教育格差のかくれた背景

書影

著 者:荒牧草平
出版社:勁草書房
出版日:2019年8月20日 第1版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 昨今メディアで「教育格差」や「教育格差の固定化」が話題になることがある。教育格差とは「生まれ育った環境により受けることのできる教育に格差が生まれること」。これまでは「環境」として、「親の収入や学歴、職業」という「核家族の範囲内」に限定して議論されているが、もっと広い範囲で「環境」を捉えなければいけないのではないか?ということが、本書の問題提起。

 その「広い範囲」がサブタイトルにもなっている「親のパーソナルネットワーク」。具体的に言えば、「親戚」「友人」「知人」といった人々のこと。祖父母やオジオバ、キョウダイ、ママ友、職場の同僚、等々。本書では、これらの人々の影響がどの程度あるのか?を調査データで検証する。※長幼や性別で漢字が違う続柄はカタカナで表している。

 興味深い結果が導き出された。「世帯年収」や「親の学歴」よりも、「親戚・友人・知人の学歴」「周囲の高学歴志向」の方が、母親の高学歴志向に与える影響が大きい。なお、本書では、データとして使う「子育てに関する調査」に母親が回答していることが多いため、途中から「母親」に焦点を当てた考察になっている。

 もちろん「世帯年収」や「親の学歴」も学歴志向と関連する。しかしそれは、年収や学歴によって「親のパーソナルネットワーク」を構成する人々の属性が異なることに起因する。つまり、「世帯年収」や「親の学歴」は、学歴志向に直接的に関連するのではなく、「友人や知人の選択」を通して間接的に関連すると、本書では見ている。

 実は私は、「教育格差のかくれた背景」として「地域差」についても書かれているかと期待して読んだのだけれど、それについては何も言及がなかった。そのことを別にすれば、考察自体は「そうかもな」と思うものだった。大学への進学の有無について身の周りのことを考えれば、「世帯年収」が大きな要因になっているようには思わない。また、私の父は国民学校卒、今で言えば中卒だけれど、私は大学に行かせてもらった(本当に「身の周り」の一例で恐縮だけれど)。

 補足。本書の考察の目的は、教育格差の解消の有効な政策立案のために、そのメカニズムを明らかにすること。貧困問題と絡めた、「収入」に焦点を当てた現在の政策では不十分ではないか?という疑問への答えを導くことだ。

 その結果「収入」よりも「ネットワーク」ということが分かったわけだけれど、本書には足りない視点がある。本書では「学歴を選択できる」ということが暗黙の了解で、「選択できない層がある」という視点がない。ここに着目すればやはり「ネットワーク」よりも「収入」、ではないかと思う。

人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

2つのコメントが “教育格差のかくれた背景”にありました

  1. kazu

    ー「ネットワーク」よりも「収入」、ではないかと思う。ー
    私も同感です。
    労働力の価値のきまり方には三つの要素があります。
    ①労働力の再生産費用
    ②家族の養育費(もちろん教育費もふくまれます)
    ③労働力の訓練費
    現在の社会では労働力の価値が引き下げられています。
    そうであれば、②も引き下げるしかないでしょう。
    働き方か改革で「同一労働同一賃金」が施行されますが、
    その一方で成果主義賃金が導入されようとしています。
    そうなれば、ますます労働力の価値は引き下がるばかり。
    よって、そのしわ寄せも子供たちに。
    シングルマザーの子供たちも大変ではないかと思われます。

    1. YO-SHI Post author

      Kazuさま、コメントありがとうございます。

      この労働力の価値の規定は、マルクス経済学の考え方ですね。
      不当に価値が引き下げられれば、(家族の養育を含めた)労働の再生産さえできないわけで、剰余価値の搾取どころの話ではなくなりますね。
      いや「なくなりますね」ではなくて、現実がすでにそうなっている。ひどいものです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です