著 者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2004年6月初版第1刷
評 価:☆☆☆☆(説明)
守り人シリーズで、圧倒的な感動巨編を紡いだ著者のデビュー作。本書は、再版を願う読者の声に応える形で復刊された新版。アジアンハイファンタジーという、どこか古代の香りが漂う作品群で知られる著者のデビュー作は、何とSFだった。しかし、文化人類学を学んでいた著者が、沖縄の信仰の場所でその核となる着想を得たというこの物語は、他のどの作品よりも著者らしい、その思いが現れた作品だった。
舞台は、環境破壊のため住めなくなった地球を出て人類が移住した星、ナイラ星。時代は、物語の中で、白人がネイティブアメリカンを迫害してから400年で地球が破滅、その後人類がナイラ星に移住してきてから200年、とあるから今から400年ほど後のことになるのだろう。そして、この星には知的な先住民がいたが約100年前に滅んでいる。
主人公は、14歳の少女リシアと、少し年上のいとこの少年シン。彼らの家系にはある秘密があり、その秘密に関連してリシアにある特殊な能力が発現する。彼らは政府によって幾重にも隠匿されてきた、この惑星への移住と先住民族の滅亡に関する陰謀に巻き込まれる。
そして、リシアの特殊能力は、100年前の出来事、さらには1000年前の出来事を一つに結びつけて、彼女は人々が1000年の間、脈々と受け継いできた希望の最後の一片となる。
なんという構想力だろう。偕成社のHPによると、著者は出版社に電話をかけて、この物語の原稿を読んでもらったそうだ。そんな経緯で作家デビューしたのには驚く。その時の担当の人が、この物語に目を留めたことに感謝する。でなければ、私は著者の作品に出会っていなかったかもしれないのだから。しかし、この物語自身にそれだけの力が宿っているのも間違いない。著者のファンならずとも、皆さんにおススメだ。
ここから先は、ちょっと思ったこと書いています。お付き合いくださる方はどうぞ。
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蛇足と知りつつ、思うことを2つ。
1つ目は、時代について。本書が最初に世に出たのは1989年。その時には一度重版しただけで書店から消えてしまったそうだ。「時代が早すぎた」という感を強く持つ。ハリーポッターの第1巻が日本で出版されるまで10年を待たなくてはならない。
ハリーがもたらしたものの一つに「大人も(面白ければ)子ども向けのファンタジーを読む」空気があると思う。本書は偕成社のHPに「対象年齢:小学上級」とあるように、子ども向けの本だ。しかし、民族の文化や環境問題、政府の陰謀など、描かれているテーマは大人の心にこそ響くと思う。20年前の大人の多くは子どもの本をあまり読まなかったろうと想像されるがどうだろう?
2つ目は、本書を読んでいて様々に思い出された本について。
まず「イヴの七人の娘たち」。この本は、母から娘へ伝わるミトコンドリアDNAを手がかりに、人類の歴史をひもとくものだが、リシアの特殊な能力も母から娘へと伝わるらしい。そして、1000年前の遠い母の心をリシアは受け継いでいる。(私がこのブログを始める前に読んだ本なので、レビューがありません。AMAZONのページにリンクを付けています。)
そして「異次元の刻印」。シンの母親が「大地を傷つけないように裸足で歩いた先住民族を笑った文明人が、わずか400年で地球を破滅させた」と語る部分がある。また「あとがき」で、著者は「世界じゅうに散在する<精霊を信じる人びと>」のことに触れている。シャーマンが持つ知識を、非科学的だと切り捨てることに異を唱える、ハンコック氏の主張と通底するものがないだろうか?
217『精霊の木』
「ひとは自分のできることしか できないんだ
おれたちの子孫も 自分のできることを
やっていくだろう・・・力をつくしてな」
―文中より―
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精霊の木
上橋 菜穂子のデビュー作『精霊…….
こんばんは
この方の作品大好きです
彼女の一貫した姿勢が貫かれているところに
好感を覚えます
教えてくださった作品
「図書館シリーズ」ですが 「図書館革命」が最初に図書館から届いてしまって
逆から読み始めるしかないかと 思ってるところです
それほど人気が高く「図書館戦争」は当分手元には届きそうにないのです
頭の中で逆向きに組み立てて行く訓練をしなければと・・ちょっと不安ですが・・
慧さん、コメントありがとうございます。ご無沙汰です。
そうですね。著者の作品は、自然というか母なる大地というか、
そういったものと、私たちを守る目に見えぬ存在に対する敬意や
慎みが貫かれていますね。それが魅力なんですね。
慧さんのブログも拝見しました。オススメした本をたくさん
読んでいただいていて感激です。
「図書館戦争」シリーズを、最終巻の「図書館革命」からですか
仕方ないとは言え、ちょっと私も不安です。
活字中毒同盟を出入りしてたらYO-SHIさん発見しました☆
YO-SHIさんの紹介記事も読んだりして、最近、
ダイアナ・ウィン・ジョーンズがかなり気になってます。
上橋菜穂子さんは『守り人』1巻だけ既読ですが、
SFのイメージはなかったのでびっくりしました。
最近本のブログをサイトから独立して作(ってしまっ)たので、
よろしければお立ち寄りください_(_ _)
liquidfishさん、コメントありがとうございます。
活字中毒同盟で見つかってしまいましたか。
というより、liquidfishさんのミナミノウヲ座で
正方形のアイコンを見つけて登録したので、
見つかるのは想定内でした。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズは、私は一応
「ハズレなし」と思いこんでますが、作品が
たくさんあるので、中には???な感じのものも
あるかもしれません。1つだめでももう1つぐらいは
読んでみて欲しいところです。
それで、この本のことですが、おそらく400年後の
世界だし、科学技術も発達している感じなので
SFには違いありません。でも「守り人」シリーズの
ファンを裏切らない。
著者にしか書けない作品かもしれません。
おひさしぶりです。
守り人シリーズを外伝含めて11冊、読みつくしてしまったものですから、次は上橋さんの何を読もうかと思案しておりました。
「精霊の木」、探してみます。ありがとうございました。
さーにんさん、コメントありがとうございます。
おぉ、11冊読みつくしてしまいましたか。
私も、外伝が出る前だったので、10冊読み終わったあと
「終わっちゃった。もっと読みたいんだけど...」
と思いました。
「精霊の木」いいと思いますよ。
シリーズじゃないので1冊しかないから、読み終わったら
次は?ってことになると思いますが。