はなとゆめ

書影

著 者:冲方丁
出版社:角川書店
出版日:2013年11月6日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 少女マンガ雑誌ではない。「天地明察」「光圀伝」と、江戸時代初期の男性を主人公とした物語を鮮やかに描いた著者の最新作。その主人公は、平安時代でおそらく一番か二番に有名な女性だ。

 主人公の名は清少納言。一条帝の中宮定子に仕える女房で「枕草子」の著者。全編を通して彼女の昔語りで構成される物語は、宮中に出仕する前から始まる。そのころは彼女はまだ「清少納言」ではなく、「歌人の清原元輔の娘」だった。

 本書は「清少納言」誕生の物語であり、「枕草子」誕生の前日譚でもある。父のような歌才もなく、秀でた美貌の持ち主でもない、自分に自信を持てない28歳バツイチの女性が、如何にしてその才能を花開かせ、どのような時代を生きたか?が描かれている。

 一人称の体裁は、随筆文学の祖とも言われる「枕草子」の著者だから、自分語りをさせたら面白そうだ、という狙いだろう。それは半ば功を奏していて、古典の現代語訳の雰囲気まで感じられて面白かった。しかしそれは難点でもあった。「古典の現代語訳を長く読むのはなかなかつらいでしょう?」と言えば共感してもらえるだろうか。

 それでも、読み終わってみればしみじみと良い本だっと思う。著者は「人」に興味があるのだろう。清少納言は「枕草子」の著者として、知らぬ人はいないぐらいに有名でも、その人自身のことは知られていない。本の著者とはそういうものかもしれない。でも、作品の「向こう側」のドラマが、作品に負けずに面白いこともある。

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2つのコメントが “はなとゆめ”にありました

  1. 西入

    厳しい状況におかれたときにも雅な日常(華)を失わない中宮たち。華は力に対抗しうるしなやかな強さかもしれない。自分もできる限り、華やぐ気持ちを持ち続けるようにしたいと思いました。

  2. YO-SHI

    西入さん、コメントありがとうございます。

    「華は力に対抗しうるしなやかな強さ」とは、この作品の芯を
    よく捉えているように思います。中宮定子には、確かにそのような
    強さを感じますね。

    また、力を持つ男性たちにも、この時代には華はあったようですね。
    この作品では敵役に徹している道長にさえ、それが感じられました。

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