著 者:又吉直樹
出版社:文藝春秋
出版日:2015年3月15日 第1刷 3月20日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
お笑い芸人の又吉直樹さんの小説としてのデビュー作。初版15万部という異例の扱いの前評判の高さに違わず、発売から1月足らずで4刷、35万部のベストセラーになっている。
ここまでなら、有名人のデビュー作で、マスコミの露出の多さもあって、一種のお祭り状態かもしれない。しかし、4月22日には三島由紀夫賞の候補作になった。これはホンモノか?これもお祭りか?
主人公は徳永。物語の始まりの時は20歳。職業は、売れない漫才師。熱海の花火大会の営業で先輩芸人の神谷と出会い、そこで神谷の「弟子」になった。本書は、徳永と神谷の約10年間の物語。
「師匠と弟子」とは言っても、神谷も「売れない芸人」だ。ただ、笑いに関して独特のポリシーがあるらしい(ホントはそんなものないのかもしれない)。「(漫才は)本物の阿呆と自分は真っ当であると信じている阿呆によってのみ実現できる」とか言ったりする(やっぱりポリシーなんてないのかもしれない)。
三島由紀夫賞に値するのか?ということは私には分からない。でも、偉そうな物言いを許してもらえば、この作品には才能を感じた。特に大きな事件が起きるわけでもなく、仕掛けがあるわけでもない。それに主要な登場人物が「売れない芸人」なので、会話もギャグも「しょーもない」。それでも最後まで集中が途切れることはなかったのだから、筆の運び方が上手いんだと思う。
筆の運び方と言えば特徴的な言い回しが目立った。「渋谷駅前は幾つかの巨大スクリーンから流れる音が激突しては混合し、(中略)一人一人が引き連れている音もまた巨大なため、街全体が叫んでいるように..」とか、「人々は年末と同じ肉体のまま新年の表情で歩いていて..」とか。
こうした過剰に思える修飾は、読書家でも知られる著者が「純文学」をイメージした「遊び」なんだろうと思う。こうした言い回しが煩わしいようで、Amazonレビューをはじめとして、ネットには酷評が散見されるけれど、私はこの作品で充分に楽しめた。
最後に。私が関西の生まれで、「しょーもない」会話を浴びて育ったので、「しょーもない」のがキライではないことも、この作品の評価に関係しているかもしれない。
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