戸村飯店青春100連発

書影

著 者:瀬尾まいこ
出版社:理論社
出版日:2008年3月 初版 2008年5月 第2刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者のことは、アンソロジー作品の「Re-born はじまりの一歩」を読んで知った。これに収録されていた「ゴーストライター」という作品が本書の第1章となっている。

 この本は、ホントに面白かったし楽しめた。おまけに少し泣ける。「ゴーストライター」を読んだときには、「Re-born」は再生や再出発の意味だと考えて、高校生の主人公コウスケの淡い失恋と、兄との関係の再認識を描いたものだと思っていた。しかし著者は、続く5章を書き下ろして、もっと味わい深くしかも笑わせてくれる物語に仕上げてくれた。
 コウスケが主人公だと思っていたら、なんと第2章の主人公は兄のヘイスケだった。無責任で要領ばかり良くて、大阪の下町の中華料理店「戸村飯店」を営む家を飛び出して、東京へ行ってしまった兄だ。コウスケを引きたてる脇役じゃなかったのか?あんなヤツにどんな物語があるというのか?...ありました。こんないい物語が。

 舞台となる街は特定されていないけれど、通天閣をシンボルとした大阪の下町らしい。私は神戸の生まれで、同じ関西でもだいぶ雰囲気は違う。でも、ベースは同じなのだ。吉本新喜劇を見て育ち、子どもはそれをまねて大人を喜ばせる。近所のおばちゃんに高校生になっても「ちゃん付け」で呼ばれる。タイガースファンであることが普通で、話には必ずオチがある。この本に描かれた世界は、私が育った街と同じだった。
 それから、兄と弟という世界も。うちも2人兄弟で私は弟。兄はまじめで責任感がある人で、私の方がきままに好きなことをしてきたので、これまた一見すると戸村兄弟とは違う。でも「あぁ、兄弟ってこうなんだよなぁ」と思った。弟が勝手に一人で反発しているだけなのだ。それなのにココという時には頼ってしまう。大人になって振り返るまで、そんなことには気が付かないんだけれど。

 こういう出会いがあるのが、アンソロジーの良いところだ。

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