日本でいちばん大切にしたい会社

著 者:坂本光司
出版社:あさ出版
出版日:2008年4月1日 第1刷発行 2011年4月5日 第62刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 電子書籍の総合ストア「PuBooks」さまから、電子書籍で献本いただきました。感謝。

 著者は、法政大学の先生で中小企業経営論や地域経済論を専門としている。フィールドワークを重視する研究者のようで、これまでに優に6000社を超える企業を訪問している。本書は、その6000余社の中から、著者が「日本でいちばん大切にしたい」と思う、日本理化学工業、伊那食品工業、中村ブレイス、柳月、杉山フルーツの5社と、その他に参考となる9社を紹介した本。

 紹介されている企業は、いずれもこの不景気にあって増収や増益を続けている。そういった企業には「成功の秘訣」があって、それを経営者に取材して「企業経営成功のポイント」的にまとめた本や雑誌の記事は数多くある。(私もその手の仕事に携わっていたことがある)。しかし本書は、それらとは一線を画する。「大切にしたい」という気持ちは「成功」だけに向けられるものではないからだ。

 著者が「大切にしたい」と思う企業とはどんな会社なのか?それは読み始めてすぐの「会社経営とは「五人に対する使命と責任」を果たすための活動」という節を読むと分かる。「五人」とは、「社員とその家族」「外注先(下請企業)」「顧客」「地域社会」「株主、出資者」のこと。優先順位もこの順。こういう経営をして成功している会社を「大切にしたい」と言っているのだ。

 著者が考えるあるべき会社経営は、「お客様第一」という日本の伝統的経営感とも、「企業は株主のもの」という欧米の価値観とも違う。だから新鮮であると同時に違和感を感じる人もいるだろう。私のように経営を少し聞きかじった者は特にそうだ。しかし本書を読めば「なるほどその通りだ」と思う。

 日本を代表する大企業の幾つかは、下請けを締め付け、派遣切りを行い、しわ寄せを社員が被る、という犠牲の上で業績を回復させている。それに比べて本書に紹介されている企業は、社員に愛され、外注先や顧客に感謝され、地域の人々が誇りに思っている。どちらが本当の成功で、どちらを大切にしたいかは明白だ。

 最後に。成功事例を読むと「そんなにうまく行きっこないよ」という思いが顔を出すことがある。うまく行かなかった経験があれば、なおさらそう思ってしまう。でも、その思いは乗り越えないと、得られるものも得られなくなってしまう。

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