個人情報「過」保護が日本を破壊する

書影

著 者:青柳武彦
出版社:ソフトバンク クリエイティブ
出版日:2006年10月30日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 高校生の娘が小論文模試の参考図書として買って来た本。最近は小論文にも模試があるらしい。まぁ受験対策が丁寧になっていると言えばありがたいことだけれど、模試にだってそれなりの準備が必要でそれには時間もかかる。高校生もなかなか大変だ。

 2003年に成立、猶予期間を経て2005年4月に前面施行された「個人情報保護法」と、その後に巻き起こった「過剰反応」を踏まえ、「このままでは日本の未来が暗澹たるものになる」という警告と、そうならないための対策を記した本。
 「個人情報保護法施行以来、仕事も私生活もどこか息苦しくギスギスしている。何かが狂っている。-そう感じているあなたの感性は正しい」と裏表紙の紹介文に書かれている。まぁ、ここまで明確な気持ちではなくても、私の経験では仕事や私生活でこの法律に触れる時には、必ずネガティブな意味合いで使われる。
 例えば、私が事務局をやっているCGのコンテストの応募作品と制作者名をウェブに載せたら「個人情報保護法違反です。すぐに削除しないと訴えます」と言われたり、子どものスポーツクラブの名簿を作ったら「全員の承諾を事前に得ていないとダメですよ」と指導されたり、地元のケーブルテレビが学校の音楽会を取材・撮影しようとしたら「個人情報保護法の関係で」と言って断られたり...。
 
 著者の主張をちょっと強引に1つにまとめると、現行法が「「プライバシー情報」以外の「個人情報」まで規制していることが問題」ということだ。「プライバシー情報」とは、健康状態などの医療情報や収入などの資産情報、性的私生活や思想信条など、人に知られたくない情報のこと。
 現行法は「プライバシー情報」とそれ以外の「個人情報」の区別がないから、名前と電話番号だけの連絡網さえ作れない事態を引き起こしている。もちろん「電話番号も知られたくない」という人もいるが、電話帳に載っている場合には、公知の事実として「プライバシー情報」にはならない。
 著者は法律の運用の問題も指摘している。個人情報保護法では、情報の「第三者への提供」を規制しているのに、現場の運用はもちろん、省庁が出すガイドラインでさえ行き過ぎがある。上に挙げた連絡網の作成について言えば、クラスとかサークルとかクラブとかのグループ内の情報共有なのだから、そもそも「第三者への提供」ではないはずなのだ。

 ひとつ怖い話もあった。現行法は「プライバシー情報」とそれ以外の「個人情報」の区別がない。別の見方をすると、「プライバシー情報」も「電話帳に載っている電話番号」と同程度の保護しかしていないとも言える。実は日本には現在「プライバシー権」を守るための明確な根拠法がない。仮に「個人情報保護法」を根拠法にでもしようものなら、私たちのプライバシーはダダ漏れになってしまう。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

6つのコメントが “個人情報「過」保護が日本を破壊する”にありました

  1. れもん

    おはようございます^^

    相方は地方公共団体に勤めていますが、先日、とある企業に「他の公共団体との契約状況を教えていただけますか」と相方が訪ねたところ、「個人情報保護の関係で答えられません」と回答されたそうです。
    地方公共団体との契約状況が個人情報ですか?と笑ってしまいました。
    なんでもかんでも、情報保護と言えばOKみたいな風潮があるようです。

    笑い話ですめばいいけれど、笑えない話にも繋がりますね。

  2. YO-SHI

    れもんさん、コメントありがとうございます。

    企業と地方公共団体との契約が個人情報、ですか。
    これはまた変なことを言われましたねぇ。

    笑えない話もいっぱいあります。
    自治体によっては、独居老人や、災害時に支援が必要な人の情報を、自治会や
    民生委員に「個人情報保護法」のために渡さないところがあるそうです。

    ここのところ100歳以上のお年寄りがいるはずの場所に実はいない、
    っていうニュースが報道されていますね。
    一人暮らしのお年寄の情報は、明らかに保護すべきプライバシー情報ですが、
    その情報が共有できないと、地域で支えることはできない。緊急時には
    命に係わる。そういったことも考えないといけないですね。
     

  3. 青柳武彦

    拙著をお読みくださり有難うございました。この本は、評判が良かった割には全く売れませんでした。しかし、大学入試の材料に使われたり、貴ブログで取り上げていただいたりして、今でも注目を集めているのは嬉しい限りです。

    小生は、プライバシーに属さない個人情報は、一種の公共財としてどんどん積極的に活用し、そのかわりにプライバシー情報はしっかりと護るべきであると考えています。今後ともよろしくお願いいたします。   青柳武彦

  4. YO-SHI

    青柳武彦さま、コメントありがとうございます。

    著者からコメントをいただけるとは、こんなに名誉なことはありません。
    適当に思い付いたことを書き散らしているだけですので、うれしさと
    恥ずかしさと申し訳なさが交錯した気持ちです。

    この本が「全く売れなかった」のは残念です。仕事の関係で、このテーマの
    本はそれなりの数を読みましたが、問題点を明確に指摘した本書のような
    本は他にはありませんでした。

    何冊とは言えませんが、娘の学校ではまとまった数が売れているはずです。
    あまり足しにはならないかもしれませんが..。
     

  5. 青柳武彦

    > 何冊とは言えませんが、娘の学校ではまとまった数が売れているはずです。
    あまり足しにはならないかもしれませんが..。

    大変嬉しいお話を有難うございました。インターネットに載った書評を集めたものがあります。娘さんの小論文書きの参考になると思いますので、よろしければメールをくだされば返信の添付書類でお送りします。また、何か質問があればメールをくださるように娘さんにお伝えください。    青柳武彦

  6. YO-SHI

    青柳武彦さま、コメントありがとうございます。

    お返事が遅くなり、申し訳ございませんでした。
    娘に青柳さまのお言葉を伝えました。まずは、自分の考えをまとめる
    ことが先で、今はまだ、ネット書評を読むところまで手が回らないようです。

    質問があれば、お言葉に甘えてご連絡させていただきます。
    このたびは、お気遣いいただいき、ありがとうございました。
     

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です