著 者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 訳:原島文世
出版社:東京創元社
出版日:2010年12月20日 初版
評 価:☆☆☆(説明)
英国で2010年1月に発表された、著者の最新作。著者の作品は、捻りの効いた展開と辛口のユーモアが持ち味なのだけれど、この作品に限っては、それはちょっと控えで、表紙裏のコピーに「にぎやかではちゃめちゃな魔法譚」とある通り、楽しい物語に仕上がっている。
舞台は英国の田舎町のメルストーン。主人公はアンドルー。30代の大学の先生。魔術師の祖父から立派な館と財産を相続した。しかし、祖父が死の間際に手渡そうとした紙を受け取りそこなった。そこには、アンドルーが遺産と共に引き継ぐことになった「守護域」というもののことが書かれているらしいのだが..。
登場人物が個性豊かだ。巨大な野菜を作ることだけに熱心な庭師、いつも不機嫌な家政婦、美人でスタイルもいい秘書、宇宙人?に追い回されてロンドンから逃げてきた少年、その他にもクセのある街の人々がたくさん。そもそも彼らは人間なのか?著者の作品のもう一つの特長の、登場人物には全く別の「真の姿」がある、というトリックは本書でも全開。
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冒頭に書いた通り、本書は著者の最新作。そして最後から2つ目の作品です。著者は今年の3月26日に亡くなりました。76才でした。「最後から2つ目の作品」としたのは、著者のオフィシャルサイトで、今年の夏の新作の出版予定が明らかにされていたからです。
以前から体の不調は伝えられていました。邦訳された作品では本書の1つ前の「銀のらせんをたどれば」のレビューで、私は「70代半ばのお年の著者の健康を祈らずにはいられない。美しい「話綱(物語)」を、まだまだ生み出してもらうために。」と書いています。
著者の訃報は、本書が著者の最新作であることを確かめるために、オフィシャルサイトを訪れて知りました。私は、5月に「魔空の森 ヘックスウッド」のレビューを、著者が亡くなったことも知らずに書いています。訃報を知った時、そのことが何故だか、申し訳なくて、悔しくて...。
私はこれまで30弱もの著者の作品を読んできました。しかし、幸いなことに著者は40年間も作品を発表し続けてくださったので、まだ読んでいない作品がいくつか残っています。そして新作まで残してくださったそうです。それを大事に読んでいきたいと思います。
著者のご冥福をお祈り申し上げます。そして数多くの作品を残してくださったことに、感謝を捧げます。
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大きな英国のお屋敷に不思議な現象が起こる…ジェントル・ゴースト・ストーリーの一種でしょうか?現代のスプラッター・ホラーはあまり怖く感じられない私には、綿密に構成されている、人の微妙な心理を追ったホラーがしっくりきます。(この作品はファンタジーですね・汗)。この小説の作家さんのような方が亡くなってしまうのは、寂しいことですね。でも作品が残るのは読者にとって有難いことだと思います。
敦さん、コメントありがとうございます。
ジェントル・ゴースト・ストーリー、とはちょっと違うようです。
不思議現象は起きるし、人ならぬ者たちも登場するのですが、
この本に出てくるのはみんな、生身の人間っぽいのです。
というか、この著者にかかれば、神様も妖精もエルフも、
悪魔やドラゴンまでが、妙に人間っぽいんですよね。
嫉妬したり、意地悪だったり、欲深かったり。