キネマの神様

書影

著 者:原田マハ
出版社:文藝春秋
出版日:2011年5月10日 第1刷 2020年2月25日 第32刷
評 価:☆☆☆☆(説明)

 何冊も読んで大好きな原田マハさんだけど、まだまだこんな素晴らしい作品があったんだ、と思った本。

 主人公は39歳の円山歩。独身。彼女は、国内有数の再開発企業(デベロッパー)の社員で、文化・娯楽施設担当課長に抜擢されて、シネコンを中心にした巨大再開発プロジェクトの実現に邁進していた。「いた」と過去形なのは、この物語が始まる2週間前に会社を辞めたからだ。辞めて次のあてはない。

 2週間前にはもう一つの出来事があった。歩の父のゴウが心筋梗塞で入院した。ゴウは79歳でマンションの管理人をしている。近所の雀荘で丸二日ぶっ通しに麻雀をして、ふらふらになって帰ってきた直後に「なんだか胸がちくちくするんだ」と言って病院に行ってそのまま入院。

 本書は、ゴウと歩の父娘の物語を歩の視点で温かく描いていく。二人の共通点は「映画が大好き」ということ。歩が管理人室の押入れで見つけた「管理人日誌」という名の、父の「映画日誌」、びっしりと書かれた200冊以上のノートが起点となって、物語が動き出す。最初は母も含めた3人だけの物語。そこに名画座の支配人が加わり、映画雑誌の編集長が加わりと、外側に広がるらせんのように、エピソードを重ねるたびに世界が広がる。

 ちょっと私自身のことを。ゴウと歩の父娘に比べると恐れ多いことだけれど、私も「映画が好き」だ。話題作を中心にそれなりの数の映画を観てきた。映画館からは足が遠のいた時期もあるけれど、近くにシネコンができ、休館していた古くからの映画館が復活して、休日の過ごし方に「映画を観に行く」が加わった。「話題作」でなくても、いい映画、面白い映画はたくさんあった。

 そういう私にとって、強い親しみを感じる作品だった。ゴウが書いた「映画評論」は、ちょっと時代がかっていて(一人称が「小生」)長めなんだけれど、とても読みやすく引き込まれた。本書は、「映画が好き」という人は、心に沁み入ると思う。「ニュー・シネマ・パラダイス」と聞いて、「あぁあれはいい映画だったな」と思う人は特にそうだ。

 最後に。本書は、志村けんさんをゴウ役でダブル主演の一人として映画化されて、今冬公開予定だった。志村さんが新型コロナウイルス感染症で亡くなられ、志村さんと親交のあった沢田研二さんがゴウ役を務めることが決定。来年公開を目指して調整中。

 みなさんとこの映画に、映画館にいらっしゃるという「キネマの神様」の祝福を。

映画「キネマの神様」公式サイト

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