著 者:中島京子
出版社:講談社
出版日:2005年3月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
この著者の本を読むのは初めて。本好きのためのSNS「本カフェ」で友達になった方が「最近、気になってる」んだそうで、記念にと思って図書館の棚から1冊取って読んでみた。たった1冊しか読んでないのだけれど、この著者の本は私とは相性がいいらしい。するすると読めてそして楽しめた。
タイトルの「イトウ」とは、明治時代の通訳ガイド、伊藤亀吉のこと。彼が英国人の女性探検家の「I・B」のガイドとして、横浜から出発して函館に至りそこから北海道を旅する間を、後年になって本人が残した回想の形でたどる。
現代の交通の便利な旅でも遠くに2人で出かければ、良くも悪くも特別な情が湧く。まして明治時代の殆どが徒歩という3ヶ月の旅は険しく、頼れるものはお互いだけ。苦難を共に乗り越えるうちに湧いた情を、タイトルのように「恋」と呼ぶのが正しいのか、年上の女性に対する「憧憬」と呼ぶべきなのか分からない。しかし、二十歳の青年イトウの心に「I・B」に対する抗し難い情を刻んだ。
この回想をイトウは人に宛てた書簡の形で残した。このイトウの物語が、淡々とした記述が逆に情感を醸していて気持ちいい。そして、この書簡を読んでいるのは100年後のイトウの孫娘の娘。そこにもそこはかとない恋の予感?と母にまつわる物語が。現代と過去を結んで並行して物語が進むこの形式は、もう珍しくはないかもしれないが、なかなかの技巧だ。
本書はフィクションだけれど、イザベラ・バードという英国人の女性探検家が実在し、伊藤鶴吉という通訳の青年を同道して東京から北海道まで旅した史実があるそうだ。そのことは「日本奥地紀行 」(原題:Unbeaten Tracks in Japan)という本として出版されている。機会があれば読んでみたい。
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