著 者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2009年1月30日発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
上巻が、西ローマ帝国の滅亡後の6世紀から15世紀までの地中海世界を、イスラムの海賊の横行とそれに対するキリスト教社会の対応を描いたものだった。下巻の本書は、ビサンチン帝国(東ローマ帝国)の滅亡後の16世紀のイスラム+海賊とキリスト教社会の攻防を描く。一見すると年代が下っただけに見えるが、実は大きく対立の構図が異なっている。
下巻では、海賊の頭目たちはトルコのスルタンによって、トルコ海軍の総司令官に任命される。キリスト教社会も、スペインやヴェネチアといった強国がそれぞれの海軍を派遣してこれに対抗する。つまり、以前は個々の海賊行為とそれに対する対応策であったものが、16世紀には強国間のパワーゲームの時代に突入したということだ。
「強国間」と言ったが「トルコ対その他の国」という単純な構図ではない。国がプレイヤーとして登場するようになって、政治的な駆け引きが渦巻く三つ巴、四つ巴の複雑なゲームになった。こうした駆け引きを書かせれば、著者はやっぱりウマい。上巻よりもこの下巻の方がはるかに面白く読める。
トルコと西欧社会の攻防はとても面白い、詳しい内容は読んでもらうとして、読んでいてつくづく思うのは、大国のエゴと宮仕えの哀しさだ。フランス王はスペインに対抗意識を持っているし、スペインはヴェネチアの利益につながることは徹底して避ける。たとえ、トルコの侵攻に対して西欧の連合軍として戦っている最中でもだ。ヴェネチアだって、利があればトルコと単独で講和を結ぶことだってする。
それから、スペインやトルコの宮廷官僚が最高司令官に任命される例が結構多いのだが、彼らの絵に描いたような凡庸さが笑えない。目的地に着く前に病気や海賊の襲撃で2000人もの兵士を失っても、王からの命令がない限り作戦は続行、でも何人失ったかは知りたいので、数えるためだけに13日も全軍を停止する、といった具合。そんな不手際が重なって大敗を喫して本人はこっそり逃げ出す始末だ。
(私の職場でもたくさんの集計資料を作ります。上司がさらにその上司から聞かれた時にすぐ答えられるように、念のために用意しておく集計、なんてものもありました。そんなものを作っている間、現場は停滞と混乱の極みです。...失礼、これは余談でした。)
最後にちょっと気になったこと。この16世紀には、様々な出来事が地中海世界で起きていて、著者としてはそれぞれに思い入れもあるのだけれど、本書で全部を書くことはムリ。そこで「これについては、□□を読んでもらうしかない(□□は著者の著作の名前)」という一文が挿入されるのだが、これが目ざわりなぐらいに多いように思った。
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ローマが残した言葉
西洋世界に君臨したローマ。
ローマの名言を英語筆記体で筆写しました。
人間は自分が信じたいと欲することを、喜んで信ずるものだ。
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