「つくる生活」がおもしろい

書影

著 者:牧野篤
出版社:さくら舎
出版日:2017年1月15日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 サブタイトルは「小さなことから始める地域おこし、まちづくり」

 著者は今の社会を「不機嫌な社会」という。駅とか電車の車内とかの人の集まる場所の多くで、暴言や暴力や言い争いが絶えない。このイライラの原因の一つが「これまで社会の主流であった人々、とくに中年サラリーマン」の自信喪失、プライドの損傷にあるとする。

 競争しても努力しても上に上がれない。それでも比較優位を得ようとすると、誰かをつぶす(落とす)しかない。..あぁ何とも暗い気持ちになる。

 ただし本書の主題は、こうした何とも暗い話ではない。この状況の一方で「新しい動き」があって、そこでは人々は上機嫌だということだ。その主役は「これまで非主流であった、子ども、女性、高齢者、障害者」だという。そうした人たちが、何かを消費するのではなく、何かを作り出し作り出すことそのものを楽しんでいる、という。

 「やっぱりそうだよね」と思った。私は、品物やサービスを消費するのは楽しいけれど、自分で何かを作る方がさらに楽しい、と思っている。仕事で子どもたちに関わることが多く、その時に「作る側の人になる」という話をすることもある。その方が将来を考える時に役立つと思う気持ちもある。

 本書に話を戻す。紹介される事例は、住民が自分たちで道路の補修工事をする長野県下條村、現役を退いた男性たちが中心となった千葉県柏市のコミュニティ・カフェ、高校生がまちづくりに取り組む、島根県海士町や長野県飯田市など。最初は「やらされている感」があったものが、自らの意思で動くようになる。どうもそこに鍵があるらしい。

 また、タイトルの「つくる生活」というのは、目に見えるモノをつくるだけではなく、むしろ目に見えない、新しい関係や文化やそのための活動をつくる、ということ。私自身は、目に見えるモノをつくることを念頭に、「作る側の人になる」という話を、子どもたちにしていたけれど、確かに目に見えないことでも、つくることの楽しさは変わらないかもしれない。

 最後に。実は「新しい動き」の事例が紹介されるのは、本書が半分以上も進んだ第3章に入ってからだ。それまでには、高齢化社会の議論とそこから抜け落ちた問題点、「言葉」についての観念的な考察など、様々な論点が提示される。正直に言って、本書の主題との関連性がよくわからない。

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