センセイの鞄

書影

著 者:川上弘美
出版社:文藝春秋
出版日:2004年9月10日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)

 本好きのためのSNS「本カフェ」の4月の指定図書。2001年の谷崎潤一郎賞受賞作品。

 主人公の大町ツキコ(月子)は物語の初めには37才。ツキコが「センセイ」と呼んで慕うのは、ツキコの高校時代の国語の先生、ツキコとは30と少し歳が離れている。今、うっかりと「慕う」と書いてしまったが、最初は一杯飲み屋で時々席を隣り合わせる、歳が離れて多少不釣り合いな「飲み友達」だった。

 ツキコとセンセイの物語は、15ページ前後の短めのエピソード17編を積み重ねて綴られる。2人は頻繁に会うわけでもない。長く会わないままでいることもある。それでも飲み屋で会うだけでなく、センセイの家に呼ばれたり、八の日に立つ市に連れ立って出かけたり、きのこ狩りに出かけたり..二人の仲は進展していく。

 独身の女と、妻を亡くした男。とは言え、30以上も年が離れた上に、20年前とは言ってもかつての先生と教え子。途中でツキコの同級生の男性も登場して、ツキコとセンセイの仲の行く末は、ようとしてつかめない。しかし、ひとつのエピソードが終わるたびに、カチリと音がして歯車が回った感じがする。

 抑えめの文章で淡々と語られるが、気が付くと妙なところへ紛れ込んでいて「これは現実なのか?」と訝しむことが何度かある。2人してどこか分からない世界に紛れ込んでしまったエピソードもある。梨木香歩さんの作品に似た雰囲気が醸される。

 40前の独身女性と、妻を亡くした70代の男。その行く末は、私がおぼろに思い描いたストーリーとは違っていた。しかし、谷崎潤一郎賞受賞作品だと知れば、確かにこうでなくてはと思った。

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