岸辺のヤービ

書影

著 者:梨木香歩
出版社:福音館書店
出版日:2015年9月10日 初版発行 11月5日 第3刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「生きる」ということは悩ましい、それでも素晴らしいことだ、と思う本。

 梨木香歩さんが描く児童文学。川の蛇行の後にできたマッドガイド・ウォーターという三日月湖が舞台。主人公はハリネズミに似た不思議な生き物、クーイ族のヤービ。ヤービたちが「大きい人たち」と呼ぶ、人間の「わたし」の語りで物語が進む。「わたし」は、マッドガイド・ウォーターにある寄宿学校のフリースクールで教師をしている。

 冒頭に「わたし」とヤービの出会いが描かれていて、これで「わたし」がどんな人なのか分かる。マッドガイド・ウォーターにボートを浮かべて本を読んでいる時。ミルクキャンディーを口に入れようとしていた時に、目と目があって、手に持ったキャンディを差し出した..。心豊かで優しい、でも慌てると自分でも思わぬ大胆なことをしてしまう。そんな人。

 ヤービの方はクーイ族の子どもで男の子。虫めがねで花粉やミジンコを観察して「帳面」に書き留めるのが好き。ヤービのひいおじいさん(グラン・グランパ・ヤービ)は、博物学者だったらしく、ヤービはその血をひいているのだろう。つまりは好奇心旺盛で感性も豊か。

 物語はヤービと、いとこのセジロ、クーイ族の別の種族のトリカ、の3人を、ちょっとした冒険を交えて描く。これが思いのほか様々なテーマを含んでいる。家族のあり方、親戚のあり方、仕事のあり方、環境の変化、そして「他の命をもらって生きる」ということ...。

 ちょっと重めのテーマもあるけれど、ちゃんと子どもの心に届く物語になっている。私は子どもではないので、本当のところは分からないけれど、そう思う。「トムは真夜中の庭で」とか「床下の小人たち」とか「ナルニア国物語」とか、海外の児童文学の古典を読んでいるような気持ちになるから。それは、小沢さかえさんの絵によるところも大きい。

 私が子どものころに夢中で読んだ「コロボックル」シリーズのことも思い出す。

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