど
こう、なんとも奇妙な感じが森見さんらしいですね。
私はこの世界観は好きです。
でも、この大学生が彼だったらと思うと遠慮かな (^^ゞ
たかこさん、コメントありがとうございます。
この大学生が彼だったら?そりゃ遠慮したいでしょうね。
別れた後にまで「研究」されたくないでしょう、誰だって。
でも、この冴えない連中の暮らしぶりって、あの頃の私の
生活とダブってるんですよ。(「研究」はしてませんけどね)
あぁ懐かしい。
太陽の塔
「太陽の塔」って知ってはる? 1970年(えらい昔やな)に大阪で開かれた万国博覧会のシンボルなんやけど、ほんまによ分からへんデザインの塔や。自分の目で見たことあ …