著 者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2008年12月20日発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
古代ローマの建国から西ローマ帝国の滅亡までの1200年間の歴史を、「ローマ人の物語」として、1992年から毎年1巻ずつ15巻を費やして描ききった著者による、地中海世界のその後の出来事だ。
シリーズは15巻で完結ということになっているが、表紙デザインも共通性を感じるし、描かれている歴史は連続しているのだから「続編」ということで良いだろう。シリーズの後半は毎年12月に出版されたので、私の読書の年末から年初の読み物として定着していた。この習慣が1年のブランクを経て復活した感があり、大変うれしい。
本書は「ローマ人の物語」のような年代記の形ではない。もっともこの時代は、地中海の南側からジブラルタル海峡を越えてイベリア半島まではイスラム化し、北側は大小様々な国家に分断され、東側にはビサンチン帝国があるものの領土保全に汲々としている状態。皇帝や元首を基に年代順に出来事をまとめることは難しい。
そこで、上下巻の上巻である本書では、年代としては6世紀から15世紀までの長きに渡るが、テーマを強大な帝国が制海権を失ったあとに跋扈した「海賊」に絞って、この時代のあり様が描かれている。島国に住む我々には海は境界という意識が強いが、航海術に秀でたローマ人にとっては、地中海は内海の通行路だった、とは著者の卓見だと思うが、この時代は地中海が、国家や宗教の境界線または障壁になった時代ということになる。
相変わらず淡々と出来事を記していくやり方は、人によっては読むのに辛いかもしれない。逆に、書いてある出来事は著者の目(主観)を通して見た脚色も加わっていて、歴史的事実とは言い難い、という批判があることも知っている。
それでも、私は著者の目を通した歴史物語が好きだ。それは、皇帝であれ庶民であれ、悩んだり怒ったりする人間の行いに焦点を当てた歴史だからだ。事実を書くには「○○年に□□が△△した。」という方法が最適なのだろう。しかし、それでは本書で語られている、イスラムの海賊による多数のキリスト教徒の拉致や強制労働、それに対抗するキリスト教世界の動きと、無名の人々による何世紀にも渡る救出劇を、こんなに活き活きとは伝えれらなかったと思う。やはり、著者は非凡な語り手である。
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ローマ亡き後の地中海世界(上)
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