著 者:さだまさし
出版社:新潮社
出版日:2015年4月1日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
本書は、歌手のさだまさしさんが「小説新潮」に6回にわたって連載した作品に、「まえがき」と「あとがき」を付けて単行本化したものの文庫版。主人公が同じ6つの短編を収めた連作短編集。さださんのファンの友人がプレゼントしてくれた。
主人公は「まっさん」とか「雅やン」と呼ばれているノンフィクション系の作家。皆からは「先生」と呼ばれ、「一流どころの旅館に泊まることを世間に許して貰ってから二十数年」というから、その世界の大御所といったところか。
その主人公が、京都、能登、信州、津軽、四国、長崎、へと旅をして、その先々で遭遇した不可思議な出来事をつづる奇譚集。作家である主人公がつづった体裁の物語を、その主人公と同じく「まっさん」と呼ばれる、さだまさしさんが描く。二重構造の創作になっていて幻惑される。ところがこれが妙に「事実」っぽい。
6編のどれもいいのだけれど3つだけ。
「夜神、または阿神吽神」は、能登の西海岸の小さな漁村が舞台。数百年も続く村の神事で、海から流れ着く漂着物を「神」として畏れ敬う。その神事に、一人の50代の男性の人生が絡む。神様は色々な姿で私たちの前に現れるのだなぁ、としみじみ思った。
「同行三人」は、四国八十八カ所巡礼が舞台。主人公は行者姿の老人に「そこ、動いたらあかん」と、叱りつけるような声をかけられる。そこは、神様たちが住まう世界との境界がある場所、そういう物語。私は行ったことはないのだけれど、四国の山は懐が深そうだと思っていた。その思いにピタリとはまった。
信州の「鬼の宿」は、安曇野が舞台。こちらは「神代の昔」に起源があるという、節分の豆まき「追儺式」の夜の出来事。豆まきで追われた鬼が泊まりに来るという家の話。都会の街中では感じない「気配」を、田舎では感じることがある。時には触れられそうに濃厚な気配を。
「いやはや、お見それしました」。これは大森望さんによる「解説」の冒頭の言葉だけれど、私もそう思った。冒頭に「歌手のさだまさしさん」と書いたけれど、そういう紹介の仕方でいいのかしらん?と思うほど、小説としてよくできた作品だった。いや、そんなエラそうな言い方はいけない。「楽しませていただいました」と言い直しておく。
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