山桜記

書影

著 者:葉室麒
出版社:文藝春秋
出版日:2014年1月30日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 戦国時代から江戸時代初期にかけての「女の戦」を描いた短編が7編。来年の大河ドラマ「おんな城主 直虎」の主人公、井伊直虎を描いた「剣と紅」もそうだったけれど、戦場に出ない「武士の妻」たちも戦っていたのだ。

 それぞれの短編を簡単に。「汐の恋文」は佐賀の竜造寺家の家臣、瀬川采女の妻、菊子が主人公。ある想いを持って太閤秀吉と対峙する。「氷雨降る」は島原半島の大名、有馬晴信の妻、キリシタンの洗礼名ジェスタが主人公。同じ信仰を持つ夫に不信を抱く。

 「花の陰」は細川忠隆の妻、千代が主人公。関ヶ原の戦に先立って、姑のガラシャが壮絶な死を遂げる一方で、千代は脱出して難を逃れた。「ぎんぎんじょ」は佐賀の鍋島直茂の妻、彦鶴が主人公。気性の激しい姑との心の通い合いを描く。

くのないように」は加藤清正の娘で、家康の十男の頼宜の妻、八十姫が主人公。父と因縁のある徳川家に嫁し自らの信念に生きる。「牡丹咲くころ」は伊達政宗の孫で、柳川藩主の立花忠茂の妻、鍋姫が主人公。伊達家のお家騒動に気をもむ。

 「天草の賦」だけは主人公が男性で、福岡藩主の黒田忠之。黒田官兵衛の孫、長政の嫡男。その陣中に浦姫という女性が現れる。

 どの物語にも、背景には戦や政争がある。男たちの愚かな争いごとに巻き込まれ、女たちはその運命を翻弄される。しかし主人公の女性たちは強い。芯が強い。ある時は生家の一員として、ある時は婚家の要として、妻として、女性として。

様々な夫婦関係があり、様々な行き違いが起きるけれど、そこに慈しみと信頼があって、とても好感を感じた。

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2つのコメントが “山桜記”にありました

  1. REI

    そうですね。芯の強い女性たち。慈しみと信頼。
    しみじみとした読後感の、素敵な短編集ですね。

    今まで高田郁の「みをつくしシリーズ」のような
    「江戸の庶民」が主人公の小説は読んでいましたが、
    この本のように「歴史上有名な人たち」が中心となる小説は
    何となく敬遠して、ほとんど読んでいませんでした。

    このような小説も悪くないものですね。
    ありがとうございました(*_*)

  2. YO-SHI

    REIさん、コメントありがとうございます。
    お返事が遅くなりました。

    「みをつくし」のような市井の物語もいいですね。
    庶民の生活は現代にも通じるところもあるので、共感もしやすいし。

    この本も天下人や英雄を主人公としていないところが、比較的新しい
    時代小説のジャンルかと思います。

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