それをお金で買いますか 市場主義の限界

書影

著 者:マイケル・サンデル 訳:鬼澤忍
出版社:早川書房
出版日:2012年5月15日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「これからの「正義」の話をしよう」のサンデル先生の近著。一時期のような熱狂は感じられなくなったが、まだまだ著者の人気は高い。今回は、私たちの暮らしの様々な場面に入り込む「市場勝利主義」への警鐘を鳴らす。「謝辞」によると、著者が長年温めてきたテーマだそうだ。

 どうやらアメリカでは、様々なものが売り買いの対象になっているらしい。例えば、ユナイテッド航空は39ドルで手荷物検査所の列の先頭に、ユニバーサルスタジオは149ドルで行列の先頭に、それぞれ割り込める権利を売っているそうだ。
 このぐらいはまぁ「商売上手」と言って済ませることができるかもしれない。では、1500ドル~2万5000ドルの年会費を払えば、当日に待たずに診察が受けられる(医師の携帯への24時間アクセスも保証する)病院はどうか?こちらには、より強い抵抗感を感じるのではないだろうか。

 これは「みんな列に並んで待つ」という「行列の倫理」が、「お金を払った人は優遇される」という「市場の倫理」に取って代わられた例だ。経済学者にはこのことに問題をあまり感じない人がいる。なぜなら、市場に委ねれば、もっとも効率よくかつ公正に分配を行い最大の効用を生み出す、と考えるからだ。著者はこうした考えを「市場勝利主義」と呼んでいる。

 実はこの「行列への割り込み」は、著者が取り上げる「市場勝利主義」の暮らしへの浸透の軽微な例で入口に過ぎない。授業への出席を生徒から買う中学校、絶滅の危機にある動物を打ち殺す権利の販売、余命わずかの他人の生命保険を格安で買い取って保険金で利ザヤを稼ぐ投資家。いわば「道徳」の範疇の問題意識から、これは売り買いしてはいけないでしょう、と直感で感じる例がたくさんある。
 ただし「直感」でダメだと感じることも、なぜダメなのかを改めて考える必要もある。「市場勝利主義」の論理はそれなりに魅力的かつ強固で、「ダメに決まってるでしょう」では押し返せない。残念ながら、もう既にそういう世の中になってしまっているのだ。

 前著「これからの「正義」の話をしよう」と同様に、著者なりの「正解」はあるのだろうが、それを言わずに議論を呼びかける。「市場勝利主義」の侵攻を押し留めるために、みんなでよく議論しよう、それは、私たちはどんな社会に生きたいか?を考えることでもある、と言う。

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それをお金で買いますか 市場主義の限界”についてのコメント(1)

  1. 施設長の学び!

    『それをお金で買いますか』

     世の中には、お金で買えないものがあります。
     私を含め多くの人びとは、そう教えられており、そう信じてきました。
     ところが近年、さまざまなものがお金で買えるようにな ……

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