著 者:池井戸潤
出版社:文藝春秋
出版日:2013年6月10日 第1刷 20015年6月1日 第20刷
評 価:☆☆☆☆(説明)
著者は「下町ロケット」で直木賞を受賞。その他に「ルーズヴェルト・ゲーム」「七つの会議」、そして大きな話題になったテレビドラマ「半沢直樹」の原作シリーズと、「経済小説」のジャンルでヒットを飛ばし続けている。本書もテレビドラマ化され、テレビ朝日系列で7月から放映される。
主人公は武藤泰山と、その息子の翔の2人。泰山は「民政党」に所属する政治家で、何と我が国の内閣総理大臣。翔は六本木のクラブに入り浸る大学生。つまり絵に描いたようなダメ息子だ。
この泰山と翔が、何のはずみか入れ替わってしまう。泰山の身体に翔の意識が、翔の身体には泰山の意識が宿る。何だか強烈な既視感を感じる設定。「転校生」?「パパとムスメの7日間」というのもあった。
設定は使い回されたものではあるけれど、描かれた物語はなかなか奥が深くて考えさせられ、かつ楽しめるものだった。翔は総理大臣として国会で野党の追及に対処し、泰山は就職活動の面接を受けるはめになる。「漢字が読めない総理大臣」なんていうネタを挟みながら、コミカルに物語は展開する。
「演じる」が本書のテーマだと思った。泰山は与党の政治家を演じ、翔は就活中の学生を演じる(ダメ息子だと思っていたら、真面目に就職活動をしていたのだ)ことを求められている。例えば翔は、本音とは別に「御社を第一志望に..」と話さないといけない。
入れ替わりによって、就活中の学生を演じている翔を、その父親である泰山が演じる、というヤヤこしい二重構造になる。そうすると不思議なことに(無責任とも言えるが)、本当に言いたいことが言えてしまう。ソリの合わない父子なのにすごく似ていて、泰山の「空気を読まない発言」はたぶん翔の本音で、その逆もまた然り。
著者としては異色の作品だと思う。ここまでコミカルなものも、「入れ替わり」のようなちょっと現実離れした設定も、著者の作品では初めてだからだ。でも、これまでの作品と同じかそれ以上に、とても面白かった。
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