著 者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2008年4月初版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)
「守り人」シリーズの外伝の短編集。バルサ13歳、タンダ11歳の時の物語。バルサが故郷のカンバルから養い親のジグロと共に逃げ出してから7年。バルサはトロガイの家にジグロとともに暮らしていて、その麓にタンダが住む村がある。
バルサとタンダの関係を紐解く、そして本編ではほとんど語られなかったジグロの人となりを垣間見ることができる。「浮き籾」「ラフラ<賭事師>」「流れ行く者」の3編と、超短編「寒のふるまい」の1編を収録。
心に残ったのは「浮き籾」と「流れ行く者」の2編。
「浮き籾」では、タンダの住む村の暮らしと情景が、目に浮かぶかのように描き出される。村人たちが共同して稲を育て、害虫に立ち向かい、収穫する。人々は工夫して生活を営み、大人は家族と村を守り、子どもには子どもの役割がありそれを果たす。
「守り人」シリーズの舞台は、その多くが宮廷であったり、街であったりして、農村は物語の背景に押しやられていた。本当は、国の大部分が農村であったはず。この農村が、「守り人」シリーズの終盤では破壊される。平和が侵されるということは、この暮らしが破壊されるということでもあったわけだ。
さらに、ここで描かれているのは幼いバルサとタンダの心の交流だ。なんと言ってもタンダが幼い。11歳ということだが、もっと幼い4,5歳かと思うような振る舞いもする。それに比べると、バルサはたった2つ年上なだけだがしっかりしている。
タンダは薬草師としての才能の片鱗を見せているが、何としても幼い。バルサから見れば「守ってあげる」対象でしかなかったと思う。それが、年を経てタンダを必要とするように発展するのだが、そういった兆しは見当たらない。そこの部分の物語は、知りたいような知りたくないような微妙な気分だ。
次は、表題作の「流れ行く者」。ジグロはバルサの庇護者として、普通の親とは違った方法で彼女を護る。娘に短槍を持たせて護衛の旅に連れてくるなど、周囲からも護衛士仲間からも、なかなか理解されない。しかし、ジグロは自分がいつ死ぬともわからないことも、自分が死ねばバルサは自分で自身を守るしかないことも知っている。
そしていよいよ危機が迫った時には「自分の命を守ることに、全力をつくせ。」という言葉にすべての思いを乗せるしかないのだ。
しかし、バルサはジグロに守られるだけの存在ではなかった。重傷を負い、高熱を出して倒れたジグロを救ったのは、バルサの機転と厚い介抱によるものだ。逃亡生活の7年の間に、2人の関係はお互いを必要とするものになっていた。バルサは「闇の守り人」でジグロの思いを改めて受け止めることになるが、そこにはさらに複雑な感情が渦巻いていそうだ。
本書は、「守り人」シリーズの読者を対象としたものだと思った方が良い。本書だけ読んでも面白いかもしれないが、その面白さ半端なものになってしまうだろう。逆に言えば「守り人」シリーズの読者にはオススメ。読めば、シリーズの世界観や人間関係に何か感じるものが必ずあるはず。
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『流れ行く者―守り人短編集』著:上橋菜穂子
=== 『流れ行く者―守り人短編集』著:上橋菜穂子 / 偕成社(2008.4) ===
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◆あらすじ◆
王の奸計により父を殺された少女バルサと暗殺者の魔の手から親友の娘バルサを救ったがゆえに反逆者の汚名を着ることになったジグロ。ふたりは故国を捨て酒場や隊商の用心棒をしながら執拗な追ってをかわし流れあるく。その時々にであった人々もまたそれぞれに過去を持つ流れ行く者たちであった。番外編にあたる守り人短編集。
}}}
ようやく守り人シリー…..
流れ行く者 ―守り人短編集― 上橋菜穂子 偕成社
本編が完結した後の外伝。
短編というか・・中篇が三つ入っています。
バルサの少女時代の出来事を描いてあるのですが、
一つ一つが、とても深い。
上橋さん、今更言うのもなんですが、さすがです。…
はじめまして。TB頂いてありがとうございました。
このシリーズは好きで、登場人物にも思いいれがあります。
バルサやタンダの幼い頃を知る物語は、個人的にとてもうれしかったですねえ。自分にないものを持つお互いに魅かれ、理解しあいつつも束縛しない、この二人の関係が私はとても好きで。このシリーズ、もっと読みたいものです。
ERIさん、コメントありがとうございました。
バルサとタンダは、この後どんな人生を経て「精霊の守り人」に至るんでしょうね。
そこのところは、私は知りたいような、知らないまま想像するのがいいような。
でも、上橋さんのこのシリーズはもっと読みたいです。
流れ行く者―守り人短編集 【上橋 菜穂子】
『守り人シリーズ』の外伝で、バルサとタンダの子ども時代を中心に描かれた短編集です。
父を王に殺害され、養父のジグロに育てられたパルサのさまざまなエピソードがあります。
また、その頃に同じく子どもだったタンダの話やバルサとの交流もあり。
タンダもバルサも、…
YO-SHIさん、こんにちは。
確かにこの作品でのタンダは幼いですね。
私もそれはちょっとびっくりしたんですが、
でも都会の子ではないから、こんなものなのかなあーと。
あと、時代的なことも関係ありそうです。
私が子供の頃に比べても、今時の子って良くも悪くも大人ですし。
…そうでなくても、バルサは色んな世界を知っててしっかりしてるから
タンダがやけに可愛らしく見えてしまいますね。(笑)
YO-SHIさんはファンタジーがお好きなんですね~。私も大好き。
トールキンの「サー・ガウェイン」の中の「真珠」が退屈でも
それはトールキンのせいじゃないというところでは、「確かに!」(笑)
全然読んでないのは、崖の国とダレン・シャン…
気になりつつ、未読です。
ファンタジー以外でも読んでる本がかなり重なってて嬉しいです。
これからどうぞよろしくお願いいたしますね。
四季さん、コメントありがとうございます。
ファンタジー、好きです。思い返してみると、子どものころに
佐藤さとるさんの「コロボックル物語」シリーズを次々と
学校の図書館で借りてきて読んだのが、ファンタジーの原体験の
ように思います。何十年も前のことで恐縮ですが。
最近、近所の図書館の司書さんと話す機会があって、
「コロボックル」の話になったもので...
その図書館では、新刊に押されてか、「コロボックル」シリーズは
書庫に入れられてしまって、開架室には置いてないんだそうです。
「たくさんの本好きの子どもたちに読まれてきたのに...」
と、ちょっと残念そうでした。
「崖の国」はファンタジー好きにはオススメです。
レビューにも書きましたが、少なくとも2巻までは読んで欲しいです。
2巻から3巻、4巻、と面白くなってきますから。
「ダレン・シヤン」は好みが分かれるかな?私は結構好きでしたけど。
四季さんのブログを右のリンクリストに加えさせていただきました。
旧ブログやその前のサイトも合わせて、何千冊ものレビューは圧巻ですね。