著 者:近藤史恵
出版社:新潮社
出版日:2016年6月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
「サクリファイス」シリーズの5作目。日本人選手の白石誓を軸に、自転車ロードレースの世界を、風が感じられるような筆致で描く。ミステリーと人間ドラマも特長。
前作の「キアズマ」は大学の自転車部に舞台を移したもので、その前の「サヴァイブ」はスピンオフの短編集だから、本編とも言える白石の物語は「サクリファイス」「エデン」に続くいて3つ目。時間的には白石がヨーロッパに渡って6年目、「エデン」の3年後という設定。
白石は、フランスバスク地方の「オランジュフランセ」というチームにいる。プロの中では弱小チーム。そこに、ニコラ・ラフォンという若手の有力選手が移籍してきた。ツール・ド・フランスで総合優勝も狙える。白石は「アシスト」で、「エース」のニコラのレースをサポートする役割だ。
物語は、ツール・ド・フランスの約3週間を描く。そのツールにで、5年前にドーピングでレースの世界を去った、メネンコというかつてのスター選手が復活を果たす。レースを前にして、白石はメネンコからある依頼をされそれを受ける。
今回も楽しめた。もっと言えばこれまでの中で最も安定感を感じる。じっくりと作品世界に浸ることができる。それはたぶん、「サヴァイブ」を含めてこれまでに3作の、「白石の物語の蓄積」があるからだろう。
もう少し説明を試みる。ニコラが「エデン」でライバルチームのエースだったように、本作で脇を固める他の選手たちも、多くは前作までに登場して描きこまれている。本作では彼らが、血の通ったキャラクターとして、物語を支えてくれている。
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サクリファイスシリーズ『スティグマータ』近藤 史恵
自転車ロードレースの世界を描いた「サクリファイス」の続編「スティグマータ」
『スティグマータ』あらすじ
自転車ロードレースの本場、ヨーロッパでアシストとして走り続ける白石誓(チカ)。今回は、以前に因縁のあったフランス人エース・ニコラと同じチームで彼のアシストとしてツール・ド・フランスに参加する。一方、日本のチーム・オッジ時代のエース伊庭もヨーロッパのチームで走り始める。
レース前、チカは伊庭から彼と同じチームに所属するかつての英雄・メネンコを紹介される。メネンコは一度、ドーピングでロー…