著 者:塩野七生
出版社:新潮社
出版日:2017年1月25日発行
評 価:☆☆☆(説明)
「ローマ人の物語」の著者による新シリーズの第2弾。読むのが2年ほど間が空いてしまったけれど、「ギリシア人の物語1 民主政のはじまり」の続き。
前作では、スパルタとアテネの成り立ちと、2度にわたるペルシア戦役を描いた。そのペルシア戦役が、前480年のサラミスの海戦、前479年のプラタイアの戦いで、ギリシア諸国が圧勝して終結する。本書はそれから10数年後の前461年に、ペリクレスがアテネを率いるようになった年から始まる。
その時ペリクレスは34歳。若くはあったけれど、家柄と才能に恵まれていた。いくつかのピンチを乗り越え、時にはそれをチャンスに変えて、アテネと、アテネを中心とするエーゲ海諸国の同盟である「デロス同盟」を治めた。対抗するスパルタとペルシアの王が、共に同年代の英明な人物であったことも幸いした。
このペリクレスの死までが第一部「ペリクレス時代」。本のタイトル「民主政の成熟と崩壊」をなぞると「成熟」の部分。とすると、第二部「ペリクレス以後」は「崩壊」の部分になる。著者によると、アテネは50年かけて築きあげた民主政下の繁栄を、半分の25年で台無しにしてしまう。
その第二部は、ペリクレスを代父に持つアルキビアデスを中心にして描かれる。彼も若くしてアテネの指導的立場に立つが、遠征先で本国から告発され、逃亡・亡命、さらに別の場所へと、波乱に富んだ人生を送る。その間にアテネの国力は、そぎ落とされるように弱まっていく。
著者が描く歴史作品はやっぱり面白い。2500年前の出来事が生き生きと感じられる。エッセイなどでの政治的な発言には、私は同意しかねるのだけれど、それとこれは分けて考える。面白いものは面白いし、好きなものは好きだ。
「分けて考える」と言った直後に恐縮だけれど、本書を読んでいて、著者の政治的な発言の背景が垣間見えた気がする。著者は「何かを成した人」を高く評価する。そして「成さずに批判した」人には特別に厳しい。
デマゴーグ(扇動者)が現れて、アテネは「衆愚政」に陥ってしまう。そのデマゴーグの筆頭が、ペリクレスを公金悪用罪で弾劾して名を上げた人物なのだ。現代に置き換えれば「何かを成す人」は政権側の人で、その問題点を追及する野党はデマゴーグ、少なくとも著者にはそのように映っているのではないかと。
最後に。気になった言葉を。「自信があれば、人間は平静な心で判断を下せるのである。反対に、不安になりその現状に怒りを持つようになると、下す判断も極端にゆれ動くように変わる。こうなってしまうと、民主政の危機にはあと一歩、という距離しかない。」
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彼女の政治的な発言は,私もかなり意見が違っていて,作品とどう向き合うか思案のところです(それを感じて以降,多分読んでいません)。
ただ,塩野作品と彼女の政治的な信条は分けて考えやすい(作品の時代が違いますから。それにイタリアなどが舞台ですし)ですね。
「ギリシア人の物語」ですか。ローマ人も興味がありますが,それ以上に興味があります。また塩野作品を読みたくなりました。ただ,長い物語が好きな私でも少し迷うくらい壮大な物語が多いです。
塩野七生さんには「三つの都の物語」のようなものを書いて欲しいのですが。これが3つの都から15都市くらいになっても大歓迎です。
yokkoさん、コメントありがとうございます。
時代も場所も違うのに、それを著者は分けずに考えているんじゃないか?と思われるのが悩ましいところです。著者が大好きなカエサルも、そのまま現代に持ってきたら社会に不適合と見なされるでしょう。
「三つの都の物語」のようなもの。いいですね。私は「コンスタンティノープルの陥落」他のような、戦記ものも書いて欲しいです。
ただ「ギリシア人の物語」は、「ローマ人」とは違って「壮大(すぎる)」ということはないですよ。三部作で完結だそうです。一応「歴史書」の体裁なので、小説作品のようにはいかないですが、それでも「ドラマ」はありますし、おススメします。