著 者:堤未果
出版社:集英社
出版日:2014年11月19日 第1刷 12月31日 第4刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
著者は「ルポ貧困大国アメリカ」で2008年の日本エッセイストクラブ賞、2009年の新書大賞を受賞。その後も米国の社会の歪みをレポートする著書を発表し、本書はその中の1冊。
本書のテーマは「オバマケア」。米国のオバマ大統領が公約として掲げて、強力に推し進めた医療保険制度改革のこと。米国民全員が医療保険に加入する「国民皆保険制度」を目指したものだ。
これを実現する法律が2014年に施行された。つまりオバマ大統領は公約を果たした。これによって無保険のために医者にかかれず、重篤になってからERに駆け込んだがすでに手遅れ、という悲劇はなくなる。オバマ大統領の大きな功績となった...はずだった。
制度設計の失敗なのか意図的なものなのか分からないが、「オバマケア」には大きな問題がいくつもあった。私が感じる第一の問題、違和感と言い換えた方がいいかもしれないが、それは、米国民が得たのは、医療保険に加入する「権利」ではなくて「義務」だということ。日本の「国民皆保険」とは考え方が逆転している。
米国民は、法律で定められた条件を満たした保険に加入する義務を負った。自分には必要ない項目が入っていて、それまで加入していた保険より保険料が高くて、家計を圧迫するとしてもだ。
さらに「オバマケア」はもっと深刻な問題を抱えている。詳細は本書を読んでいただきたいが、その大元にあるのは、医療が「ビジネス」になっていることだ。だから経済性や効率が最優先される。人の健康や命さえも、採算に合わなければ切り捨てられる。
私たちにとってさらに恐ろしいことに、この米国流の「医療ビジネス」は、すでに日本に上陸しているという。そのことを記した最終章は背筋が凍る想いがした。「無知は弱さになる」ニューヨークのハーレム地区の医師の言葉だ。私たちは自分たちの医療保険制度について、もっと知らなくてはならない。
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