最後の家族

書影

著 者:村上龍
出版社:幻冬舎
出版日:2001年10月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 家族のあり方について再確認した本だった。主人公は西所沢に住む内山家の4人家族。父親の秀吉は49才、機械部品の会社の営業次長。会社はリストラを断行中だ。母親の昭子は42才、専業主婦。若い大工の青年と密かに会っている。長男の秀樹は21才、引きこもって1年半。長女の知美は18才、高校3年生。28才の宝石デザイナーの男性に魅かれている。
 それぞれが危ういものを抱えていて、その内のどれかが支えきれなくなっても、家族がバラバラになってしまう。そんな予感をはらんだまま物語は進む。そして、向かいの家が絡んだトラブルが元で、引きこもりについて酷いことを言われ、秀樹が秀吉を階段で突き落としてしまう。

 この後、それぞれが抱えるものに少しずつ変化や進展があり、家族4人の位置関係も少しずつ変わっていく。各章が長くても1日の出来事を綴っており、その出来事が4人それぞれの視点から繰り返し語られる。この手法が効を奏して、家族4人の心の移ろいが手に取るように分かる。
 リストラ、引きこもり、不倫、そしてドメスティックバイオレンスと、気が滅入る要素が詰め込まれた物語なのだけれど、不思議なことに読んでいて暗い気持ちにならない(もちろん陽気にもならないけれど)。それは不完全な形でも、この4人が「家族」として機能していることが分かるからだ。そもそも「完全な家族」なんか存在しないのだし。

 その「家族」について。物語の後半に「信頼できる人」として、「全世界を敵に回しても、その人だけは味方だ、って人」というセリフがでてくる。「家族」とはそういうものだ、と言うのは簡単だが、そうではないと思う。そんなカチコチに固まった団結ではなくて、ある程度自立しながら容易くは切れない緩い糸で結びついている、そんなものなのだと思う。
 例えば、最近は反発ばかりして自分を階段で突き落とした秀樹からの電話にも、秀吉は「うれしくて胸が締めつけられるような感じ」になる。実はこの時、秀樹の方も「ものすごくうれしく」なっている。まぁ、確かにちょっと特別な状況ではあるのだけれど、ケガをさせたりさせられたりしたとしても、電話の声に「うれしい」と思えるのだ。たとえ形の上ではバラバラでも、こんな「家族」なら大丈夫だと思った。

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