逆ソクラテス

書影

著 者:伊坂幸太郎
出版社:集英社
出版日:2020年4月30日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

読み終わって「これは伊坂さんの新境地かもしれないな」と思った本。

著者の伊坂幸太郎さん自身が「デビューしてから二十年、この仕事を続けてきた一つの成果のように感じています」とおっしゃっている最新刊。「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンシップ」「逆ワシントン」の5編を収めた短編集。

主人公はどの短編も小学生男子(その後成長するパターンもあるけど)。伊坂さんの作品は、これまでも若い男性が主人公だったけれど、20代、30代が中心で、大学生、高校生の場合が少し。小学生が主人公なのは初めてのことなので、戸惑いもあり期待と心配が半々で読み始めた。

そして心配は早々にどこかに行ってしまった。表題作で最初に収録された「逆ソクラテス」の、主人公の小学校6年生の加賀くんと友達の安斎くんの会話を紹介する。

安:どこにでもいるんだよ。「それってダサい」とか、「これは恰好悪い」とか、決め付けて偉そうにする奴が
加:そういうものなのかな
安:で、そういう奴らに負けない方法があるんだよ
安:「僕はそうは思わない」
加:え?
安:この台詞

「僕はそうは思わない」はパワーワードだ。誰かの価値観を押し付けられそうになった時に、口に出してみる。難しければ心の中で思うだけでもいい。それで閉塞が解かれて開く視野や可能性がある。他の短編には必ずしも出てくるわけではないけれど、この閉塞から解かれる感覚は本書全体に通じる。

伊坂作品と言えばこういう「気の利いたセリフ」も魅力なのだけれど、それを小学生が言ったらどうだろう?ちょっと嫌味じゃないか、と思うかもしれない。でも、安斎くんはそういうことを感じないキャラクターにちゃんとなっている。さすが伊坂さんだ。

小学校は社会の縮図だ。中学より上の学校と較べても、さらにそうだ。都会は別にして、どんな階層のお家の子どもも同じ学校に通う。大人の世界にある理不尽は小学校にもある。逆もまた然りで、本書の中の小学校にある理不尽は大人の世界にもある。

この本を読んでから10日あまり。私はすでに2回も「私はそうは思わない」を使った。

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