宵山万華鏡

書影

著 者:森見登美彦
出版社:集英社
出版日:2009年7月10日 第1刷 
評 価:☆☆☆☆(説明)

 京都という街は不思議な街だ。私が住んでいたのはもう25年も前なのだが、人口150万人近い大都市なのに、何かの折に物の怪の気配を感じることがあった。それは糺の森を歩いている時であったり、鴨川の流れを眺めているときであったりする。そして、大繁華街である河原町界隈でさえ、そういった気配から無縁ではなかった。
 縦横に延びる路地に、空気の濃さと温度が違うように感じる場所がある。その頃は、気味が悪いとは思ったがそれ以上深くは考えなかった。もしかしたら異世界と通じるスポットだったのかもしれない。何といっても1200年前からそこには人の営みがあったのだから。本書は、京都の街のそんな不思議な雰囲気を思い出す、ちょっと背筋が冷えるファンタジーだった。

 宵山とは、京都の三大祭りの一つである祇園祭本祭の前日のこと。ご存知の方も多いと思うが、京都の祇園祭は7月を通じて行われ、17日の山鉾巡行でクライマックスを迎える。宵山はその前日で、山や鉾が各町内に祭られる。それをつなぐように大量の露店がでて、京都の中心街がまるごとお祭り一色になる。何キロか四方の巨大な神社の境内が出現したかのようだ。
 本書は、主人公を替えて基本的にはその宵山の1日のことが語られる。バレエ教室に通う姉妹、高校の友人に会いに来た青年、劇団の裏方をやっていた大学生、会社員の女性、...。一見して関係のないそれぞれの1日が、宵山での不思議な出来事に収れんしていく。著者はこんなこともできたのか、と言ってはあまりに失礼だ。バカバカしい腐れ大学生のナサケナイ妄想だけを書く人ではないのだ。

 とは言え、「バカバカしい妄想」を期待する読者もいるはず。そういった方もご安心を、見ようによっては、今回のバカバカしさはスケールが違う。「よくやった」と、拍手したいぐらいだ。しかし、冒頭に書いた「不思議」の方に存在感がある。著者の「腐れ大学生モノ」はちょっと合わないな、という方にもオススメだ。

 この本は、本よみうり堂「書店員のオススメ読書日記」でも紹介されています。

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13つのコメントが “宵山万華鏡”にありました

  1. mik

    コメントありがとうございました。
    京都に住まわれたことがあるのですね。
    ちょっとやそっとのことでは理解できそうにもない街ですが、うらやましいです!
    『宵山万華鏡』は『きつねのはなし』をもう少し怖くした感じでした。
    私は『有頂天家族』のようなノリが好きなんですけど。

  2. ミーシカ

    「宵山万華鏡」未読なのですが、感想を拝見して私も「きつねのはなし」に似てる系列かな…と思いました。
    今、同作家の「走れメロス…」を読み始めたのですが、これは腐れ大学生!?の世界に近くいですね。
    面白い(^^)

  3. YO-SHI

    trueroseさん、コメントありがとうございました。

    本は好きです。まぁ見てのとおりです。
    trueroseさんのブログも時々拝見させていただきますので
    よければ、私のブログも覗いてみてください。

    —-

    mikさん、コメントありがとうございました。

    住んでいたのは学生時代の4年間だけなんですけれど、
    京都は奥の深い街だと思います。4年ぐらいではほんの
    うわべだけしか見ることができませんでした。

    私も「有頂天家族」の方が好きです。特に人に薦める
    としたら断然「有頂天家族」です。
    今後ともよろしくお願いします。

    —-

    ミーシカさん、コメントありがとうございます。

    「きつねのはなし」は未読なんですが、見聞きする知識では
    本書は「同じ系列」だろうと思います。いずれ「きつねのはなし」
    も読んでみようと思います。

    「走れメロス」は、腐れ大学生系(笑)ですね。でも、
    他の4編にはちがう系列のものありますよ。
     

  4. ほうび

    こんにちは。
    プリンセストヨトミで以前コメントを頂いた者です。
    それ以来こちらのブログに通わせていただいています。

    宵山万華鏡読まれたんですね!
    森見さんは好きな作家さんなので嬉しかったです♪
    なんだかやっと森見さんがやりたかった物が全て詰め込まれ、
    しかも成功した形で完成した本だなと感じました。
    (言い過ぎですかね?)

    私も「有頂天家族」が一番面白いと思います。
    有川さんの本もちらほら見れて嬉しいです。
    これからも本を読む参考にさせて頂きます

  5. YO-SHI

    ほうびさん、コメントありがとうございます。

    森見さんがやりたかったかどうかは、本人にしか分かりませんが、
    少なくとも私は、こういう物語を森見さんに書いてもらいたかったです。
    そして成功した形で完成してると思います。言い過ぎではなく。

    グダグダな大学生の話も悪くはないのですが、この本のような異世界の
    入り口をちょっと見せてくれる、しっかり構築された物語の方をもっと
    読みたいです。
     

  6. ほうび

    またコメント失礼致します。
    何だか返信を読んで、反省しました。
    森見さんがやりたかったかどうかは、本人にしか分かりませんが…というところで。

    私個人が今まで読んできた流れで、こういう構成でやりたかったのかな?と思っていただけなので。
    失礼致しました。

  7. YO-SHI

    ほうびさん、コメントありがとうございます。

    森見さんがやりたかったかどうか..は、何か考えがあって
    書いたものではなく、もちろんほうびさんのコメントを
    批判するつもりはありませんでした。
    こちらこそ、不用意なコメントをしてしまい、失礼しました。
     

  8. 板栗香

    こんばんは~体調不良でこちらに来るのが遅くなりました。(汗)

    ほんと京都は怪異が似合う街ですよね~他の土地ではこの不可思議で冷やっとする雰囲気は出せないだろうなぁと思います。
    この作品は乙女や四畳半や『きつねのはなし』のようなモリミーの過去作品の要素が織り込まれてあって、モテない冴えない男子大学生の話だけじゃなくて、こういうのも書けるんだよという新たな一面を見せてもらったというか、一皮むけたようなそんな気がしました。(^^)

    なぜかTBがエラーで送れません。(涙)また時間をおいて挑戦してみますね。(^^;ゞ

  9. YO-SHI

    板栗香さん、コメントありがとうございました。

    前にどこかでお話ししたことがあるかもしれませんが、
    私は学生のころ京都に住んでいて、ある夜に鴨川を見ていて
    「千年前にもこの川を誰かが見ていたんだろうなぁ」と
    思った時に、千年分の人の想いが川面に積もって見えた
    ような気がしました。

    腐れ大学生のしょーもない話だけじゃなくて、不可思議な
    奥深さを感じさせる物語もいいですね。これからは
    こっちを主にした2本建てでお願いしたいです。
     

  10. たかこの記憶領域

    宵山万華鏡 / 森見登美彦

    「きつねのはなし」系なので、いつもの阿呆っぽさはなし。でも、これはこれでかなりいける。
    最初は気にしてなかったけれど、読み終わったあとで装丁をみると、まさしく宵山で万華鏡。妖しく、不思議感いっぱいの美しい表紙。
    短編ながら、各話が微妙につながっている…….

  11. たかこ

    本当に京都というのは、不思議な街ですね。
    先日、「京都・魔界への招待」という本を書かれた方とお話する機会があり(未読なんですが…)、
    京都は魔界というか異界への入口なんだなぁ、と感じました。
    私は観光でしか行ったことがないのですが、実際に住んでみると感じるもの・見えてくるものがあるのかもしれないですね。
    大学時代を京都で過ごす、というのはとても良いことに思えます。

    さて、今回の偽宵山!すんばらしかったです(笑)

  12. YO-SHI

    京都の大学生の、それも特に男子大学生のていたらくは、
    モリミーが描く通りで、当時は良い経験をしているとは
    思いもしませんでした。(笑)

    でも、今はしみじみそう思います。千年の都での暮らしは
    得がたいもの囲まれた暮らしでした。

    偽宵山には、これまでの森見作品らしさがチラリとしましたね。
    私はどちらかと言うと、妖し系の話が好きになりました。

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