家康に訊け

書影

著 者:加藤廣
出版社:新潮社
出版日:2019年2月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者の加藤廣さんは、2018年4月に亡くなっている。合掌。本書は遺作であり最後の作品。

 こんな自由な物語をもっと読みたかったなぁ、と思った本。

 本書は2部構成。第1部は、「信長、秀吉、家康のうち、現代日本の難局を乗り切るなら、誰に舵取りを託せばよいか」という観点から、「それは徳川家康をおいてありえない」とする、表題作の評論「家康に訊け」。第2部は、福島正則の元に強者が集い、徳川の刺客と相対する伝奇小説「宇都宮城血風録」。

 第1部は、家康の歩んできた道を幼少期から振り返り、古文書をひもときながら、その人となり武将としての資質を明らかにする。信長は「じっくり待つ姿勢が欠けている」「屈辱に対する耐性が備わっていない」からダメ。秀吉は「晩年判断力が低下」「朝鮮半島への拡張路線が大日本帝国が進んだ道とピタリと重なる」からダメ。家康を選択した理由が消去法のようで、ちょっとどうかな?と思うけれど、まぁそれば不問に。

 面白かったのは第2部。時代は元和五年、大坂夏の陣から4年。「賤ヶ岳の七本槍」に数えられた福島正則も、徳川の世になって勢力を削がれ、この度は将軍秀忠に謀反の疑いをかけられ、信州の小領地へ国替えとなった。物語は福島正則が、新領地へ向かう途中で、徳川が放った忍者集団に襲われる場面から始まる。

 こういう危機に、何処からともなく味方が現れて助成する。「おぉあれはかの有名な○○殿でござらぬか!」てな調子で仲間に加わる。まずは、加賀の前田家に仕える重臣と配下の美剣士、次に、仙台の伊達家の剣客と忍者集団。それを率いるのは...なんと、真田幸村の三女、阿梅!もちろん真田の忍者もいる。

 あぁこれはこういう物語だったんだ。史実なんて置いといて「こうであったら面白いな」という娯楽優先の物語。この手の話に覚えがある。大正時代の少年たちの絶大な人気を博した「立川文庫」というシリーズ。何冊か読んだけれど、荒唐無稽な筋書がめっぽう面白かった、あの感じが蘇った。著者がこんな物語を描くことを知らなかった。もっと読みたかった。

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