機関車先生

書影

著 者:伊集院静
出版社:講談社
出版日:1994年6月28日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の4月の指定図書。

 物語の時代は「敗戦後十数年」とあるから昭和30年代半ばだろう、舞台は瀬戸内海の西端にある「葉名島」という小島。主人公は吉岡誠吾、30歳。誠吾は、葉名島に1つしかない全生徒7人の小学校に、代用教員として赴任してきた。生徒たちが付けたあだ名が、本のタイトルの「機関車先生」

 誠吾は、子どものころの病気が原因で話すことができない。「口をきかん」の「キカン」と、大きな身体で力持ちなところからの連想で「機関車先生」。話すことができないで、どうやって子どもたちに勉強を教えるのか?という疑問は、すぐに払しょくされる。一部の大人は少し頑なだったが、子どもたちは誠吾をすぐに受け入れた。いや、実のところ誠吾は素晴らしい先生だった。

 物語は、誠吾と子どもたちや島の人々との触れ合いを中心にして進む。誠吾にも背負った葛藤がある。子どもたち一人ひとりにも、島の大人たちにも様々な事情があり、それらをひとつずつ丁寧に描く。未だ戦争の傷が癒えていない島の暮らし。男たちのほとんどは漁師で、海と対峙した厳しい暮らしをしている。海は生活の糧を与えてくれるが、すべてを奪ってしまうこともある。

 主人公のセリフが極端に少ない。誠吾が話すことができないから、話言葉としてのセリフは1つもない。「○○と思った」というようなト書きもほとんどない。大きくうなずいた、目を丸くした、首を横に振った。書かれたしぐさで気持ちがセリフ以上に伝わる。これはすごい。

 厳しくも心温まる物語だった。春から夏にかけての物語だったこともあり、瀬戸内の明るい陽射しが感じられた。

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