青空のルーレット

書影

著 者:辻内智貴
出版社:筑摩書房
出版日:2001年5月20日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の読書会の6月の指定図書。

 表題作「青空のルーレット」と、2000年の太宰治賞受賞作「多輝子ちゃん」の2編を収録。著者はデザインの専門学校を出て、しばらくソロシンガーとしてレコード会社に在籍、バンド活動を経て作家デビュー、という経歴の持ち主だ。

 私としては「青空のルーレット」の方が楽しめた。主人公はタツオ。ビルの窓拭きが彼の仕事。仲間たちと来る日も来る日も、ビルの外側をロープでぶら下がって窓を拭く。この物語は、彼ら「窓拭き」たちの汗臭くも爽やかな群像劇だ。

 窓拭きたちは、他にやりたいことがある。音楽、芝居、デザイン、写真、マンガ...。いつかそれで喰えるようになることを夢見ている。夢ではお腹に溜まらないし、家賃だって払わなければいけないから、窓を拭いている。極めてシンプルな職業観、人生観を持っているのだ。

 彼らの職業観、人生観と同じぐらい、この物語はシンプルにできている。イヤな奴はとことんイヤな奴だし、タツオの仲間たちはイイ奴らだ。「世間から見れば、少し外れているように見えるかもしれないけれど、俺たちは大事なモノは失ってないゼ」という、メッセージもシンプル。だから伝わりやすい。ラストで読者は、ためらいなく喝采を送れる。

 「あとがき」によると、著者には「窓拭き」の経験があるようだ。もしかしたらタツオには著者自身が投影されているのかもしれない。同じように「多輝子ちゃん」にも、ミュージシャンとしての著者の経験が織り込まれているようだ。その思い入れの強さをヒシヒシと感じる。もっとも強すぎて多少くどく感じたのが残念だ。

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