著 者:今村夏子
出版社:朝日新聞出版
出版日:2017年6月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
本屋大賞ノミネート作品。2017年上半期の芥川賞候補、2017年野間文芸新人賞受賞作。
主人公の名前は、林ちひろ。ちひろが回想する形で、自分が赤ん坊のころから中学三年生までを物語る。家族はサラリーマンの父と専業主婦の母、5歳上の姉の4人家族。
生まれてすぐのころ、ちひろは体が弱かった。生後半年のころに、湿疹が全身に広がって、専門医がすすめる薬も、あれこれと試してみた民間療法も効かない。そんな時に、父の会社の同僚がすすめてくれた「水」が効いた。その水は「宇宙のエネルギーを宿した水」だという。
こんな経緯で、ちひろの両親はその水の効能を信じ、その水を販売する団体の活動に傾倒していく。「集会」とか「研修」に、子どもたちも連れて参加する。物語の後半では、身なりにも構わなくなり、金銭的にも困窮してしまう。
もうお分かりだと思うけれど、ちひろの両親は「へんな宗教」にはまってしまった。奇異な言動が目立つようになって、周囲からは浮き上がってしまうし、ちひろの学校生活や友人関係にも影響を与える。
読んでいる間中、不穏な思いがして落ち着かなかった。不穏な出来事なんて、ほとんど起きていないにも関わらずだ。子どもの視点で描かれていて、その眼には、いたって普通の暮らしが映っている。「何かおかしいな」と思うことはあるけれど、自分の家族のことしか知らないのだから、それが「普通」だ。
読者は、ちひろの目を通して描かれる「普通」を読んでも、その外やその先にある出来事を想像してしまう。だから不穏な思いがするのだ。その意味では、主人公の子供のころの回想という物語の形が、とても効果を発揮している。著者は敢えて描かないことで、不穏な出来事を読者自身に描かせた。技あり。
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