著 者:たつみや章
出版社:講談社
出版日:1992年7月23日 第1刷発行 2000年5月12日 第11刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
これまでに読んだ「月神の統べる森で」から始まる4部作+外伝は「月神」シリーズと呼ばれ、児童文学ながら日本の古代を描き切った迫力のある物語だった。本書はそれに先立って刊行された「神さま三部作」と呼ばれるシリーズの第1弾。
主人公は中学1年生のマモル。祖母と二人で暮らしている。マモルの家は先祖代々裏山の稲荷神社の巫女を務める。マモルの母はマモルが小学校の2年生の時に亡くなり、父はマグロ船の船長で年に1度ぐらいしか帰ってこない。
そのマモルの家に、腰まで届く長髪に着流しという姿の若い下宿人が来た。守山という名のその青年は、実はお稲荷さんの使いギツネ。裏山にある古墳がレジャーランド開発によって破壊されようとしているのを阻止するために、人の姿となってやってきたのだ。
児童文学だから、子どもたちにも分かるように平易な文章で書かれている。だからと言って、大人が読んで物足りないということはない。「自然は大事だから守りましょう」と、「正しいこと」を一生懸命訴えれば願いが聞き届けられる、なんて薄っぺらい話にはなっていない。
物語全体を通して受け取るものとは別に、「あぁそうだよな」と心に残るものがあった。一つはそれは「否念」という負の力。疑いや否定の感情や言葉は、氷のナイフのように何かを少し、でも決定的に傷つける。
もう一つは登場人物の人類を表したこんなセリフ「力をもったはいいが、正しい使い方もしらないのにいい気になって使ってしまって、あと始末ができなくておろおろしてる」
さらにもう一つ。「人間が滅びたとして-たとえばそれが、核戦争みたいな自然も道づれにするようなものても、この草のように、自然はよみがえるんじゃないかな。(中略)しかし、自然が滅びたら、人間はいっしょに滅びるしかない」。「地球を守ろう!」に異論はない。しかし「守ってあげる」なんて思っているとしたら、それは実はとても不遜な考えなのだと気付いた。
20年前に書かれたこのシリーズを、私たちはもう一度読み返した方がいいのではないか?そんな気がした。実は「神さま三部作」の第2弾「夜の神話」のテーマは「原発事故」なのだ。
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